Culture 連載
Dance & Dancers
ロパートキナとコンダウーロワ、夢のバトルにうるうる、
マリインスキー・バレエ来日公演初日レポート
Dance & Dancers
いよいよマリインスキー・バレエ来日公演の幕が開けた! 初日の11月15日を飾ったのは、世界の至宝、と謳われるウリヤーナ・ロパートキナ主演の『ラ・バヤデール』!!
私にとっては演目、主役陣どちらをとっても夢の様な舞台!!
◆わくわく、ドキドキ、の初日開幕!!。
『ラ・バヤデール』は、"好きなクラシック・バレエ作品は何ですか?"と聞かれたら必ず迷いの3本の指の中に入ってしまう作品である。まず、音楽がとても好きだ。そしてエキゾチズム溢れるストーリー設定、個性的な色付けをされた振付も心揺さぶられる。たとえ徹夜明けでも体調不良でも、"うっかり寝てしまった"などということが起こりえないくらい、惹きつけられる作品である。...もしもこの作品を観て私が寝たら、そのバレエ団はイケテナイ、、、ということになるかも。
そんな"大好きな"作品を、大好きなダンサーであるウリヤーナ・ロパートキナのニキヤと、エカテリーナ・コンダウーロワのガムザッティで観てしまったんだもの!!!
巫女のバヤデールは戦士ソロルと恋仲なのだが、ソロルは領主に「うちの娘の婿にならんかね」と言われる。勇猛果敢な男というものは同時に野心家・女好きであるのは世の常らしく、ソロルはその地位にくらっ、領主の娘ガムザッティの美貌にふらっ! 良心の入り込む隙もなく、あれよあれよと婚約が調ってしまうのである。
一方、お嬢様育ちの領主の娘・ガムザッティは、箱入りであるからにして、恋愛なんて知らないのである。でいきなり引合された相手が絵になるイケメン戦士!! 一目ぼれしてしまうのも無理は無かろう。
写真:Natasha Razina
◆史上最強の、女のバトル!!!
優柔不断なソロル......を演じたコルスンツェフ、憎み切れないろくでなし、でした。しかし、ここでいきなりお嬢様に試練です。「えっ、、ソロルさまに恋人が!?」。結婚に夢を膨らませていたガムザッティお嬢様、いきなり谷底に叩き落されるの巻。
そのあと、ガムザッティがニキヤを呼び出してのひと悶着はこの作品の名場面の一つである。
私は今までこの場面に接すると、ガムザッテイって高飛車な、嫌な女だなー、って思っていた。だがしかしこの日のコンダウーロワのガムザッティには思わず、同情してしまった。「だってあなただって、幸せになりたいのよね。結婚って愛の夢なのだものね。そして自分と結婚すると言ってくれた彼を、信じたいわよね...」。ガムザッティだって十分に辛くて悲しいのだ。
そしてもちろん、ロパートキナのニキヤは、命がけでガムザッティに挑みかかる。その表現力の凄さと言ったら...
ロシア人の表現力はとても情熱的だと以前から思っていたけれども、この場面の女のバトルはどちらもまさに"真剣勝負"の気迫。ふたりとも手足が長く、エキセントリックな顔立ちの美女であるだけに、物語を超えたリアリティすら感じられ...
泣きました。
◆ガムザッティだって幸せになりたいのだ!
休憩をはさみ2幕目は、ガムザッティとソロルの結婚式!!
バレエってこういうところがいいのだけれど、物語の主軸とは別の時間があっけらかんと美しく、踊りになって流れるのだ。お祝いの踊りの数々が、さまざまなキャラクターと舞踊のスタイルで繰り広げられ、客席にいるこちらもさきほどまでのニキヤとガムザッティのどろどろ...なんて忘れてしまう。
名場面の一つに"ブロンズアイドル(金の仏像)"がある。
そして舞姫たち(バヤデルカ)の踊りは、美しく軽快な音楽と振付が素晴らしい。私などはいつも、客席で身体が勝手に動いてしまう。
...そして。とっても好きなのが太鼓の踊り!! あんなに手足を自由に使えたら、身体が喜びそう!!
そして真打登場、のガムザッティとソロルの踊りである。この振付はコンクールなどにもよく使われることからも分かるように、テクニックとバレエ・ダンサーとしての魅力の両面が問われる場面。コンダーロワのそれは、もうきらっきら!!
でも、ガムザッティは、幸せな自分を"演じて"いるのである...ということを今回のコンダウーロワのガムザッティで、感じた。自分の幸せを強調するようにあえて、気高く踊るのである。もともと気位が高いからではなくて、そうせずにはいられない女心なのだ。...これはあくまで私の発見であり見解に過ぎない。けれども何度もこの作品を観てきて、こんなとを感じさせてくれたのは、コンダウーロワのガムザッティが初めてだった!!!
『アンナ・カレーニナ』に主演する、ウリヤーナ・ロパートキナ 写真:Natasha Razina
◆したたるような情念、ロパートキナのニキヤ
そしてやはり、ロパートキナの演じたニキヤがすごかった。
1幕で巫女として踊るときは、神秘的で透明感がありどこか近寄りがたくけれどもやわらかな身体の動きで魅了する。しかしソロルと踊るととたんに、その柔らかさが透明感を脱ぎ捨て、恋する女の悦びの色をまとうのだ。
そして見せ場である2幕の"恨み節"(少し前にこのコラムで書かせていただいたのですが、捨てられたわが身を哀しみ、ソロルを想い、ふたりを恨みながら踊り毒蛇にかまれる)。である。私が恨み節、と言うのは多くの主役陣がそうした泥臭い表現をするからなのだが、ロパートキナのニキヤはやはり違った!! その動きはとても抑制が効いて、巫女であるという自分の運命を受け容れているのだ。しかしそれでも、持て余す感情が抑制された動きからにじみ出ているというような、いつの間にか肌を覆っている汗の様な、ひたひたとした感じ。静の中の動、とでも言えばよいのだろうか。
床に吸いつくようなステップ、尾てい骨から伸び宇宙にまで伸びていくかと思わせるのような腕の使い方。その身体の質感に、途方もない哀しみと執念を感じて、ここでもまた涙、涙...。
とくに、ニキヤの後半のソロ、アップテンポになり腰をくねらせて踊るステップは、踊り手によってはニキヤご乱心!のエキゾチズムばかりが強調されてしまいがちなのだけれど、
ロパートキナのニキヤは違った。哀しみ、恨み、それでもあきらめられないソロルへの恋情、そうした想いが身体の中でふつふつと湧いて、抑えても抑えても身体を内側から律動させてしまうのだ。
そして、大僧正(ウラジミール・ポノマリョフ)の演技が、めちゃくちゃエロジジイ、で、物語にすごく意味を与えていた! 大人のバレエだ!!
そして、奴隷役のアンドレイ・エルマコフもよかったな〜
◆ああっ、美脚軍団の群舞!!
続く三幕は、珠玉のコール・ド・バレエ(群舞)。
心を病んだソロルの夢の中に現れるニキヤと精霊たちの踊り。この精霊たちの群舞が素晴らしいのだが、マリインスキーはさすが選び抜かれたダンサー集団だけあり、シンプルなステップ、ポーズのひとつひとつがいちち嘆息したくなるほど美しく、それが30名を超える群舞でぴたりと揃った瞬間などは鳥肌モノ。とくに、長く美しいレッグラインの行列は、美術品を鑑賞するのに値する。私は、精霊たちの群舞、通称"影の王国のコール・ド"を観るためだけでも、チケットを買う価値があると思っているくらいである。そしてこの場面の音楽の美しさ...。『ラ・バヤデール』は全編に散りばめられた多彩な音楽も、魅力の一つである。
写真:Natasha Razina
◆キャスト変われば見え方も変わる、これがバレエの面白さ
さて。次回私は、コンダウーロワが演じるニキヤでこの『ラ・バヤデール』を鑑賞する予定。知的で美しいコンダウーロワがガムザッティからどんなニキヤに転身するのだろう...もう想像するだけでわくわく!!
そしてロパートキナは『白鳥の湖』『アンナ・カレーニナ』の両方を鑑賞予定。世界の至宝が、来日演目の全てを主演してくれるなんて、こんな機会を逃すのはもったいない限りだ。
また、バレエ団の若手オクサーナ・スコーリックとウラジーミル・シクリャローフのフレッシュな『白鳥の湖』にも期待している。ベテランにはない、若さゆえのエネルギー、伸びやかさに触れられそう。
11月15日初日の帰り道、近所の酒屋でボージョレーを開けての立ち飲みパーティにふらりと立ち寄り、感動の余韻とともにワインを味わい、今にも踊りだしてしまいそうにゴキゲンになってしまった...
『白鳥の湖』11月17日(文京シビック 大ホール)、20日(府中の森劇場どりーむホール)、27日、29日(東京文化会館)
『ラ・バヤデール』11月15日(文京シビック 大ホール)、24日、25日、26日(東京文化会館)
『アンナ・カレーニナ』 11月22日、23日(東京文化会館)
料金/S席¥22,000(平日¥21,000)、A席¥19,000(平日¥18,000)、B席¥15,000、C席¥13,000、D席¥9,000、E席¥5,000 ※3演目セット券/S.A.B 3演目の通常価格より¥3,000引きでご優待
お申込み/ジャパン・アーツぴあ ☎03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp