その名も「ジャポネ」。リナーリの新しい香りの魅力とは?
Beauty 2019.09.24
各国の王侯貴族に愛好され、ラグジュアリーホテルでも使われる、高級ルームフレグランス「リナーリ」から、日本をテーマにした香り「ジャポネ」がこの秋登場。来日したレイナー・ディエシェCEOに、新しい香りと日本に対する想いを伺いました。
レイナー・ディエシェ/Rainer Diersche
1967年、ドイツ・ハンブルグ生まれ。大学でプロダクトエンジニアリングと建築を学びながらモデルとして活躍。卒業後インテリアセレクトショップを運営し、「素敵な空間には素晴らしい香りが必要不可欠」との思いから、2003年ルームフレグランスブランドLINARI(リナーリ) 社を設立。プロダクトデザインのすべてを手がける、CEO兼デザイナー。
―― 最新の香り「ジャポネ」について教えて下さい。
“日本の方が好む香り”を追求しました。トップはカラブリアンベルガモットやピーチがフルーティに香り立ち、次第にトルコローズやフリージアなど甘美な花々と調和していきます。それらすべてをサンダルウッドやシダーウッドがやさしくまとめ上げる、透明感の際立つフルーティフローラル。“やりすぎない”あくまで上品な香り立ちは、日本の方の嗜好に合うと思います。
――「ジャポネ」という名前ですが、日本の素材が使われていないのはなぜですか?
確かに、緑茶やヒノキなど、日本を象徴する香料はたくさん存在しますね。それらも大変魅力的ですが、今回は私の中にある“日本のイメージ”を表現したかった。そして何より、日本の方に愛される香りを作りたかったんです。
―― レイナーさんが持つ「日本のイメージ」、とても気になります……!
いろいろありますが、まずは“庭園と花々”です。私が住んでいるドイツのハンブルグには日本庭園があって、四季折々の花々が目を楽しませてくれるんです。私が訪れた時は、満開のつつじが枯山水と調和して、とても印象的でした。そして、来日時に出合った“桜”の美しさも忘れられない。私の中で日本の印象は“花々”と結びついているんですね。
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―― そんなイメージを、調香師にどのように伝えるのですか?
ジャポネの場合は、フローラルを基調に少々フルーツを入れてほしいと伝えました。そして、ピンクと白の世界観を表現してほしいということも。頭の中には常に香りのイメージやストーリーがあって、調香師とは必ず直接やり取りをして共有します。具体的に香料を指定する場合もあれば、イメージだけ伝えて自由に調香してもらう場合もある。ジャポネの場合は後者ですね。今回はエミリー・コッパーマンが担当し、彼女はイメージどおりの香りに仕上げてくれました。
日本のデザインの真髄であるシンプルモダンなボトルに、透明感の際立つフルーティな花々の香りを閉じ込めて。現代的なインテリアにも伝統的な和室にも合う香り。リナーリ ルームディフューザー ジャポネ 500ml ¥21,600/ブルジョン
―― フレグランスとルームフレグランスの調香に違いはありますか?
フレグランスの場合は、それを纏う相手を具体的にイメージします。男性なのか、女性なのか、どんな服を好むのかなど、よりパーソナルな部分をね。ルームフレグランスの場合は、発想がまったく違うんです。まずは男女問わず心地よいと感じる香りであること。そして最も大切なのは、その香りと暮らしていけるかということです。
――「香りと暮らしていく」、素敵な表現ですね。
フレグランスが持続するのは、だいたい6~7時間でしょう? いっぽうでルームフレグランスは6カ月以上、常に生活の場で香るものです。帰宅したらあなたを迎えてくれて、いつの間にかあなたの “家そのものの香り” になる。普段は意識しなくても、なくなった時に「この香りがないと落ち着かない」と思える存在であってほしい。だから、リナーリには香水とほぼ同じ品質の香料を使用し、奥行きのある上品な香りにこだわっています。そして室内と調和するデザインであることも大切です。
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―― デザインは、レイナーさんご自身が手がけているとか?
パッケージやボトルのデザインはすべて私の担当です(笑)。ジャポネのボトルに採用したグレーの素材は、コンクリートからインスパイアされています。先ほど日本の印象は“庭園と花々”と言いましたが、初めて東京を訪れた時、コンクリートのモダンな建築群に圧倒されたんです。このマットなグレーは、どんなインテリアとも調和する色でもあります。それから、日本では生活のあらゆるシーンに木の素材を取り入れているでしょう? 障子や床の間、お盆や箸なんかもそう。だからボトルのキャップには、温もりのある木の素材を採用しました。ロゴの円は筆を用いて描いています。習字みたいにね。円は日本の国旗のイメージでもあり、来年日本で開催されるオリンピックのメダルのイメージでもある。アスリートへの敬意を表し“ゴールドメダル”のようにシックな金を選びました。
―― 香りやデザインのインスピレーションはどんなところから得るのでしょう?
世界中を旅しているので、訪れた土地のあらゆるシーンから。一緒にいるスタッフに「レイナーはなぜこんな場所で立ち止まるの?」と、いつも不思議な顔をされますよ(笑)。建築はもちろん、食事に出てきたもの、街中で見つけたものなど、あらゆるところにアイデアがあふれている。そういえば、リナーリの “ウェーブライン” のデザインは、日本のお菓子にヒントを得たんです。
―― 日本のお菓子? それはちょっと意外な気が……。
デパートで買ったお菓子の包みが美しくて、紙の質感や、流れるようなデザイン、手触りも含め、とても印象的だった。あらゆるものに通じて言えることですが、日本のプロダクトはディテールに配慮があって、とても興味深いですね。
お菓子の包み紙との出合いからデザインが生まれたという“ウェーブライン”より。シトラスとグリーンティーの凛とした空気に、ローズやオーキッド、ジャスミン、スミレの花々が可憐に咲き誇り、ホワイトムスクが優しさで包み込む。リナーリ ルームディフューザー ノービル 500ml ¥19,440/ブルジョン
―― 日本独自のディテールとは、具体的にどんなことでしょう?
たとえば、大都市であるニューヨークやドバイに行くと、東京同様にビルが立ち並び、都市特有のエネルギーにあふれています。そのいっぽうで、街全体の印象が無機質でもある。東京はというと、都市の中に心がある……と言ったらいいのかな。すべてに何かの理由があるんです。道案内の矢印ひとつ、包みのデザインひとつ、些細なことにも「わかりやすいように、使いやすいように」という配慮を感じる。日本人の繊細な心遣いでしょうね。そういう意味で、日本は私に貴重なインスピレーションを与えてくれる国です。
texte:NAMIKO UNO