体外受精の実施件数は世界一の日本、でも出産率は?

Beauty 2021.03.08

文/山口華恵(翻訳者、ライター)

私が不妊治療を行っていたのは約10年前にさかのぼる。当時30代前半だった私の、まだ若いからきっとすぐに妊娠できるだろうという楽観的な当初の予想に反し、5年の月日を費やし、金銭的、身体的な負担と先の見えない不安が限界を迎えようとしていた時、6度目の体外受精でようやく妊娠。無事、出産に至った。それでも幸運だったと言わざるを得ない。

日本の体外受精の実施件数は、世界一の約45万件(2018年、日本産科婦人科学会)。だが、卵子凍結の一般向けサービス「Grace Bank」を開始した株式会社グレースグループが先頃行ったプレスカンファレンスでも、その出産率が世界最下位グループに属するという事実に触れられた。

日本の体外受精実施件数は世界一、でも体外受精1回あたりの出産率は?

「CDC ART Report 2017」の情報をもとに日本産科婦人科学会が公表している同年のデータを照らし合わせると、20~30代女性の人口比で日本の体外受精実施数は2位のアメリカに約5.8倍もの差をつける、世界最大の不妊治療大国ということになる。けれど、世界各国の生殖補助医療の実施状況をモニタリングしている組織「国際生殖補助医療監視委員会(ICMART)」が2016年に発表したレポートでは、出産率は最下位グループ。アメリカでは体外受精のおよそ4回あたりにひとりが誕生するというが、日本は8~9回あたりにひとりという数字に留まっているという。

210224_iStock-1167978175.jpgphoto:iStock

かつて、10年ほど海外で暮らした私個人の経験からも日本の保険制度や医療へのアクセスの素晴らしさは身をもって感じたし、医療専門誌「ランセット」が行った調査でも、日本の医療の質の高さは世界195カ国中で11位、またG7諸国の中で最上位にランクされていたにもかかわらず。

調べてみると、出産率が低い理由はひとつではないが、海外では排卵誘発剤を使った高刺激による刺激周期が主流な一方、日本では自然に排卵される卵子を採卵する自然周期(低刺激)が好まれるなど体外受精の治療方法の選択にもあるようだ。また卵子提供も一般化されていないし、一度に移植する胚の数も限られている。そして、国や自治体の助成も含めた社会的、経済的な負担も欧米諸国とは異なる。いま日本で体外受精を行っている患者の多くは、30代後半から40歳をピークに40代前半の女性たちであり、妊活を始める年齢などにも差があるようだ。

日本でも体外受精のための助成条件が変わり(回数、助成額や所得制限)、2022年4月からは公的医療保険が適用される見通し。私が治療を行っていた約10年前よりも確実にインターネットやSNSを通じて情報も収集しやすい。

いまは子どものことを考えていなくても、自分の将来やパートナーとの未来のため、先の人生に備える選択肢を知っておくことで、将来かかる費用・時間・心身への負担に大きな差が開くかもしれない。

山口 華恵 HANAE YAMAGUCHI
つくば在住の翻訳者、ライター。10年の海外暮らしを経ていま一度、日本の暮らしを満喫中。趣味は自然散策とアウトドアレジャー。

texte:HANAE YAMAGUCHI

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