ケトジェニックダイエットは身体に悪い?
Beauty 2021.06.16
高脂質な食事を摂取するため、多くの専門家の間で意見が対立しているケトジェニックダイエット。本当のところはどうなの? 効果はあるの? それとも危険? 専門家らがポイントを教えてくれた。
ケトジェニックダイエットは、専門家の中で意見が分かれている。photo: Getty Images
バター、クリーム、ハムやソーセージの摂取はOK...ほとんど夢のような話だ。高脂質、高タンパク質な食事を摂取し、炭水化物をほぼ抑えるケトジェニックダイエットは、新たなフォロワーたちを惹きつけている。
しかし、ケトジェニックダイエットは新しいものではない。これは、1920年代、米国のラッセル・ワイルダー博士が提案した食事法で、糖質の摂取を禁じるデュカン・ダイエットやローカーボ(低炭水化物)ダイエットに似ている。
ケトジェニックダイエットの主な目的は? てんかん患者の治療に用いられる。2013年以降、ケトン食療法の研究と書籍がブームになり、ほかにもさまざまな利点があることが知られるようになった。
しかし、厳しい食事制限を伴うそのダイエットのリスクに警鐘を鳴らす一部の専門家もいる。管理栄養士のジャン=ミッシェル・ルセルフ(1)、てんかん専門医のステファン・オーヴィン (2)、管理栄養士のアレクサンドラ・ダル (3)、栄養士のマガリ・ウォーコウィッツ(4)らが、物議を醸しているこのダイエット法について語った。
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多くの論点
ケトジェニックダイエットは、炭水化物の摂取量を減らすことで有名で、それがプラスに作用すると言われている。「糖質は少なければ少ないほどいい」とアレクサンドラ・ダル。「このダイエットで多く取り入れるオメガ3などの良質な脂肪も、優れた天然の抗うつ剤であり、筋肉や骨を保護します」
炭水化物の摂取は1日あたり最大 60 グラム (つまり、1日に消費されるカロリーの6%) まで可能だが、このダイエットは、いわゆる「バランスのとれた」食事とはかけ離れている。ANSES(フランス食品環境労働衛生安全庁)は電話インタビューで、このダイエットは、1日あたり5種類の果物と野菜を摂取するよう推奨している同庁の基準にはまったく対応していないと強調する。
ジャン=ミッシェル・ルセルフは、この食事法が欠乏症や健康問題につながる可能性を指摘する。「脂肪と悪玉コレステロールの増加により、心血管のリスクにさらされるだけでなく、糖質不足は低血糖と筋肉疲労を引き起こすため、運動中の効率も低下させてしまいます」。脳が機能するには実際に1日あたり140グラムのブドウ糖が必要であり、それがない場合、肝臓は筋肉のアミノ酸 (=タンパク質) をブドウ糖に変換する。
ステファン・オーヴィンは、制限の非常に厳しいケトジェニックダイエットについて、次のように意見する。「カルシウムやビタミン D などの要素を排除すると、骨密度やミネラル不足に陥ります。さらに、酸性度の非常に強いケトン体は、骨折のリスクを高めます」
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急速な減量
確かに、このダイエットで体重を減らすことができる。その理由を理解するには、この食事療法を実践した場合、身体の中で何が起こるかを知ることが不可欠だ。
「ケトジェニックは、”ケトーシス”という言葉に由来しています。ケトーシスとは、糖分が不足したの身体の自然な反応です。」と医師のアレクサンドラ・ダルは説明する。私たちの身体は、糖質が不足すると、代わりに脂肪を燃料にする。すると体内では“ケトン体”と呼ばれる老廃物が生成され、身体は“ケトーシス”状態に入る。結果、脂肪をエネルギー源とするこの新たなシステムのおかげで、体重が減るだけでなく、食欲が抑制されるという。
「脂肪は非常にエネルギーが多いので、すぐに満腹感を感じます。したがって、私たちは食べる量が少量でも満足できるのです」と栄養士のマガリ・ワルコウィッツは語る。
しかし専門家らは、この食事方法が体重を減らすためではなく、健康改善のために考案されたものだと強調する。「体重を減らすためにこの食事法を用いても、短期的にしか効果はありません。炭水化物を摂取すると、すぐに身体が反応し、すべてを脂肪として蓄えてしまいます」とジャン=ミッシェル・ルセルフは指摘する。
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ダイエット、それとも食習慣の見直しとして?
ケトジェニックダイエットを柔軟に取り入れることは、食習慣の見直しにつながる。 photo : iStock
厳密にケトジェニックダイエット行う場合には、ニンジンやビーツなど糖質の多い野菜を含め、すべての糖質を排除するが、より柔軟に取り入れる場合は、リンゴ一切れやプラム、豆類などの摂取が認められる。そのため、一部の専門家たちは、柔軟な方法を採用することを推奨している。
「地中海式ダイエットと同様、砂糖やジャンクフード、ジュースや炭酸飲料の消費が抑えられます。また、オーガニックの卵、良質の肉、いわしなど、『良質な脂肪の量だけを増やします。豆類はでんぷん質の代わりになるので、一日中持ちこたえられる。つまり、完璧にバランスの取れた食事なのです」とアレクサンドラ・ダルは説明する。
一方、厳格なケトジェニックダイエット行う場合は長期的なリスクがある、と専門家たちは警鐘を鳴らす。「タンパク質と脂肪の過剰摂取は健康に悪影響を及ぼし、食物繊維も十分に含まれていません。したがって、それを補う栄養補助食品を摂取する必要があります」とジャン=ミッシェル・ルセルフは強調する。
知っておきたいこと:ケトジェニックダイエットを実践する前には必ずかかりつけ医に相談しよう。たとえば、腎臓結石を患っている場合、この食事法を採用することはお勧めできない。ケトン体の生成には健康な腎臓が必要だからだ。
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特定の病気の予防
オリンピック選手のような身体づくり、疲れの軽減、アンチエイジングなど、ケトジェニックダイエットには多くの利点があると言われている。しかし現実には、特定のケースを除き、実証されているものはない。「このタイプの食事法で認められている唯一の適応症は、薬物治療に耐性のあるてんかんです」と、栄養士のジャン=ミッシェル・ルセルフは指摘する。
「1990 年代にこの食事療法について議論が行われましたが、それ以来、てんかん患者に対する有効性については疑いの余地はありません。この方法は証明され、確立されており、患者は発作が2回にまで減少したことが確認されています」とてんかん専門医のステファン・オービン。がん、難病、自閉症に対しては、「ポジティブな傾向が現れ始めているが、これらの手段はまだ研究段階です」と医師は強調する。したがって、科学的に証明された満足な結果が現れるまでには、さらに数年待たなければいけないようだ。
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結論は?
ケトジェニックダイエットは、栄養素が不足する、バランスが悪い、ANSESの基準に達していないなどの問題がある。しかし、ケトジェニックダイエットでも、低炭水化物ダイエットでも、バランスの取れた食事療法でも、いずれの方法にも常識的なアドバイスは含まれる。
飽和脂肪 (ジャンクフード、フライドポテトなど)を減らし、砂糖(デザート、スイーツ)を減らし、良質な脂肪 (肉、魚、サバ、イワシ、卵) を摂取することは、良い食習慣だと言える。
重要なのは、極端になり過ぎず、一定の食品群を永久に排除する、ということは避けるということ。答えはいたってシンプルで、常識的なのだ。
(1) ジャン・ミッシェル・ルセルフ(Jean-Michel Lecerf)は、仏リールにあるパスツール研究所の栄養学科長であり、栄養学者。『Connaitre son cerveau pour mieux manger(より良い食事をするために脳を知る)』(Éditions Belin刊)の著者でもある。
(2) ステファン・オーヴィン(Stéphane Auvin )は、パリにあるロバート・デブレ病院の小児神経科医兼てんかん専門医。
(3) アレクサンドラ・ダル(Alexandra Dalu )はパリで働く栄養士であり、『Vive l´alimentation kétogène !(ケトン食ダイエット万歳!)』(Leduc.S刊)、『des 100 idées reçues qui vous empêchent d'aller bien(うまくいくのを妨げる100の先入観)』(Leduc.S刊)の著者である。
(4) マガリ・ウォーコウィッツ(Magali Walkowicz)は栄養士で管理栄養士でもあり、『livre Céto cuisine, 150 recettes cétogènes(ケトクッキングブック・ケトジェニックレシピ150選)』(Thierry Souccar & LaNutrition.fr刊)の著者でもある。
text : Louise Ballongue (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi