自分の「いま」に高揚感を。RMK新ディレクターYUKIが目指すもの。
Beauty 2021.07.19
8月6日(金)に数量限定発売となる2021フォールコレクションから、新たにRMKのクリエイティブディレクターに就任したYUKIさん。美しさの捉え方からクリエイションへのこだわりまで、じっくりインタビュー。
RMK クリエイティブディレクター
ニューヨークでパット・マクグラスのもと数々のショーのメイクアップデザインを手がけ、独立。エディトリアルや広告、バックステージなど幅広く活躍。
―― 満を持して発表された、初めてのコレクション。感想を教えてください。
チーム一丸となって長い時間をかけて準備をしてきたので、いまは、安堵や感動など、いろいろな感情がミックスされた気持ちです。実際にお披露目できて、直接、皆さんのリアクションに触れることで、ようやく実感が湧いてきました。
―― メイクアップアーティストとして、高揚感や充実感を得る瞬間とは?
コラボレーションすることで、自分の想像の範囲を超えるクリエイションが生まれた時は、やはり興奮でしかないですよね。その時の感覚が中毒になる(笑)。スチールでもムービーでもショーでも、モデルでもセレブリティでも、どんな仕事も同じなんですが、表現はメイクだけでは決して成立しない。チームのひとりひとりが向いている方向が、がちっと一致して、完成度の高いものができた時にこそ、この上ない喜びを感じます。RMKのクリエイションもまさにそうでしたね。
―― 実際、RMK フォールコレクションに触れた人たちからは、色や質感の卓越性も含め、自由度の高さに注目が集まりました。
もともと僕は、ショーのメイクからスタートしたんですが、バックステージでは、塗っては取って、足しては引いて、ここだけ色を変えて……、あっ、拭き取った水も混じったこの感じがすごく素敵、みたいなプロセスでクリエイションをしていくんですね。決まりきったルールやルーティンに則っていたら、いままでと同じものしか創れない。想像を超えるものは創れないと思うんです。頭で考えるだけでなく、リアルな顔、リアルな肌と自由に対話することから生まれるものを形にしたつもりです。
2021年フォールコレクションのテーマは「ローズウッドデイドリーム」。秋の午後のような暖かさと心地よさを携えたカラーで、表情を彩る。左上から時計回りに:ローズウッドデイドリーム 4アイズ 04 ¥6,050、エアリータッチ フィニッシングパウダー EX-01 ¥4,950、ソフトファイン アイペンシル EX-05 ¥3,080、ローズウッドデイドリーム リクイドアイズ 01 ¥3,850、リップスティック コンフォート エアリーシャイン EX-04 ¥3,850、インジーニアス パウダーチークス N EX-21 ¥3,300、ネイルポリッシュ EX-43 ¥1,650(以上8/6限定発売)/以上RMK Division
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美しさはひとつではないから、いまの自分に向き合ってほしい。
―― ところで、多様性の街とも言われるニューヨークでトップアーティストとして活躍するYUKIさんにとって、美しさとは?
「ベストバージョンのその人」だと思います。僕の仕事は、被写体がいてこそ成り立つもの。その人のキャラクターやヒストリーを消しては意味がないと思うんです。メイクはインディビジュアリティとのコラボレーション。美しさは決してひとつじゃないんです。
―― 年齢はキャラクターであり、ヒストリーであり。でも、私たちは、年齢をカバーしたい、カムフラージュしたいと思いがちです。
僕は年齢感を消したりはしないですね。年齢もあまり意識しないので。3年前には出せない表情が、いま、出せているはずなのに、3年前に戻したら、この3年間を否定することになる気がします。いまの美しさに向き合ってほしい。若いほうがいいという固定概念は、世の中が勝手に作っているだけだと僕は思います。
―― コンプレックスに対しても同様に感じています。
僕自身も経験があります。コンプレックスだと思っているのは自分だけで、周りからはそれが素敵だと思われているケースがあるとニューヨークに来て気付かされて。コンプレックスを隠そう、なくそうとするのは、時間と労力がもったいない、と思うんですよね。コンプレックス=個性と見方を変えれば、まったく違うアプローチが生まれるし、それまで見えなかった美しさの形に気付けると思います。
―― 年齢にしろ、コンプレックスにしろ、ネガティブな要素を気にならなくしたり、愛せるようにしたりすることで表情を輝かせる……、メイクにはそんな役割もありますよね?
「原点」に戻ったほうがいいと思うんです。「ネガティブな要素」と言うけれど、実際にネガティブなのか?と問いかけてほしい。若く見えるほうがいいと言ったのは誰? 目が大きいほうがいいと言ったのは誰? 思えばそれは、無意識に触れている広告だったり、テレビコマーシャルだったり(笑)。自分の物差しではないはず。僕は、ニューヨークで時間を過ごし、その価値観やカルチャーに触れて、自然とそういう見方ができるようになりました。日本ではまだまだ難しいかもしれないけれど、もっと根本的なところで、自分を見つめることが大切だと思います。
使い方にセオリーはなく、どのアイテムを組み合わせても、色を重ねても、美しくマッチするコレクション。YUKIさんはすべてのアイテムに思い入れがあるけれど、特にモデルビジュアルにも使用したローズウッドデイドリーム 4アイズ 04がお気に入りだそう。
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新しい日本、新しいアジアの美しさを発信したい。
―― 日本人、アジア人だからこその美しさとは?
欧米の人たちから見た「ジャパニーズビューティ」「アジアンビューティ」も、ステレオタイプのひとつに過ぎないと思うんですよね。アジア発の美しさも、ダイバーシティであるべき。日本人は繊細で器用で几帳面という、持って生まれた長所があるからか、どこかメイクも作り込む傾向にあると思うのですが、個人的には、もっと生っぽく、もっと崩して、自由なカルチャーになると、もっともっと新しい日本やアジアの美しさが生まれる気がします。
―― 「もっと生っぽく」「もっと崩す」? はっとさせられました。
新生RMKにとって、重要なキーワードは、ふたつあります。ひとつは、リアル。僕は完璧なものよりも、ちょっと汚れている、ちょっと強いものが好きなのですが、それをRMKのカラークリエイションに落とし込んだ時に、完璧につくられた人形のようなファンタジーな美しさを提示するのではなく、デジタル時代にあえてコントラストをつけた生っぽいクリエイションを通じて、新しい世代のアジア人の美しさを世界に発信していきたいと思っています。もうひとつは、オーセンティック。ファッション的な流行りにのるクリエイションをするのではなくて、突きつめて、本物を提供する。そんなブランドであり続けなければならないと思っています。
コレクションムービーでは、モデルビジュアルと、空や大地のエネルギーがクロスオーバーするさまが印象的。
―― メイクをする人たちにとって、RMKはどんな存在でありたいと思いますか?
メイクアップは変身するものではなく、自分を輝かせるもの。「これが流行っているから」ではなく、「自分はこれが好き」という気持ちの高まりを大切にしてほしい。ちょっとそれ派手じゃない?と周りに言われても、自分はこれが好きだからこれがいいの、という勇気。そっちのほうがクールだよねって後押しするようなブランドになりたいですよね。
―― すべての人に、メッセージを。
肌になじむ色と質感、その高いパフォーマンスにこだわりました。単色でも重ね合わせても自由自在だし、どんな使い方をしても不正解がない。肩の力を抜いて、メイクを楽しんでほしいですね。何より大切なのは、自分がカンファタブルであること。私は私、僕は僕、素敵な人は素敵。違うから美しい、違いが美しい、と自然に思えたらいいなあ、と。年齢も性別も超えて、RMKのメイクを通じて、自分のいまに高揚感を持ってもらえたら、この上ない喜びです。
穏やかな雰囲気を纏いながら、シャープで深みのある言葉を放つYUKIさん。彼が手がけるこの先のクリエイションからも目が離せない。
interview and text:Chitose Matsumoto, photography:Daisuke Yamada