ベースメイクはスキンケア、新時代!
Beauty 2021.09.22
誰にも見せないのに、塗る必要ある? 塗っていたほうが肌にいいって本当? 長く続くマスク生活で、ファンデーションの必要性を考えた人は多いはず。価値観も意識も変わったいま、塗っても塗らなくても、ファンデーション以外で肌づくりをしたっていい。自分のために、新しい時代のベースメイクを始めよう。
いまあらためて、ファンデーションって何のため?
文/松本千登世
きっと、感じ取っているに違いない。いや、もう当たり前になりすぎて、気にも留めていないだろうか? ファッションもビューティも、トレンドや美意識を牽引するハイブランドのイメージビジュアルに、いま一度、意識を向けてほしい。うっすらソバカスもほんのり赤みも、なんなら毛穴やシワさえも、その人らしさを語る、言葉を超えたメッセージ。息吹を感じる、鼓動を感じるアライブでリアルな肌が、そして、この肌で生きるという意志ある顔が、私たちの心を静かに力強く動かしているってこと……。個性や多様性を重んじる時代にあって、肌だけがなぜ、完璧で理想どおりでなくちゃいけないのか? 肌への向き合い方だけが取り残されていないか? いま、肌を通して、生き方に対する価値観が根本から揺り動かされているように感じるのは、私だけではないだろう。
コロナ禍も私たちの意識をがらりと変えた。マスクで肌が隠れる、マスクで肌が荒れる。あれっ? もしかして、ファンデーション、要らないんじゃない? そう思った人も多いだろう。時間が経つにつれ、次第にファンデとの距離ができて、塗らないと心に決めた人、それでも惰性なのか義務なのか、ファンデを塗り続けている人、いや、そのどちらにも定められず、正解を見失ってしまった人……すべての人に問いたいのだ。いま、あらためて、「ファンデーションは何のため?」と。
私自身、そんな「もやもや」から解放されたのは、取材で聞いたあるメイクアップアーティストのひと言が決め手だった。
「ベストな肌を目指して、毎日懸命にスキンケアしているのに、その肌をなぜ、ファンデで隠したりごまかしたりしようとするの? もったいないよね」
そういえば、ベースメイクの理想の仕上がりを伝えるのに、「スキンケアしたての肌」や「エステ帰りの肌」によく喩えるし、「まるで塗ってないみたい」とか「第二の素肌のよう」とか表現したことも数知れず。「塗ってない」「素肌のよう」を演出するために、ファンデで隠す、ごまかすなんて、矛盾にほかならない。そう気付かされたのだ。こうしてふるいにかけられて、見えてきた真実、それは、本当に私たちがいま、求めているベースメイク……。
今シーズン、「ほぼスキンケア」のベースメイクが勢揃いしたのは、そのためなのだろう。肌を装うのでなく、肌を満たし、肌を整える。その人の延長線上にある肌で、のびやかに、堂々といられるように。すなわち、美しく見せる肌ではなくて、美しいと感じられる肌……。
もう隠したくないなら、ベースとパウダーとのコンビネーションだけでいい。きちんと装いたいなら、最新のファンデーションで肌をアップデートするのがいい。顔色を元気にしたい時と、揺らぎや不調を隠したい時では、選び取るものがまるで違うだろう。塗るも塗らないも自由、塗るから塗らないまでのグラデーションも無限大。気分によって、シーンによって、服によって、メイクによって、ありたい肌を選び取る。そう、これからは、ベースメイクに操られるのでなく、ベースメイクを操りたいと思う。肌を自由に解き放つ時代がやってきたのだ。
「ファンデーションは何のため?」という疑問は、「どう生きていきたいか?」をよりクリアにするものなのかもしれない。私はこの肌、私はこのベースメイク。本当に必要なものを毎日選び取るという、感性と知性と品性が、美しさのニューノーマルを創るから。
*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋
photography: Hironobu Maeda (Stijl) Karina Twiss (Madame Figaro/Model) text: Chitose Matsumoto