髪の毛は語っている、あなた自身の本当の姿を。

Beauty 2021.09.29

髪の毛と自分自身……なんという関係だろう! 髪は一生のうちで最も変化しやすい身体の部位のひとつであり、多くのことを物語る。

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髪を染める、短くする、前髪を作る……。些細なことかもしれないが、ヘアスタイルの変化は大きな意味を持つ。photo : Getty Images

シャイな人、贅沢な人、クラシックな人、冒険的な人……すべての手がかりは、髪型やカラーリングの選択によって得られる。髪は私たちの健康状態を示す重要な指標でもある。大量の抜け毛は決して些末なことではなく、ストレスや疲労、ホルモンの低下などが原因であることが多い。しかし原因がもっと深いところにある場合もある。「激しいショックや喪失感を味わった後で、その感情を言葉にできない人がいます。すると、その感情は彼らの身体に現れます。忘れてはならないのは、毛根がリンパ球によって破壊されるということです。つまり、身体が自ら壊れるのです」と、ウェブサイトpsyderma.comの創設者で、臨床心理学者のアンヌ=ドロシー・タイエブ=シャペロンは述べる。

魂のスタイリング

私たちの髪は、最も耳を傾けてくれる人物、つまり美容師にも語りかける。「髪は自分自身との関係をよく表しています。結局のところ、髪は取り外すことのできないアクセサリーです。自分を隠すために使う人もいれば、単に邪魔にならないことを優先する人もいます。お客さまの髪に触れると、その人が自分の髪を気に入っているかどうか、手入れをしているかどうかが一目瞭然です。子どもの頃に髪を切ることを強要されてきたために、切ることをためらう人もいます。つまり、ときにはトラウマや精神的な傷になっているのです」と、レオノール・グライルで30年間働くステファンは分析する。

また、心理学者と比較する人もいる。「我々は各々の仕事を持っており、精神科医ではありませんが、その一方でお客さまとの間に信頼関係が成立していることも事実です。お客さまの期待に耳を傾けるようにしています」と説明するのは、パリのボン・マルシェにサロンを構えたばかりのセバスチャン・ベズニエだ。フランス語の ”サロン”という言葉が、居間、そして美容院を意味するのは偶然ではなく、ある意味を持つ。「サロンは家の中心的な部屋であり、リラックスしたり、人と会ったり、交流したりする場所なのです」と、書籍『La Vénus se rebelle(金星の反乱)』(Leduc出版刊)の著者であるオーレリー・マルキは指摘する。

セバスチャンの施術はいくつかのステップに分かれており、髪の毛のエキスパートの手とハサミに委ねる前に、まず最初にシャンプーを行う。その際にリラックスするための前段階として、しばしばマッサージを施す。「顔の表情がとても閉じている女性を見かけることがあります。でもシャンプーが終わると、表情がまったく変わっています。彼女たちが自信を回復して初めて髪型の相談ができるのです」と、マッサージ師のもとで経絡を流し緊張をほぐすマッサージメソッドの訓練を受けたセバスチャンは言う。

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髪の長さと恐怖感

髪に触れる動作を抜きにして髪を語ることはできません。「お客様の髪を触る時は、必ず許可を得てからにしています。とても親しみのある仕草ですから」と、カリタで美容師として働くブノワは言う。髪に触れる動作は、マニアックなジェスチャーや過剰な習慣になっていなければ、喜ばれる仕草である。ところで、強迫行為や過剰な習慣は多くの場合、子どもの頃に発症する。臨床心理学者のアンヌ=ドロシー・タイエブ=シャペロンは、「対象者が自分の身体との関係を築くのは、生まれた時からです」と解説する。「”髪“は母親の身体に不可欠なものです。また赤ちゃんを安心させるために、彼女と赤ちゃんの間を行き来するツールにもなります。母親の髪との接触は、赤ちゃんにとって和らげるものであると同時に、感情の爆発がすべて収まる役割をします」これは、髪を愛撫したり吸ったりする行為に言い換えることができる。しかし、それだけでなく髪を抜いたり、噛んだり、食べたりすることもある。「トリコチロマニア(強迫的抜毛症)と呼ばれる精神障害の一種です。この行動が破壊的であったり痛みを伴うように見えたとしても、私はそれを感情を調整するための手段だと考えています。時にはアンバランスな状態の中でバランスを取るための手段でもあります。髪は私たちを依存関係に閉じ込めてしまうような絆を象徴しており、それを引き裂くことで、ある種のコントロールを取り戻すことができるのです」

新しい髪型、新しい生活

優位に立とうとする気持ちや決心は、人生の重要なステージで起こるヘアスタイルの急激な変化においても表れている。死別、別れ、離婚、妊娠……これらの重要なイベントの際に、多くの女性が髪型やヘアカラーの変更を決意する。セバスチャン・ベズニエは、このような時は慎重に扱う。「ショックを避けるために、いつも中間的なカットを提案しています。完全な変身は混乱を招く可能性があります。お客さまは自分自身を認識したり、受け入れたりすることができないかもしれません。不安な気持ちを髪に転嫁してしまい、後から後悔する人もおり、そうすると不安を強調するだけになってしまいます。髪は私たちのルーツであり、髪に愛着を持っているのです」

レオノール・グライルのステファンも同様に警戒しており、すべてを変えたいと思っているクライアントとは常に注意深く会話をする。「時間をかけて聞くことで、ただの気まぐれなのか、それとも心の中から湧き上がってきた本物の感情なのかを見極めることができます」

この髪の解放現象は有名人も例外ではない。ダイアナ妃が離婚を発表する直前に髪を切ったことは記憶に新しい。そして、それが自信になったとインタビューで答えている。同様にブリトニー・スピアーズが頭を剃ったことも象徴的な例で、タブロイド紙で話題になった。しかし、ヘアスタイルを変えることと完全に切り捨てて丸刈りにすることの間には大きな隔たりがあり、後者はネガティブなイメージに捉えられる。

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正しい感覚

最初のロックダウンでは、ヘアサロンは店を閉めなければなりませんでした。このような状況は決して良いものではなく、一部の顧客はこっそりと予約を取ってほしいと懇願した。強い忠誠心の側面と、美容師と客の間の繋がりの必要性は、恋愛関係に比べられるかもしれない。「すぐに打ち解けられるお客さまもいます。愛という意味ではありませんが、非常に親密な関係を築けます。一方では、うまくいかない場合もあります」とセバスチャン・ベズニエは言う。「”ほかの店に行く”となると、クライアントはまるで浮気をしているかのような罪悪感を抱きます。美容師の中にも、それを裏切りだと酷く受け止める人もいます」とカリタのブノワは笑う。ひと目惚れとまではいかなくても、よく話を聞いてくれて、最適なカットやカラーを提案してくれる美容師を探すことは必要不可欠である。

これは少なくともオーレリー・マルキの経験であり、彼女は自叙伝と社会学的エッセイの中間のような著書『La Vénus se rebelle(金星の反乱)』の中で語っている。34歳の著者は、自分がその後に受けるであろう不可解な感情を予想することなく、あえて選択して、自ら頭を剃った。「私は病気ではなかったし、パンク・ムーブメントにも参加していませんでした。そして、私の経歴にそぐわなかったために、周囲からの評判が悪かったのでしょう」

親しい人との間でも、仕事上の関係でも、あるいは街で見知らぬ人と接する時でさえ、オーレリーは常に批判され、嫌がらせを受けた。この選択には何か理由(がんや性的指向など)がなければならなかった。そうでなければ、彼女が頭蓋骨のラインをむき出しにすることは不可能に思えたからだ。そして、最初は非フェミニスト的な行為であったものが、フェミニスト的な行為に変わった。「体験していくうちに、この行為の意味に気が付きました。女性がいかに社会を喜ばせ、期待される地位を占めるように仕向けられているのか分かりました。いちばん驚いたのは、女性たちからの反応で、この選択について私の夫はどう思っているのかという質問を特に多く受けました。これは家庭環境に影響を与えるカップルの決断ではなく、ただ自分の身体に影響を与える決断にもかかわらずです」。その結果、カラーリングやそのほかの個性的な髪の変化に慣れている彼女にとって、この行為はより意味のあるものになった。「この経験を経て、私はあえて自分の会社を設立しました。自信がつき、少し落ち着いて物事に取り組めるようになりました。結局、髪を剃ったことは人生における特別な出来事によるものではなく、人生の変化そのものだったのです。私のエンパワーメントでした」

text : Justine Feutry, translation : Shiho Tatsugami

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