バストよりも魅力的? いま、ヒップが新たな武器に。
Beauty 2021.12.27
フェミニティ、パワー、欲望の象徴であるヒップが武器に。ヒップは新たな注目の的となり、もはや舞台裏にとどまることはない。
ヒップは、新しい女性のパワーの象徴。photo: Getty Images
マドンナとデビッド・ベッカムのヒップの共通点は? SNSを熱狂させる影響力があること。9月に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードで、63歳のポップス界の女王マドンナは見事にオープニングを飾った。エネルギッシュなパフォーマンスに加えて、ツイッターで話題になったのは、彼女の弾けるようなヒップだった。
元サッカー選手のデビッド・ベッカムの場合は、妻ヴィクトリアが投稿した1枚の写真が発端。写真には、競泳用の水着を大胆に腰まで下げてプールに入っている夫の姿が写っている。この投稿に140万人近くの人が「いいね!」を付けた。
いまや、ヒップは解放されただけではない。身体の最後部としてのステータスにとどまるつもりもないということだ。
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“ビーチ・バム”ブーム
今年の夏のビーチでは、女性たちがTバックやタンガなどでヒップを披露した。これは、1970年代のビーチでトップレス主張したような、新たな解放の象徴なのだろうか? 「特に若い女性の間で、ヒップに対してコンプレックスが和らいだという感覚があります。水着の丈が短くなりました。男性の場合は逆で、丈が長くなりました。これは、確実に#MeToo時代の結果だと思います」と、トレンドコンサルティング会社ネリーロディのインサイト・ディレクター、ヴァンサン・グレゴワールは述べる。身体と結びついたコンプレックスやモラルは取り払われたのだ。
Je suis entrain de regarder les @MTV VIDÉO MUSIC AWARDS 2021, QUI LE REGARDE AUSSI???
— steve mbey (@steve_mbey) September 16, 2021
LES FESSES DE @Madonna . Je ne sais pas si c'est vrai ou faux?!?!??? pic.twitter.com/6kcsLtwZ7C
ティーンをはじめとした若い女性たちは、中国の大手企業SHEINなどのお気に入りのウェブサイトで、小さなランジェリーやビーチウェアをプチプラで購入している。写真では、エミリー・ラタコウスキーを彷彿とさせるモデルたちが挑発的なポーズを取り、Z世代の話題を呼んでいる。22歳のアナイスも、大胆な若者たちのひとり。「その方がきれいだし、ビーチでトップレスになるよりもTバックをはく方がよっぽどショックが少ないわ。私たちは、ありのままの自分を受け入れるよう教えられてきた。自分を解放するように、と」
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不完全を受け入れる
ヒップの解放は、間違いなくボディ・ポジティブ・ムーブメントの成果だ。「ありのままの自分を受け入れ、誇りを持っていることを見せなくてはいけないのです」とヴァンサン・グレゴワールは説明する。ビヨンセもそうだ。「太ることを受け入れたセレブリティたちは、人々の体型に対する見方を変えました。アンドロジナス(両性具有的)な外見に対して、ふっくらとした体型が見直されています」と、形成外科医で美容外科医のオーレン・マルコは指摘する。
リアーナと彼女のランジェリーブランドの存在も忘れてはならない。まさに多様性の賛歌だ。「サヴェージxフェンティは、巨大なヴィクトリアズ・シークレットと、その象徴である『エンジェルたち』をノックアウトした」と語るのは、モデル・エージェンシー・マリリンの女性部門エージェント、フランク・ヴァレリー。不完全であることを祝福し、体重やサイズに関係なく、自分がセクシーだと感じること。これは、これらのアイコン的なセレブリティたちが構築した善意に満ちたプロジェクトだ。
一方で、ネット上でも、妊娠線を披露したり、ふっくらとした体型を隠さなくなったりしている。「今日では、ふくよかなモデルやプラスサイズモデルを求める声が多くなっています。ファッションが幅広い層を代表し、コードにとらわれたままではいられないからです」と語るフランク・ヴァレリーは、フランスがアメリカやイギリスに比べて遅れていることを指摘する。
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フェミニズムと誘惑の武器
このような身体への賛歌は、フランスで流行するイズーやアヤ・ナカムラによって牽引される、新しいフェミニティの一部でもある。ヒップは、ヒップホップ、R'n'B、トゥワークなどのダンスの動きの中で、巨大な誘惑の武器としての地位を取り戻した。「別のジャンルでいえば、ザヒア・ドゥハールも先駆者の一人。反り腰、ペンシルスカート、ルブタン・・・・・・彼女は、この“ボトム・アップ”の復権に大きな影響を与えた」とヴァンサン・グレゴワールは続ける。
専門家が指摘するように、ヒップは欲望、権力、解放の対象。「以前は目や胸が注目されていましたが、いまは、背中やお尻を見るようになった。また多様性や中産階級出身の若い女性たちが、自分自身を頭の中で解放し、自由になる方法の一つでもあります。複雑な社会の中で、彼女たちはなかなか受け入れられないからです」
まだ無邪気さが残るこうした若い女性たちは、リアリティショーとサクセスを夢見て、高度に性対象化された世界に心をときめかす。新しいジェネレーションのたな世代の人々にとっては、自己プロデュースできる女性こそが理想像なのだ。「自分らしさを肯定すれば自信を持つことができ、より多くのことを成し遂げられる」と若いアナイスは語る。
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パワーアップするヒップ
この現象は諸刃の剣だ。なぜなら、インスタグラム上で、キム・カーダシアンやカーディ・B、ニッキー・ミナージュなどが伝えているイメージは、現実すれすれだから。ヴァンサン・グレゴワールは、「女性性のコードが強調され、カリカチュアにまで達している」と分析する。
フィルターと(彼女たちが認めるかどうかはさておき)整形手術でリタッチされたボディ。美容整形手術の依頼件数は明らかに増えている。「最初の手術を受ける年齢の平均値は明らかに下がっており、例えばスペインでは高校資格試験をパスした記念のギフトになっている。お尻は新しい胸のようなものなのです」
ヒップの整形手術に対し、フランスは依然として慎重だと、外科医たちは指摘する。「“相談”が増えているのは事実です。しかし、ブラジルの場合のように、その傾向がバストの施術を逆転したわけではない。フランスの女性はまだ意識が高く、理性的」と、オーレン・マルコ医師は説明する。「キム・カーダシアンが話題になることもありますが、それはあくまでもバロメーターとして。患者は彼女のようになりたいとは思っていないのです」。また、マルコ医師は、患者にはボリュームアップしたい人と、調和のとれた体型を取り戻したいという出産後の女性という二つのタイプがあるという。
では、どんな施術があるのか。フランス女性は、プロテーゼよりもリポフィリングを好むようだ。これは、ある部位の脂肪を取り、ヒップに再注入する方法(5,000~8,000ユーロ、日本円で約6万〜10万円)。除去する脂肪がない場合に最適な方法はヒアルロン酸注射。「1回200~600ユーロ(日本円で約2万6千円〜8万円)ですが、プロダクトが再吸収されるため、注射の効果は不可逆的なものではありません。後から後悔するかもしれません。モードは変化しますから」
スポーツジムでも同じようなブームが起きている。「1日8分で丸いヒップを手に入れる」というプログラムを作成したフィットネスコーチのヴァレリー・オルソーニは、2年ほど前から、このプログラムにかなりの需要があることに気づいた。「以前の、丸みを帯びた引き締まったヒップの追求から、いまはもっと丸いフォルムが求められるようになっている」
豊かなヒップが許されるようになったいま、ボディにまつわる専制的な価値観が変わる日も遠くない「脂肪、セルライト、たるみなど、まだたくさんの難関があります。エアロビクスの時代が終わり、硬さから柔らかさへと理想像は移行していますが、キム・カーダシアンのような自己コントロールは必要」とヴァンサン・グレゴワールは述べる。
いまの理想のヒップは? 「セルライトがほとんどないしっかりとしたヒップに、厚すぎず、ほっそりとした太ももがきれいにくっついていることです。絶対的な基準としてよく挙げられるのはジェニファー・ロペス」とヴァレリー・オルソーニは言う。「美しいヒップ、それは、自分が自信を持つことです。たとえちょっとした努力が必要だとしても」。それが、オーレン・マルコ医師の結論だ。
text : Justine Feutry (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi