薬草の里・奈良県宇陀市でウェルネス&ビューティの原点へ。
Beauty 2022.03.28
フィガロジャポン5月号の特集「自然に帰る旅。」では、日本全国の美しい自然の風景が残る旅先やステイ先の情報を紹介している。その番外編として、古くから薬草の産地として知られる奈良県宇陀(うだ)市についてここでは触れたい。
この地で伝承生薬の大和当帰(やまととうき)に出合い、魅了されたメイクアップアーティストの松井里加は、自身のビューティブランド「セラリー」からデビューする製品に宇陀産のハーブをふんだんに配合した。その開発に秘められたストーリーとは? 奈良県出身でもある松井が、宇陀市の魅力をガイド!
松井里加|Rika Matsui
メイクアップアーティスト
文化服装学院出身。2000年に渡米し、ニューヨークを拠点に活動する傍ら、ミラノ&パリコレクションにも参加。2006年に帰国後、フリーランスのメイクアップアーティストとしてファッション誌や広告で活躍。この春、ビューティブランド「セラリー」を立ち上げ。https://selaly.jp
大和高原とよばれる高原地帯に位置する宇陀市。滴るような緑に抱かれ、心も身体もリフレッシュ。photo: Yoshihito Sasaguchi
日本で初めて“薬猟”が行われた、薬草の里。
四方を山や森林に囲まれた、自然豊かな宇陀市。気候条件や土壌が適していたため、古代から盛んに薬草の栽培が行われていたそうだ。さらに、日本最古の朝廷が置かれたこの地には、大陸から医薬学や薬などが伝えられ、国内からも優れた生薬が集まってきていたという。日本書紀によると、宇陀市は推古天皇が611年に日本で初めて薬猟(くすりがり)を行った地であるという記載があり、古くから“薬草の里”として技術や文化が伝承されてきたことがうかがえる。
星薬科大学館内の壁画に描かれた、推古天皇の薬狩りの場面。提供:星薬科大学
自然に恵まれた奈良で、子どもの頃はいつも暗くなるまで原っぱを駆け回り、レンゲやタンポポを摘んで首飾りにしたり、草に寝転んだりしていたという松井。植物や花と触れ合っていた体験は、いまもメイクアップアーティストとしての仕事に影響をもたらしている。
「3年くらい前に自分でブランドを創りたいと思った時、慣れ親しんだ奈良の植物が実は漢方の世界ではとても有名であること、化粧品の有効成分にも活用できることを友人が教えてくれたんです。そこから調べて勉強して、宇陀市にたどり着きました」
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その宇陀市を代表する薬草が、大和当帰だ。根の部分は古くから生薬として婦人科系の漢方薬に配合され、血行促進や冷えの改善に用いられるなど、女性の健康を支えてきた。また葉の部分は2012年から食用や化粧品への使用が認められ、その健康・美容効果の高さがじわじわと話題を広めている。
そんな大和当帰だが、栽培から製品化までには時間も手間もかかり、多大な労力が必要とあって、生産量は減少の一途をたどっていた。そこで宇陀市では2015年に宇陀市薬草協議会を立ち上げ、生産者の負担を減らす取り組みを市を挙げて行うようになった。
「宇陀市は山や湖、渓谷や滝など壮大な自然に触れられる美しい土地です。季節ごとに花や植物に彩られる観光スポットも多々あり、花暦を楽しみながら訪れるのもおすすめですよ」
合わせ鏡のような水面の湖。龍王ヶ淵。photo: Yoshihito Sasaguchi
朝霧に包まれた宇陀の山々。photo: Yoshihito Sasaguchi
セラリーのアイテムに配合された、宇陀産のハーブ。左上が大和当帰、右上が柿の葉、左下がヨモギ、右下が甘茶。
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丁寧に栽培された無農薬ハーブとの出合い。
宇陀市の薬草を調べる中で、松井は山口農園の山口武さんと出会った。山口農園は、化学的に合成された肥料や農薬、遺伝子組み換えされた作物を一切使わない安全・安心な農産物の生産を念頭に、有機農産物やハーブ類を栽培し、さらには時代に合わせた有機農業のあり方を追求している農園だ。
「大和当帰の素晴らしい効能や物語に魅了され、なんとしてもまずはこの目で生きている大和当帰をひと目見たいと、調べに調べ、最終的に巡り合えたのが幸運にも山口さんでした」
山口農園で栽培されている大和当帰。「山口さんと出合えたからこそ、セラリーの製品ができたと言っても過言ではありません」(松井)
山口武。有機・無農薬農法を手がけ、宇陀市の薬草復興へも、リーダーとして地域をまとめ貢献している。
「山口さんが主宰する『ウェルネスフーズUDA』にお伺いすると、事務所には乾燥ハーブが所狭しと積み上げられていて、それがすべてオーガニックとのこと。圧巻でした。そしてその夜、お土産に頂いた入浴用ハーブをお風呂に入れたらものすごく身体が温まって、全身しっとり、全然湯冷めしないことに驚愕して……。このハーブたちは只者ではない、セラリー製品に配合したいと強く思い、そこから猛烈にアタックして(笑)。契約していただけたんです」
山口農園では、農業従事者の減少や農家経営のあり方を改善するためのアグリスクールを設立し、新規就農者を増やし農村を活性化させるための取り組みも行っている。また、ウェルネスフーズUDAでは、形が崩れていて出荷できない野菜も、乾燥し、粉末にするなど別の形で再生。自然の中で営みを循環させ、未来へと繋ぐこと。薬草の里としての矜持が、そこに感じられる。
https://shop.wellnessfoods-uda.jp
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薬草の里の魅力を、さまざまな角度から。
薬草と人々の暮らしが密接に関わっている宇陀市。市内にはそれを体感できるスポットがいくつもある。その中から、松井里加のおすすめをピックアップ。
日本最古の薬草園:森野旧薬園
江戸時代中期の本草学者、森野藤助により享保14年(1729年)に始められた日本最古の薬草園。四季折々に約250種類の薬草木を鑑賞できるほか、薬園からは大宇陀の町を見わたすこともできる。
4月中旬~下旬に見頃を迎えるカタクリの花。
昔ながらの街並みが残る大宇陀地区は文化庁の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
宇陀市を訪れるたびにほぼ毎回足を運んでいますが、季節によって咲いている薬草の花々や芽が違うので、行くたびに新しい発見があります。歴史的な街並みを見下ろせる展望台のような山道からの景色にとても癒やされます。
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大和当帰を創作料理でいただく:ヒルトコカフェ
古民家を改装した開放的な空間を生かしたカフェレストラン。大和当帰などの薬草をはじめ、新鮮な地元野菜がふんだんに使われたメニューで、宇陀市の魅力を味覚でも楽しみたい。
左: ヒルトコハンバーグランチ ¥1,760 右: ゆったりとした時間が流れる、くつろぎの空間。
自然の中にある佇まいが素敵な「ヒルトコカフェ」。使用する食材は無農薬、有機栽培です。私のおすすめメニューはズバリ「ヒルトコハンバーグランチ」。ホイルに包まれた熱々の包み焼きハンバーグはふんわりジューシーで、風味づけの大和当帰がほのかに香ります。サラダや付け合わせもたっぷりでボリューム満点。お客様が絶えない人気店なので、予約されることをおすすめします。
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宇陀産ハーブを配合し、素肌の健やかさを追求した洗顔&クレンジング。
宇陀の植物との出合いを経て、松井が自身のブランド「セラリー」から産み出したのは、肌をミニマルな状態へと導き、透明感を呼び覚ますクレンジングライン。メイクアップアーティストとしての経験を通し、美しさのためには、何よりも素肌の健やかさが大切だと気付いた彼女ならではの提案だ。今回のアイテムには、無農薬栽培された山口農園の大和当帰葉をメインに、柿の葉、よもぎ、甘茶の抽出成分を使用している。
左: セラリー ルミヌ ウォッシングフォーム 150ml ¥3,960 中: 同 クリームクレンジング 130g ¥4,510 右: 同 ジェルオイルクレンジング 130g ¥4,510(以上4/1発売)/以上セレンゲート
クレンジングは2タイプ。肌当たりの優しいクリームクレンジングはマッサージをするように肌になじませると、転相してオイル状に変化。メイクや汚れがするっと浮き上がる感覚がやみつきに。ジェルオイルクレンジングは、クイックに落としたい時に。みずみずしく柔らかなテクスチャーで、メイクや皮脂を落としながら、しっとりとした洗い上がりを叶える。
フォームタイプの洗顔料には、ミネラルが豊富な福岡県糸島産の海塩を配合。弾力のある泡は、肌にのせて1分間の泡パックとしての使うのもおすすめだ。洗い流した後、くすみが晴れたような肌色、一度で分かる手触りの変化に驚き、自分の肌の可能性を信じたくなるはず。
香りはシリーズ共通で、日本における植物療法の第一人者、森田敦子が監修。トップノートにクラリセージ、スウィートオレンジ、イランイラン、ミドルとベースノートにフランキンセンス、ゼラニウム、アトラスシダー、ラストノートにサンダルウッド、フェンネルがブレンドされた香りは、1日の終わりのクレンジングタイムにリラックスをもたらすと同時に、明日へのポジティブなマインドを花開かせてくれるよう。
宇陀産ハーブの力を感じ、薬草の里に思いを馳せながら、この春、美の原点を見つめるスキンケアを始めたい!