<南西フランス・ガスコーニュの古城に、ビュリーの菜園の香りを訪ねて その1> ガーデニングに目覚めたヴィクトワール、菜園の歓び。

Beauty 2023.07.11

すでにブティックで販売が始まったオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーの新しいオー・トリプルのコレクション<レ・ジャルダン・フランセ・ドゥ・オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー>。キュウリ、ニンジン、トマト……野菜を素材にした香水というのは意外に聞こえるけれど、全6種のどれもが自然界の贈り物と呼びたくなるピュアな美しさを肌にもたらしてくれる。

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左: ガスコーニュ地方の館の野菜畑にて。この畑でヴィクトワールは大勢の家族が館に集まる夏の時期のための野菜を育てている。 右: 昨年はご覧のように素晴らしい収穫があった。もともとヴィクトワールは野菜好きで、夫はベジタリアン。一家の食事のかなりの部分を野菜が占めるそうだ。photos:Officine Universelle Buly Mineun Kim

メゾンのブランドディレクターであるヴィクトワール・ドゥ・タイヤックはこの新作の発表を自然に囲まれた場所で行いたいと願い、フランス南西部ガスコーニュに彼女のファミリーが所有する14世紀建築の館をその地に選んだのだ。広大な森を含む100ヘクタールもの敷地内、小さな道具小屋の脇には彼女が丹精する菜園があり、そこでは6月初旬の太陽の下、トマト、ピーマン、ルバーブなどが緑色の葉を輝かせていた。

彼女がガーデニングを始めたのは11年前の2012年。それまではまったく興味がなかったことだけれど、友だちの家で採れたての野菜の深い味わいに、夫でビュリーの共同創設者ラムダンとふたりして、「私たちも始めなければ!」と。当時暮らしていたアパルトマンには広いバルコニーがあった。創業したてのビュリーで、日々の仕事は山ほど。帰宅して植物の世話をするのは寛ぎの時間だったと振り返るヴィクトワール。

「パリでも最初は野菜を育ててみたけど、鉢だったので難しかったわ。パリでガーデニングを始めたとほぼ同時にガスコーニュの家に菜園を作ったんです。祖父の時代にも菜園はあったけれど、彼が亡くなった後に庭師も辞めて庭はどこもかしこもイバラですっかり覆われてしまっていたので、最初に私が作った菜園は家からも遠くない敷地内の湖の近くでした。2021年に、小川の近くでもともと祖父の時代に菜園のあった場所に菜園を移動することができたの」

2020年の新型コロナ禍で外出制限期間中、この館で2~3カ月を過ごした彼女。姉でジュエリー・デザイナーのマリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックも一緒で、ふたりして庭を蘇らせる活動に乗り出したのだ。

「彼女はつなぎ、私はシャツにジーンズという姿で、テレワークを終えた夕方になると庭に出て行って、ふたりしてイバラを取り除く作業に精を出したのよ。巨大なハサミやノコギリを操って……。おもしろいもので、私は植物そのものに興味があるのに対し、彼女はジュエリーをデザインするのと同じように、庭をパースペクティブで見るの。樹木をカットしてゆくことも彼女は好き。私たち、まさに補足関係にあるといえるわ」      

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左・中: 6月、実りをつける野菜。レタスの上にてんとう虫のお客様! 右: 野菜畑の向こうに広がる庭には、樹齢何百年もの大樹が。photos:Mariko Omura

ふたりで庭を整えた翌年に、ヴィクトワールはいまある場所に菜園を移したのだ。種を蒔き、苗を植え、7~9月に収穫して……家族のための菜園である。この家で大勢が長く過ごすのは夏のヴァカンス期のために、彼女は植える野菜を選んでいる。

「畑はそれほど大きくないけれど、仕事量は膨大よ。とても骨が折れる。種を蒔く時が最良の瞬間ね。収穫をイメージし、それを家族と分け合う食卓を想像して、と大きな期待で胸が膨らんでしまいます。昨年はあちこちが干ばつだったけれど、うちの菜園はトマト、カボチャなど素晴らしい収穫がありました。今年は雨が多かったせいか、芽の出が悪くって。どんなに精を出しても、天候によって何もできないということなる。これが人生ね。多くを学びます。ガーデニングではたとえば雑草を引き抜く、といったことに集中することで瞑想的な時が得られるのも、私にはとても快適なの」

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雑草を抜いたり、土を護る干し草を敷いたり畑仕事に終わりなし。道具小屋の壁に咲くバラはデヴィッド・オースチン。photos:Mariko Omura

庭仕事をするようになってヴィクトワールは注意力、観察力がとても発達したという。庭にいると、とても小さな虫をあちこちで目にする。最初は気付かなかった存在だけれど、目につくようになるとどんどん目に入ってくるようになり、以前より、はるかに多くを見るようになった。五感がより研ぎ澄まされたのはいうまでもない。

「触覚、これは土とですね。聴覚についていえば、この感覚は外にいる喜びに結びつきます。家に近かった以前の畑と違い、いまの畑は自然の中にあって、たくさんの音が耳に入ってくるの。鳥たちの声はもちろんだけど、蛇や狐それに子鹿など目には見えないけれど動くのが聞こえるのよ。いろんな音が聞こえてくる中、なんだかわからないものも。これはなかなかおもしろいわ。嗅覚について言えば、ビュリーの仕事をするようになって鼻の感覚はとても鋭くなっているけれど、庭の香りについて言えば、その言葉は“意表を突かれる”、ね。これは良い香りがする、ってわかっているものでも、雨、暑さなどが香りにもたらす強さに驚かされることがあります。これはおおいなる喜びですね」

editing: Mariko Omura

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