ローライズで引き締まったウエストを見せるスタイルが復活!?
Beauty 2023.07.16
ローライズのシルエットが復活し、大胆なへそ出しスタイルがレッドカーペットでも増殖中。単に開放的な気分の問題なのだろうか、それとも新たな美意識の誕生なのだろうか。
サンローラン2023年春夏プレタポルテコレクション。(パリ、2022年9月27日)photography: Peter White/ Getty Images
今年のカンヌ国際映画祭ではロシア人モデルのイリーナ・シェイクが割れた腹筋を堂々とさらし、大胆な肌見せルックで大階段を上った。レッドカーペットで引き締まったおなか自慢をするのは彼女だけではない。メットガラのジェニファー・ロペスやアカデミー賞授賞式でのテイラー・スウィフト、MTVムービー・アワードのシドニー・スウィーニー、ファッション・ロサンゼルス・アワードのグウィネス・パルトロウら、おなかを露出するセレブは増える一方だ。
ハリウッドだけでなく、今シーズンのランウェイではおなかを見せるスタイルをあちこちでみかけた。2000年代ファッションのリバイバルでローライズのパンツやスカートが登場し、ブラのような超ショート丈のトップと組み合わさった結果だ(ジバンシィ、サンローラン、ミュウミュウ、イザベル・マラン、ジャックムス、クレージュ等)。映えが重視されるSNSでも、インフルエンサーらによる「腹筋板チョコ」やくっきり浮き上がった腹斜筋の写真でいっぱい。多くの場合、キラキラしたへそピアスもマストだ。
カンヌ国際映画祭でのイリーナ・シェイク。(2023年5月21日)photography: Julien Reynaud/APS-Medias/ABACA
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危険な兆候か?
2000年代に流行ったスレンダーボディの人気再燃には不安がつきまとう。一部の人々にとってそれは、痩せなくてはならない強迫観念とある種の排他的なファッションを想起させるものだからだ。ボディ・ポジティブの効果をチャラにするようなものだ。「ボディ・ポジティブのおかげで多様な体型が受け入れられるようになったが、こうした進化は危うく、確立されているとは言えない」と精神分析医で心理社会学者のカトリーヌ・グランジャールは警告する。
「ぜい肉が一切ついていないおなかはフランス国民の半数近くにとっては無縁のもの。それをみせびらかすことは自分がエリート層であることを宣言しているようなもの」
カトリーヌ・グランジャール、精神分析医、心理社会学者
カトリーヌ・グランジャールは、「1990年代から2000年代にかけて、モデルたちに象徴される“ヘロインシック”スタイルが再トレンド化し、痩せていることやフラットなお腹が復活」し、このような美の基準が再登場したことによる若い女性の摂食障害増加が心配だと言う。「女性が痩せようとすると食べる楽しみや満ち足りた気分を失います。おなかは楽しみをもたらす部位であるのに。ここは美食の国フランスです。ちゃんと食べる人はガリガリのおなかにはなりません」とカトリーヌ。人口の47.3%が肥満または過体重(1)であるフランスでは悩ましい状況だ。「ぜい肉が一切ついていないおなかはフランス国民の半数近くにとっては無縁のもの。それをみせびらかすことは自分がエリート層であることを宣言しているようなものです。ぽっこりおなかは恥ずかしいのでしょうか。自己規制する必要がない自由な女性はある意味不穏な存在なのでしょう」とカトリーヌは分析した。
ミュウミュウの2023年春夏プレタポルテショーに登場したエミリー・ラタコウスキー。photography: Imaxtree
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昔とは違う
一方、トレンド予測会社カーリン・クリエティブのトマ・ジルベルマンはもっと楽観的だ。「パリス・ヒルトンやニコール・リッチー、クリスティーナ・アギレラ、ブリトニー・スピアーズらが活躍した2000年代の服は下品で悪趣味とみなされていました。今の女性はこの時代のドレスコードで遊ぶゆとりがあります。当時はおへそを出して歩いていても、SNSにさらされるプレッシャーなんてありませんでした」と振り返る。そしてさらに「おなかを見せることは解放的な側面があります。ポストMeToo時代にあって、身体への視線は変化しました。この手のファッションが復活しても、女性たちはきっと、強制されていると感じることなく着こなしてくれるのではないでしょうか」と前向きに語った。
「おへそを出して歩いていても、SNSにさらされるプレッシャーなんてありませんでした」
トマ・ジルベルマン、カーリン・クリエティブ
クレージュ2023年春夏プレタポルテコレクションでのベラ・ハディッド。photography: Imaxtree
ローライズとクロップトップの復活がボディ・ポジティブにプラスに働く要素がもうひとつあるとトマ・ジルベルマンは言う。「プラスサイズの女性やカーヴィーボディの女性が堂々とこうした服を着ていることです。彼女たちにとっては、2000年代の美の基準や身体基準には合致していなくても新たな基準で自分たちの領域を広げる手段なのです」とのこと。たとえばパロマ・エルセッサーやアシュリー・グラハムらのプラスサイズモデル、あるいは女優のバービー・フェレイラなど、こうしたルックを堂々と身につける著名人はまだ少数派だが、インパクトは大きい。
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歪められたイメージ
それにしても包括性(インクリュージョン)や自己受容に逆行するような傾向はファッション業界だけに存在するわけではない。「問題は、SNSでありえないような画像があまりにもはびこっていて、それが私たちの潜在意識に入り込んでしまうことです。もてはやされているのは単に筋肉質であるだけでなく、ぺたんこで贅肉のないおなかです」とフランス国家認定スポーツコーチのジュリー・プジョルは言う。インスタグラムで8万人以上のフォロワーがいる彼女は、「人間ばなれした体型、すなわち極端に細いウエストに大きなヒップ、蜂のようにくびれた印象の腰を私たちは見慣れつつあるのです」と懸念を口にする。
求められているのは筋肉質であるだけでなく、ぺたんこで贅肉のないおなか。
ジュリー・プジョル、スポーツコーチ
ピラティスを専門に教えているジュリー・プジョルによれば、おなかは「セルライトと並んで、女性の身体的な悩みの第1位」だそうだ。ジュリーは女性たちがもう少し気楽に考えたらいいのにと言う。「おなかを引き締めたいと思うのはいいことですが、無理のない目標にすべきです。産後数ヶ月でまだウエストのくびれが戻らないと悲観する女性たちから連絡が来ることがあります。そんなにこだわらなくてもいいのです。手術で作られたおなかや写真フィルターをかけた写真を気にしてはダメです。女性が腹筋板チョコになるなんて不自然です。女性は生理的に妊娠に備え、おなかに脂肪を蓄えるようにできているからです」
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ホルモンサイクル
おなかをへこませようとする努力は、女性本来の姿に逆らうことなのだろうか。精神分析医で心理社会学者のカトリーヌ・グランジャールは「無理をすれば脂肪は本来あるべき場所、すなわち内臓の周りにつくことになります。超人的なスポーツや食事の日課で自分の体を追い込むことは、赤ちゃんを産むためにこの部分に脂肪をつけるという、女性の体にとって自然な状態を拒んでいるのです」と語った。ホルモンヨガの指導者であり、月経周期に合わせたスポーツクラスを提供するパリのスタジオの創設者であるシャルロット・ミュレールも「女性のおなかは男性のおなかとは違います」と言う。「運動中、女性も男性同様ストレスホルモンであるアドレナリン、コルチゾール、テストステロンを分泌します。しかし女性の場合、激しい運動によってホルモンが過剰に分泌されるとバランスが崩れ、消化機能に直接影響します」と懸念する。
シャルロットのスタジオでは生理の期間中、ハタ・ヨガやストレッチなど、体を回復するための運動にとどめるよう指導している。その後、卵胞期と呼ばれる12日間は、有酸素運動や軽い筋力トレーニングをルーティンに加える。排卵期の3日間は、希望するなら激しい有酸素運動や筋力強化を取り入れることで、さらにギアを上げることができる。そのあとは穏やかな種目にペースダウンし、次の生理が来るのを待つ。シャルロットによれば、「生理前に高負荷のスポーツをやりすぎると、身体はストレスを感じてサバイバルモードになり、必要以上に体に蓄えようとします。この時期に支配的なホルモンはプロゲステロンで、妊娠に備えてペースダウンを促します。それに抵抗しようとしてもむだです。プロゲステロンはお通じも悪くするので、それもまたおなかが膨れやすくなる原因となります。同時に、男性にはないもうひとつのホルモン、プロスタグランジンが優勢になり、子宮を「けいれん」させます。ですから、この時期は腹筋をして会陰を収縮させる時期ではなく、おなかを安らかにしておく時期なのです」とのこと。
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世界の起源
話は少しそれるが最近、妊娠中の丸いおなか、ベビーバンプをカメラの前でもSNSでも堂々と披露するセレブが増えている。たとえばリアーナやアドリアナ・リマ、ジェシー・J、ルー・ドワイヨンらだ。カーリン・クリエティブのトマ・ジルベルマンはこの現象を次のように考察する。「ベビーバンプは、平らで筋肉質なおなかと対照的な存在です。そしてセレブという社会的ステータスや、それがもたらす権力や自己肯定感を表現しています。これは新しい形のボディ・ポジティビズムです。ショービジネス業界のパワフルな女性たちしか妊娠中のこんな演出はできないし、このような格好で出歩ける女性は少数派ですが、セレブママのメディア力は、すべての女性に対する社会の見方を変えるのに役立ちます。一方で、このボディ・ポジティビズムは初期のボディ・ポジティブのトーンを変えました。筋肉質で平らなおなかやベビーバンプが讃えるのは鍛えられた健康な肉体。初期ボディ・ポジティビズムはむしろ“ありのままの自分でいい”ということでした。ここに至って自分の身体で何かを成し遂げるという考えが復活しています」
第2子妊娠中のリアーナ。(ニューヨーク、2023年5月5日)photography: Gotham/GC Images/Getty Images
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ビジネスは花盛り
腸は第二の脳とも呼ばれるが、自分のおなかが好きか嫌いか、見せるか隠すか......私たちのおなかはウェルネス産業の格好のターゲット。私たちとおなかの関係が良好であるように産業側では次々と新たな提案を繰りだす。エステサロンでは腹部マッサージメニューが多様化し、TikTokでは“ストマック・バキューム”、つまりは呼吸法ダイエットの動画が27,500万回以上も再生されている。おなかの贅肉を取る手術、タミータックは、世界中でもっともおこなわれている身体手術のトップ5に入り、増加率29.5%以上という人気ぶりだ(注2)。善玉菌プロバイオティクスの人気も復活しており、めざとい若いブランドがおしゃれなパッケージで売るようになった(Aime、D-Lab、Dijo等)。薬理学者のダニエル・サンショルの著書『スーパーマイクロバイオーム』の新版には次のような文がある。「2000年、PubMed医学書誌データベースにおいて、「腸内細菌」のキーワードを含む論文は11件だった。ところが2022年には13,000件以上となっている。これは、私たちの社会が、健康問題の中核を占めるこの研究テーマにいかに関心があるかを示している」 (注3)。これからはおなかを制するものが時代を制すのだろうか?
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アンチエイジングの鍵は腸にある?
フランス国立科学研究センター(CNRS)*の研究者たちが、老化防止のヒントになりそうなものを腸の中で発見した。ヒトのテロメア(染色体の末端についていて、長寿をもたらすことで有名)は、腸内で他の臓器内よりも早く短くなる。そこでDNA断片を挿入して腸細胞がテロメラーゼ(テロメアを保護する酵素)を産生できるようにしたところ、健康になり、寿命も伸びた......ただしまだゼブラフィッシュでの実験段階! だがこの魚の遺伝子の70%はヒトと共通していることを知れば希望が湧いてくる。
*Ircan(ニース癌および老化研究所)/CNRS(フランス国立化学研究センター)/Inserm(フランス国立衛生医学研究所)/コートダジュール大学による研究、5月4日にオンラインジャーナル、Nature Agingに発表された。
(注1)フランス国立衛生医学研究所とモンペリエ大学病院が2020年に実施した調査に基づく。
(注2) 国際美容外科学会(ISAPS)が実施した調査、1月9日発表。
(注3) Éditions Thierry Soucar、2023年。
text: Victoria Hidoussi (madame.lefigaro.fr)