シャネルのメイクアップに新しい風を呼ぶ「3ガールズ」って?
Beauty 2024.02.01
シャネルが2022年10月に発足させた、ビューティの未来を率いるコミュニティ「コメット コレクティヴ」。複数のクリエイターが協働し、チームとして互いにインスピレーションを与え、シャネルのコードを再解釈していくという新しい試みだ。その最初のアーティストに就任したアミィ・ドラマ、セシル・パラヴィナ、ヴァレンティナ・リーが揃って来日。シャネルの革新とスピリットを引き継ぎながら、新たなクリエイションをリードしていく3人のフレッシュな声、そして待望の初コレクションをお届けする。
ーー 今回、コレクティブ制という新しい形で3人が集められました。シャネルという偉大なブランドから最初にオファーがあった時はどのように感じましたか?
ヴァレンティナ・リー(以下V) 約2年前になりますが、オファーの話を聞いたのが撮影中で。うれしくて、撮影しながら静かに「やった!」と叫んだことを覚えています。憧れの存在だったシャネルにアーティストとして参画するということは、自分にとっても究極の夢でもありました。実は将来の目標として、「35歳でシャネルと働きたい」と日記に書いていたのです。このオファーをもらったのが30歳で、現実に起こったのが本当に信じられなかったです。
セシル・パラヴィナ(以下C) 「一度お会いしたい」と打診があり、いったいどういうことなんだろう?と。そしたらまさかのうれしいお話でした。アーティストとして自分の表現をしてきた中で、今後シャネルと大きなスケールで活動していくということの重大さとありがたさを感じるとともに、本当にワクワクしました。
アミィ・ドラマ(以下A) 私もふたりと同じ。非常に実験的なメイクアップ表現をしてきていたので、こういう個性を持つアーティストをシャネルが求めてくれるというのが想像もつかず、エージェントから話を聞いた時に驚きました。仕事をするにつれて、シャネルというメゾンが新しい挑戦にポジティブな精神を持つこともよくわかってきましたね。
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Cécile Paravina|セシル・パラヴィナ
アントワープ王立芸術学院でデザインを学んだ後パリに移り、ビューティの世界に進む。クリエイションにおいても、ファッションおよび芸術史に関する深い知識が息づく。©︎ CHANEL
ーー コレクティブ制という新しいクリエイションスタイルについて、どのように感じましたか?
C 業界において初の試みだと思うのですが、常に時代の先を行く精神があるシャネルらしいスタイルだな、と胸が躍りましたね。
A メイクアップアーティストは本来みな個人主義。協働するのは難しいのではと思われそうですが、そんなことはなく、3人がシャネルというブランドのもとでひとつのビジョンを共有し、そこに自分たちの表現や個性を結合させていくので、非常にうまくいっています。
V 撮影現場に行くと、フォトグラファーやスタイリストはいても、メイクアップアーティストは現場にひとり。孤独な職業なんです。時にはうまくいかなかったり、自信をなくしたりすることもありますが、ひとりで向き合うしかない。でもコレクティブという形でほかのアーティストと協働していくスタイルを聞いた時に、おもしろいな、と正直ワクワクしました。実際"メイクアップ好きの3ガールズ"が集うと、本当にスムーズでお互いが助け合えてすごくいい形になっていると思います。
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ーー "メイクアップ好きの3ガールズ"という言葉どおり、先程から3人が本当に仲の良いことが伝わってきます。実際クリエイションをともにしていかがでしたか? 大変だったことは?
C それぞれの感性でまずクリエイションをして、それを3人で持ち寄るというプロセスで進めています。シャネルという強いビジョンを共有しているので、驚くほど3人のクリエイションに共通項があったりしておもしろいですね。おおまかに、20%は自分たちらしい個性、80%はシャネルという歴史に則った表現という割合で、これらをうまく融合してプロダクトを世に届ける、そのバランスをいかに取るかが難しい点ですね。ですが個々の感性を尊重してもらえる現場です。
V まったく違う個性を持った3人が一緒にやっていくというのは、それぞれの"糸"が重なり合って紡がれるようなものだと思ってます。私たちはそれぞれスタイルも得意分野もテクニックも違う。それでも一緒にやっていけるのは、なぜ私たち3人なのか、誰のためにクリエイションしているのかを見失わず、シャネルの歴史とビジョンに誇りを持って協働するという目的がはっきりしているから。得意分野が異なる3人がいることで、いままでできなかった挑戦や化学式が生まれることを期待されているのかな、とも思います。
A ニーズも願望も多様化している時代です。シャネルのプロダクトを通して「もっときれいになりたい」だけでなく、「日常から解放されたい」「自分を見つめ直したい」など多様化するニーズにどうこたえていくのか、そのバランスをどう取るかは私たちの課題のひとつ。3人でのクリエイションは驚くほどスムーズですね。
Ammy Drammeh|アミィ・ドラマ
スペインとガンビアにルーツを持ち、2010年からロンドンに渡りアーティストに。2018年と2019年には、革新的で着想豊かな若き才能を称える英国ファッション協会の「NEW WAVE:Creatives」に選出されている。©︎ CHANEL
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ーー シャネルというビジョンの共有という意味でも、過去のさまざまなアーカイブをみなさん研究されたと思います。感じたことや発見したことは?
C コメット コレクティヴに就任してから、気が遠くなりそうなほど膨大なメゾンの歴史に触れる機会があり、それは幸せで光栄な時間でした。ガブリエル・シャネルの人間性、クチュールの歴史などを紐解く中で、個人的に印象に残ったのがパリ・カンボン通り31番地のアパルトマンに足を踏み入れた時の体験。ガブリエル・シャネルが蒐集していたアートや調度品、部屋に漂う雰囲気や色、香り、すべてに圧倒される特別な空間でした。彼女がこの世から去って長いですが、いまでも私たちに語りかけてくるような圧倒的な存在感がそこにはあります。私たちがメイクを作る時も、ただトレンドだからということでなく、そのクリエイションにガブリエル・シャネルへと通じるものはあるのか、ということが常に念頭にあります。
A 私もやはり、ガブリエル・シャネルという人物に改めて敬意を感じました。革新者であり破壊者。あの時代においてシックでエレガントでありながら、ウエアラブルな機能性のクチュールを追求してきた斬新さ。その一方で、ある種エゴを突きつめたものづくりをする、両方の才能に優れていた稀有な存在ですよね。
V たとえばこのジャケット。裾の裏側にチェーンが施してありますが、この重さがあることで美しい形が崩れず保たれています。しかもその工夫は表から見えない。こういうディテールひとつひとつのこだわりが随所にちりばめられていることにも感動しますし、プロダクトのデザインも非常にアバンギャルドで、香水もリップスティックもいまなお斬新。100年近く前にこんなデザインが生まれたことにも改めて驚かされます。それから、ガブリエル・シャネルが愛したと言われているカメリアにまつわるエピソードも印象的ですね。この花が、冬に咲く唯一の花であるという話を聞いた時に、私自身の深いところで繋がるような帰属意識が芽生えたことを覚えています。春に競い合って咲き乱れるのでなく、冬の寒い中で雪とともにそっと咲く、その静かな強さ、しなやかさに惹かれます。
C 男性のスポーツ競技に果敢に飛び込んでいったり、彼女のクチュールの原点には快適に動けることがありました。女性はこうあるべきという既成概念に囚われなかった人物として知られていますが、その精神が冬に咲くカメリアにも通じているような感じがします。ほかとは違うところで美しく気高く咲く、そんな人生観が現れているんじゃないかと思います。
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ーー 最後に、今回来日した印象と、日本人のメイクについて感想を。
V それについては2時間くらい話せちゃう(笑)。来日は12回目で、日本が本当に大好きなんです。昔から漫画やアニメのファンで、コスプレも大好きです! メイクアップアーティストを目指したきっかけもコスプレでした。頭に備長炭を乗せた青い髪の少女『びんちょうタン』や、『地獄少女』の黒髪の少女が私のコスプレデビューでした(笑)。日本のカルチャー、特に漫画からは大きな影響を受けています。10代の頃は浜崎あゆみのPVで彼女のメイクに夢中になりましたし、街を歩いていても、まつ毛の色やカラーコンタクトとか女の子の色使いが楽しくてメイクもいつもチェックしています。
Valentina Li|ヴァレンティナ・リー
アイコンカラーとして彼女の髪、目もと、ネイル、アクセサリーを彩るブルーは、中国大陸の南に位置する彼女の出身地、広西チワン族自治区に流れる川の色でもある。©︎ CHANEL
A 私はバルセロナ生まれなのですが、幼少時から日本のTVアニメを見て育ったと言っても過言ではありません。その後ロンドンで日本人メイクアップアーティストのアシスタントをしていたのですが、彼女からはただ美しくなるだけでなく、それ以上のものを表現しなさい、というとても日本人らしい貴重な教えを学びました。私は今回が初来日でしたが、京都を訪れてその素晴らしさにひたすら感動しましたし、そして何を食べてもおいしかったです(笑)
C 私は3回目になります。プライベートでも去年来日し、各地を旅して周りました。函館はとても素敵な街でした。出身のパリ以外で住むとしたら日本以外の選択肢が考えられないくらい水が合うんです。森山大道、荒木経惟、佐藤明......それに映画監督の勅使河原宏、寺山修司など。日本のカルチャーに深く心酔しています。私のクリエイションにはサブリミナル的に日本の影響がなにかしら入っています。日本人の色使いから学ぶことは多く、特に伝統的な生地などに使われる緑や紫の美しさに注目しています。
最後は日本への大きな愛を語ってくれた3人。国籍もパーソナリティもまったく違う彼女たちが、シャネルというビジョンの元に集った「コメット コレクティヴ」。パワーの宿るクリエイションから目が離せない。
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<NEWS>
コメット コレクティヴが手がけた初のコレクションが登場!
ガブリエル・シャネルのインスピレーション源のひとつであった海。その海の色に着目したヴァレンティナ・リーが、彼女らしいフレッシュな感性で創り上げたカラーコレクションが3月1日に限定発売となる。青い海の色、海底のカラフルな生き物......海に広がるカラーパレットをもとに、軽やかさや明るさを携えた12アイテムが誕生。いますぐチェック!
interview & text:Naho Sasaki