進化する日本のお香文化、モダンに楽しむ方法は?
Beauty 2025.06.18
フレグランス人気が過熱する昨今。でも日本には古から香りを楽しむ文化がある。それが"お香"。450年もの歴史を誇る香十を傘下に持つ日本香堂の代表、小仲正克がレクチャーする。
1575年に始まる香十を継承し、国内外に香りの文化を広げる日本香堂グループを率いる。2015年より現職。
お香文化をアップデート。
「日本人と香りの出合いは、仏教が伝来した飛鳥時代。兵庫県淡路島に香木が漂着したといわれています。平安時代にはお香が"薫たきも物の文化"として暮らしに取り入れられ、ひとりひとり自分の香りを持ち、部屋に焚きしめたり、残り香で存在を示したり。鎌倉時代は香木の優劣が競われ、侘び寂び文化が栄えた室町時代に銀閣寺で香道の礎が生まれます。公家の三條西実隆と武家の志野宗信による二大流派が誕生し、和歌を組み合わせて香りを聞き分ける"組香"もこの時代から」
華道や茶道とは異なり、数種類の香木を炷たいて香りを"聞く"香道は、参加者が主役。時代とともにアップデートしているので体験してみるのもいいだろう。こうして、他人へのアピールより"自分のため"と"公共性"に重きを置く、日本独特の香り文化が受け継がれてきた。いまのお香は、明治時代に線香と香水を融合させた"香水香"が始まりという。
「お香は伽羅、沈香、白檀という代表的な香木をベースに、香料を掛け合わせて調合・調香しますが、熱を加えた時の香りの変化も計算していて複雑です。たとえば柑橘系は熱ですぐ揮発してしまうので、爽やかさやみずみずしさを表現するのには高い技術が要求されます」
ウッディなルームフレグランスとして人気が高まっているが、お香の魅力はどんな点だろうか。
「拡散性が高く、オン・オフが利くので能動的にスイッチを切り替えやすい。スティックは長さによって25〜30分程度、一気に香らせるならコーン型、2時間くらい持続するうずまき型と、形状で時間が変わります。また、火をつける所作からスピリチュアルな要素に繋がり、立ち上る煙を見ている時間は、心を鎮静させるメディテーションにもなります」
家に人が来る前に焚いて残り香で招く、香りを強く感じる湿度を利用して、お風呂場掃除後に焚くのもおすすめ。
ただ、残念ながら伽羅も沈香も白檀も日本では採れず、希少。日本香堂では、高野槙、ヒノキやクスノキ、ヒバ、スギ、マツなどの和香木にも注目する。
「和木は凛とした清潔感が漂う香りが特徴。それらを中心に香原料のパレットを増やして、日本産の天然香料だけの香りを世界にも広めたいですね」
日本の香技術による海外の香水香や、新たな日本ブランドも登場している。インテリアに溶け込むデザインで、モダンに進化したお香を楽しもう。
代表的な香木
沈香 Agarwood
[原産]東南アジア
[種類]ジンチョウゲ
老木や枯木に真菌類が作用して、香気を発する樹脂が生成されて沈香になる。産地によって特有の香りがあり、ベトナム産は涼やかで甘味、インドネシア産は木の温もり感、ボルネオ産は華やかで爽やか、など。
伽羅 Agarwood
[原産]ベトナム
[種類]ジンチョウゲ科
沈香の中でも最高峰の香木。五味をバランス良く持つ。木肌の色や香質ごとに分類され、緑油は五味が香り微かに辛味、黄油は艶やかな甘味、紫油は艶やかな酸味、黒油は艶やかな苦味。
白檀 Sandalwood
[原産]インド、東南アジア、オーストラリアなど
[種類]ビャクダン科
ソフトでミルキーなウッディ調の香気を有し、香りの持続性に秀でている。高級品とされるインド産は清涼感のある甘味、インドネシア産は甘味に微かな酸味、オーストラリア産は酸味が特徴的。
お香について深めるなら......
座香十
カジュアルに"お香を聞く"香十銀座本店内のバーカウンター、Koju Rakuで行われるワークショップ、香間や寺院で本格的な香文化を学ぶ体験やオンライン講座にアクセスできるサイト。御家流香道の分類である六国(伽羅、羅国、真南蛮、真那伽、佐曽羅、寸聞多羅)の香木の香り体験会もある。
https://the-koju.com/
日常に馴染むジャパンメイドのお香9選。
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography: Shinsuke Sato text: Eri Kataoka