アジアの美を物語性のある香りにのせて。メゾン ド ラズィ創設者が語るフレグランスづくりの哲学。
Beauty 2025.06.24
6月25日に待望の上陸を果たすフレグランスブランド「メゾン ド ラズィ」。アジアに着想を得て誕生した香りは、ひとつひとつが映画のようなストーリー性を持ち、私たちを哲学的な旅へと誘ってくれる。その世界観とこだわりを、創設者のエリザベス・リァウに聞いた。
エリザベス・リァウ|Elizabeth Liau
メゾン ド ラズィ創設者
上海、マレー、オランダ系インドネシアにルーツを持ち、多民族国家であるシンガポールで育つ。アートや金融業界でキャリアを重ねる中、ヨーロッパや中東など世界各地に滞在。その後再びシンガポールに拠点を移し、2019年にフレグランスブランド「メゾン ド ラズィ」を立ち上げる。現在同ブランドは、世界15の国と地域で展開している。
アジアへの回帰、特有の文化や美の再解釈。
― まず、「メゾン ド ラズィ」というブランド名の由来について教えてください。
「メゾン ド ラズィ(Maison de l'Asie)」は、フランス語で「アジアのメゾン」「アジアの家」を意味します。私は18歳までシンガポールで育ち、その後オーストラリア、ドバイ、ロンドンなど、アジア以外の諸外国で生活してきました。海外からアジアを見る時期が長かったんですね。その後、再びシンガポールに拠点を移し、改めて自身のルーツであるアジアの文化や思想、そして美意識に深い感銘を受けました。このようなアジアの美を物語性のある香りとして表現したのが、メゾン ド ラズィのフレグランスです。
メゾン ド ラズィ エキストレ ド パルファム 全12種 15ml ¥14,300、50ml ¥30,800、100ml ¥42,900(6/25発売)/ブルーベル・ジャパン
― 今回日本に上陸するコレクションは、アジアの国をテーマにした、4つの「チャプター(Chapter)」で構成されていますね。
そうですね。チャプター1が「シンガポール」、チャプター2は「インドネシア」、チャプター3は「タイ」、チャプター4は「インド」をテーマにしています。それぞれの国のストーリーが織り込まれていますが、その典型的なイメージとは一線を画しているのではないかと思います。
― 確かに、それぞれの国から思い浮かぶ香りとは、印象が違うかもしれません。
私が表現したかったのは、アジアの美の奥底に流れる繊細な感情や哲学的な思想です。たとえば、チャプター1に属する香りである「ナンニャン」......これは東シナ海を意味する言葉ですが、「西洋と東洋の文化が融合する場所」「伝統とモダンの狭間で変革していく場所」を象徴しているんです。このような二面性を、魅惑的な香りのコントラストで表したいと考えました。加えて、チャプター1のコンセプトは「アイデンティティ」について。"私たちは皆どこから来たのか"という問いかけです。私は、人々が自分自身のアイデンティティと起源について内省するきっかけとなることを願いました。
ナンニャン エキストレ ド パルファム 15ml ¥14,300、50ml ¥30,800、100ml ¥42,900(6/25発売)/ブルーベル・ジャパン
― 具体的には、どのような香りの構成なのでしょうか?
トップは東洋的な趣のあるグリーンティーや、ベルガモットが爽やかに香り立ちます。やがてサフランやジャスミンなどの花々や、レザーやムスクが顔をのぞかせ、コントラストを描きます。「光と影」「古き良き時代と現代」の対比を叙情的に表現しているんですね。どこか郷愁を覚える香りでもあり、過去に想いを馳せることで未来に踏み出していく、そんなストーリーが込められています。
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香りは言葉を使わずに、ストーリーを紡ぐ存在。
― エリザベスさんが香りの創作において「物語性」にこだわるのはなぜですか?
私は幼い頃から内省的で、空想の世界で遊ぶような子どもでした。頭の中に、常にストーリーがあったんですね。物語を表現したくて、一時は映画監督になりたかったほどです。
― 映画でもなく小説でもなく、表現手段として「香り」を選んだ理由とは?
直接的なきっかけは、極めて個人的な出来事でした。2018年に最愛の母を亡くしたんです。その時に生まれて初めて、書くことも言葉で表現することもできなくなってしまった。非常に哀しい経験だった一方で、私の中に、ある種の美しさを伴う感情も存在しました。この説明しがたい感情を、香りならば表現できるかもしれないと、本格的な創作に取り組みました。こうして誕生した最初の香りが、「マザー ラブ」です。
マザー ラブ エキストレ ド パルファム 15ml ¥14,300、50ml ¥30,800、100ml ¥42,900(6/25発売)/ブルーベル・ジャパン
― 「マザー ラブ」は、とても温かくてやわらかな香りですね。
ジンジャーやバニラがふわふわと香り立ち、ジャスミンやマグノリアなどの花々と親密に調和します。ラストでは、ムスクやスエードの温もりが、全身を優しく包み込んでいく......。母の「無償の愛」を表現した香りですが、このような深い愛は、誰もが大人になっても求めていると思うんです。これは誰もが経験する人生の出来事だと信じています。人生のはかなさと美しさ、そして私たちが経験する循環についてのこの理解を称えたいと願っています。
― 確かに無償の愛も、大切な人との別れも、普遍的な事柄かもしれません。
メゾン ド ラズィは、誰にでも起こりうる感情や儚い美しさ、人生の物語をボトルに閉じ込めています。フレグランスは、言葉を使うことなく物語を紡ぎ、言葉で表現する以上のストーリーを囁いてくれるのです。
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時間が経っても「開いていく」唯一無二の調香。
― メゾン ド ラズィのフレグランスに物語性を感じるのは、香りの変化がドラマティックだからかもしれません。
そう言っていただけるとうれしいですね。エキストレ ド パルファムは、いずれも35~40%の濃度を保ち、香料の選定にも時間を費やしているんですね。最もこだわったのは、香りの「開き方」です。時間が経つと平坦な印象になるフレグランスもありますが、2時間経ってもそこからさらに香りが開いていくように設計しました。イントロダクションから、中核のストーリーを経て、結末に向かう「映画のような変化」を楽しんでいただけます。
来日した創業者のエリザベス・リァウ。日本には12年前、両親との旅行で訪れたノスタルジックな思い出があると話してくれた。
― どの香りも透明感がありながら、複雑で奥行きもあるのが印象的でした。
アジアのブランドとして「控えめでありながらも、エレガントであること」「中庸であること」は、とても大切だと考えています。現在、フレグランスの世界的な潮流においても、濃厚な香りが好まれていた中東で軽い香りが支持され、ライトな香りが人気だったアジアで深みのある香りが注目されています。そういう意味でも、メゾン ド ラズィの香りは世界中の方に気に入っていただけるのではないかと思っています。
― 最後に、これから香りを体験する日本の方々にメッセージをお願いします。
メゾン ド ラズィの主役は、ほかでもない「香りを纏うあなた自身」です。フレグランスを通して自身の内面を振り返り、そこから新たな旅に出る――そんな経験をしていただけたらと願っています。第1弾のコレクションに続き、いまは世界的に著名な調香師と「アジアを再解釈するコレクション」に取り組んでいます。こちらもぜひ、楽しみにしてください。
お披露目となった来日イベントでは、香りのチャプターに合わせてビジュアルも展示し、世界観を伝えた。
ブルーベル・ジャパン 香水・化粧品事業本部
0120−005−130(フリーダイヤル)
https://latelierdesparfums.jp/pages/maison-de-l-asie
text: Namiko Uno