パリ街歩き、おいしい寄り道。

素材重視の満州料理と、素足のリュクサンブール公園。

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家にいると、いろんなことに頭がいってしまって
効率が上がらなかった。それで、あるときはPCを、
別の日は資料の本を携えて、リュクサンブール公園
に行くことにした。そうやって通い始めてある日、
近くに気になる中華料理店があることを思い出した。
営業時間がとても短く、Noグルタミン酸と謳っていて、
使用素材の産地を書いた黒板を店頭に掲げている。
問い合わせたら、8月中もオープンしているというので
Chez Tontonというその店にランチに行くことにした。
メニューはかなり独特だった。いわゆる前菜はなくて、
点心もチャーハンも焼きそばもない。料理名の下には、
材料、調味料の全てが記されている。
サービスの女性にボリュームがどれくらいかを聞いて、
きくらげとレタスのヴィネガー和え、豚肉の辛味炒め、
それにごはんを注文した。
少ししてやってきたきくらげのサラダは、明らかに
パリで普通には手に入らない立派なきくらげと、
しゃきっとした様相のレタスがお皿に盛られていた。
すごくシンプルで美しくておいしそうで見惚れた。
まじまじと見つめている間に、もう一品とごはんも
運ばれてきた。
それもまたおいしそうな美しさを湛えている。
なんて言うんだろうな、足をくずして座っていたのが、
なんとはなしに、正座をしたくなるような、そんな
お料理。優しさも感じるから、ちゃんと頂こうと思う。
まずはきくらげのお皿に手を伸ばした。冷たいものと
思い込んでいたそのお皿は、すこし温かった。本当に
表示してあるもの以外のものが入っていない味付けで、
ちょうどよいバランスで具材と絡めてあり、
それだけでごはんが進んだ。炒め物もしかり。
聞けば、満州出身の方たちで、これは満州料理らしい。
フランス語が堪能なサービスの女性のおじさんは、
満州でずっと料理人として経歴を積んできた人で、
いまはこちらの厨房を担っている。彼女のお母様で
シェフのお姉さんも、一緒に厨房に立つ家族経営。
きくらげも唐辛子も満州から仕入れ、辛味油も、
その唐辛子で自分で作る。いろんなお話を聞いて、
ここのお料理は全部食べてみたいなと思いながら
お店を後にした。

ほとんどの店が閉まっているrue Vavinを通り、
リュクサンブール公園へ。
この日は曇っていて、いつもより人もまばらだった。
養蜂箱の並ぶ一角の前を通り、お気に入りの場所へ。
いすをふたつ組み合わせ、さっさとサンダルを脱ぎ、
素足になってくつろぎの体制になる。
お天気のよい日には、芝生に行くこともあった。
だいたい3時半くらいを過ぎると人が増えてきて、
思い思いの体制で、ひなたぼっこや読書をしている。
青空図書室とでもいうのかな。
こんな8月のパリの過ごし方は悪くないよなぁと思う。

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川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
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