パリ街歩き、おいしい寄り道。

国際ピアノコンクールと、ブイヨン・ピガール。

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私はピアノがとても好きだ。
小学校の卒業アルバムには「ピアニストになりたい。あと英語がペラペラになりたい」と書いた。たしか。
でも、弾くのは、センスがない。
それは小学生の時からすでに自覚していた。
それでも大学時代まで続けて、渡仏してからは弾いていない。
その間、高校時代も、ぱったりピアノのレッスンをやめていた。
ブラスバンド部に入って、合奏の楽しさに目覚め、ひとりでの演奏が退屈に思えてしまったのだ。
でも、大学に入ったらやっぱりピアノが弾きたくなって、レッスンを再開した。
高校時代の空白は、その時に、大きな後悔となった。
それがあるから、フランスに来てから何度かピアノを再開しようかと思ったけれど、勇気が出てこなかった(もういまとなっては、譜面を読むのにも苦労するだろう)。
人生でひとつ後悔していることを挙げるなら、高校時代にピアノをやめたこと、だと思っている。
と、前置きが長くなったが、去年から楽しみにしていたことがあった。
ロン・ティボー国際音楽コンクール
声楽、ヴァイオリン、ピアノ部門が交互に開催され、今年はピアノの年だ。
今週はそのコンクールの真っ只中である。
4月17日から7月1日にかけ、東京・ソウル・上海・ロンドン・ハンブルグ・モスクワ・ウィーン・パリ・オスロ・ニューヨークで選考会が行われ、選ばれたのは46人。
これを書いているのは水曜の午前中なのだが、昨日は、先週末に行われた予選を勝ち抜いた12人によるセミファイナルの2日目で、最後の3人だけ聴きに行くことができた。
会場は、17区にあるサル・コルトー。
これまでセミファイナルの会場だったサル・ガヴォーに比べると随分とこぢんまりしている。
舞台も近いし、審査員席も客席の中央に設置されていた。
調律師が舞台にいる時点で、別に自分が出るわけでもないのに緊張する。
今回のセミファイナルは室内楽の演奏からだった。
そのあとに、ソロでの演奏で、持ち時間は40分。あっという間に終わる。
セミファイナル出場の12人のうち、3人が日本人だった。
結果、ふたりが決勝に進んだ。
ファイナルで競うのは6人。
会場はラジオ・フランスのコンサートホール(NHKホールのようなところ)。
今日水曜の午後15時から夜にかけて、ひとり1時間の持ち時間でリサイタルが繰り広げられる。
そして、1日置いて、金・土曜の2日間で(1日3人ずつ)、今度はオーケストラ(フランス国立管弦楽団)と一緒にコンチェルトの演奏だ。
曲目は、コンクール側から挙げられている候補曲の中から出場者が2曲選んで提出し、セミファイナルの結果が出る時点で、審査員より、最終的にどちらの曲目を弾くかが発表される(本人は選べない)。
2007年の大会で聴いた、田村響さんのラフマニノフの演奏は、いまでも覚えている。
その夜、彼がグランプリに輝いた。
そしてその07年以降、09年、12年、15年と、3大会連続で、グランプリが出ていない。
コンクールは、出場者の本気が伝わってくるからか、やたら気が張り詰めて、聴いているだけなのに疲れ果てるのだけれど、プロの演奏会にはない緊張感と熱気があって、クセになる。
何より、人生をかけているような演奏の艶とでもいうのだろうか、魅力的だ。
客席に座るマダムやムッシュには、さながら自分が審査員のごとく、鉛筆を片手にメモを取りながら聴いている人も少なくない。
高校野球の甲子園大会を欠かさずに見るような人は、きっとこんな感じだろう。この、そわそわした、次への期待が胸に押し寄せている感覚に身を浸していたくて、また『蜜蜂と遠雷』を読みたくなった。


コンクールが終わったら、お腹が空くだろうと思っていた。
でもディナータイムには早すぎる時間帯。
だからこそ並ばずに入れると踏んで、会場からメトロで4駅のピガールにある、ブイヨン・ピガールに行こう、と決めていた。
集中した後は、甘いものが食べたい。
プロフィット・ロールの気分だった。
デザートだけにするつもりが、あまりにお腹が空いていて、ブッフ・ブルギニヨンも食べることにした。
出てきたら、少しぬるかった。
けれど、いかんせん疲れていて、学食で出てくるようなその感じが、ちょうどよかった。
プロフィット・ロールは、アイスの部分がソフトクリームだった。
ソフトクリーム自体は、別段好みの味じゃなかったけれど、ソフトクリームってだけで気分が上がるもんだ。
急に雨が降り出した後は、晴れ間が広がったり、めまぐるしい天気の1日の終わり、とてもスッキリした深く青い空が広がっていた。

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川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


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