ボローニャ「森の家」暮らし

新学期は変化の時。まるまる新生活の9月。

9月14日、6ヶ月以上ぶりにようやく学校が始まった。
新学期を迎えるにあたって、私たちは大きな決断をした。
それは、森の家に移住すること。

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今までは週末とホリデーやヴァカンスの間に来ていた森の家。2月下旬に学校が急に休みになってから、ロックダウンになり、その後も学校は開校しなかったので、夏休み中もずっと森の家にいた。 その間、パオロは次女みうの7歳の誕生日に犬をプレゼント。しかも私に相談もせず。(猛烈な雷を落としたことは言うまでもない。)

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メリーナ(イタリア語で「りんご」)は一見その辺にいる普通の犬、に見えるけど、オーストラリアンキャトルドッグで、とっても運動量の多い犬。そんな活発な子犬を連れて、庭もないボローニャの狭い家には戻れない。

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ボローニャ旧市街の家は、小学校も幼稚園も目と鼻の先にあり、小学校は毎日8時半から16時半、幼稚園は17時半まで。大きな図書館、美術館、行きつけのお店にも、ポルティコの回廊をてくてく歩いて、あるいは自転車であっという間に着く。この便利さを手放すことに、正直未いまだに未練はある。

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森の家から最寄りの町、ロイアーノの小学校は、車で片道10分。大したことない距離かもしれないけれど、今まで自転車生活で、運転をする必要はなかったし、できることなら車は使いたくない私にとって、結構な負担。しかも小学校と、慣らし保育中の幼稚園の時間帯が違うので、1日に4往復することも。そもそも、スクールバスが家の前で子どもたちをピックアップ、ドロップオフしてくれると信じていた。それが、蓋を開けてみたらスクールバスに空きがないというので、言葉にならないくらいガックリした。

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しかも小学校は週2日は16時まで、あと3日は13時までで、お昼の前に終わってしまう。そして午後は自習。子どもたちがやりたいという習い事もほぼないので(去年まではあったシアターなども、距離を確保したレッスンができないので様子見とか)、別の町で探すか、近くで個人で教えてくれる人を探すしかない。ホームステイでキッズシッターをしてくれる人を探そうかとも思っている。
幼稚園はというと、慣らし保育期間が信じられないくらい長く、初めは週2回35分、2週目は週3回40分。来週から毎日昼まで。16時までのフルタイムになるのはいつになるかいまだに未定……(今年は特別だとか)。それで上のふたりを小学校に送ったら、幼稚園のない日は末っ子のたえとバールに寄ったり、お気に入りの場所に散歩に行く。

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こんな時間は楽しいけれど、私が集中して仕事ができる時間はほぼほぼなく、かなりフラストレーションがたまっている。

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それでも、今年はとにかく変化の年(フィガロジャポン編集部の青木さんもおっしゃる通り!)なのだ。あっという間に大きくなる子どもたちと一緒に過ごす時間を大切にし、いわゆる習い事ではできない体験をさせてあげることが、将来心身ともにたくましく生きていく糧になる(……なるといいな、いやなるに違いない!)と思い、自分にも子どもたちにもプレッシャーを与えすぎないように過ごそう、と決めた。

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それに、いつもよりなんだか眠い。今までは5時間寝れば問題なかったのに、睡眠時間が確実に延びている。これも何か特別変化の多い今年の特徴な気がする。これにも何か意味があるのだろう、そんな時は無理せず身体を休めるのが良いに違いない。
森に移住したからにはやりたいことといえば、畑。

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今年はずっと森にいたので、春にはオーガニックのタネをたくさん買って蒔いたものの、土の準備がちゃんとできていなかったのと、三女のたえがある時から畑に行きたがらず、まったく面倒ができなかったので、アブラナ科、トマト、ボラジ、ひよこ豆とカボチャくらいしかまともにできなかった。世界の未来は、どんな規模であれ、家庭菜園やコミュニティ菜園など自分たちで野菜を育てることが大切だと信じている。田舎で大きな庭がある家に住んでいるからには、これを活用しない手はない。

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森の家を買った翌年の2015年から畑を始めて、2016年には、自然農法のシネルジスティックガーデンを目指して渦巻きの畑を作った。この渦巻きがグーグルアースで見られた時はちょっと感動した。

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土をほとんどいじらず、相性の良いコンパニオンプランツを植えて作る畑、1年目の夏は、なかなか豊作だった。でも、次に植えて良いものや、作物の相性とシステムを理解するためにはやはり勉強が必須。週末だけ森にいるだけで費やす時間も限られる私の畑は、2年目の夏には収穫量はかなり落ちた。

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去年からパオロの意向で平らな方が良いに違いないと、畑の場所を変えられた。確かに平らで作業は若干しやすくなったものの、耕やして土壌を破壊しない不耕起栽培をするには土が硬すぎたのと、有機物を表土に混ぜ込む土壌作りができていなかったので、またまた失敗。 けれど、畑(という名の囲われた土地)の周りはパオロに刈り込まれてしまうので、畑の内側で育ちたい放題に育つ草花が、どんなに高く育ち、どんな花が咲き、どんな虫たちが来て、どんなタネができるのかを観察するのは、とても面白かった。

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手探りで、限られた時間で作る畑では、不耕起栽培をすることは決めている。この辺りでは耕やすのが普通だけれど、不耕起栽培やパーマカルチャー(永続的な循環型農業で、人と自然が豊かになる関係づくりを行うためのデザイン手法)に基づいた畑を作っている人もいると聞く。まずはコンポストを作って土作りからかな。

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いろんな畑を見学してまわりたい。 そして、定住したからにはニワトリもまた迎えたい。

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2016年から2018年まで、森には雌鶏5羽(白1羽、赤2羽、黒1羽)がいた。毎年晩春から若い雌鶏を飼い始めると、8月下旬頃から卵を生み始める。今までは夏休みが終わるとボローニャに下山していたので、鶏舎は開けっ放し。それゆえ、冬になって食べ物が少なくなると、キツネやイタチなどがやってきて、かわいそうに、雌鶏たちは次々に餌食になった。春まで生き残れたのはよくて1羽。次の春にも同じ色の数の雌鶏を5羽迎えるも、冬にはまたしても同じ運命をたどることに。定住した今なら、鶏舎の扉は暗くなったら閉めればいい。卵の楽しみも然り、人懐っこいニワトリは、姉妹にとっても最高の遊び仲間だった。

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でも身内にやんちゃな子犬がいるからなぁ。もう少し時期を見た方がいいかも。 毎日車で家と学校・幼稚園を何往復もするなか、楽しみもある。それは、パノラマ。

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標高560mのうちから標高720mの学校にいく間、山間にかかる霧や薄雲、刻一刻と変わる絵に描いたような雲、遠くからやってくる雨、草むらから突然飛び立つ鳥、日に日に色付く木々など、この風景を見られてなんて幸せなんだろう……、と思う瞬間が毎日何度もある。都会ではなかなか味わえない感覚だ。

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ここ数年森の家に通う間に、この小さな町のキーパーソンと言えるバラエティに富んだ人たちと親しくなった。必要があれば誰かしら力を貸してくれる! と思うと、本当に心強い。バールにエノテカ、お惣菜屋さん、文房具屋さん、ヴィンテージショップ。お店の人たちともすっかり顔なじみで、みんな繋がっていて、みんな優しい。これも小さな町ならでは。そしてみんながポデーレ・ イル・カランコのことを知っているのだ。

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そもそも19世紀にこの一帯に道路を敷くために来た人がここを気に入って建てた家で、高位聖職者が泊まれる部屋があったりと、重要な家柄だったよう。ロバとヤギがいる家だよ、と言うと、みんな「カランコね! 通るたびにロバがいるから覗いてるよ」。最近出会った友達は、「80代の叔母さんがカランコに数年住んでいたことがあるって!」と言うから驚いた。少なくとも戦後は女性ばかり住んでいたよう。ご健在なうちに是非お話を伺いたい。

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ちなみにボローニャから車で40分ほどのこの町には、ボローニャ市街で働いている人も多い。これが、もう10分強向こうのもう少し大きい隣町に行くと、ロイアネーゼ曰く、モンタナーロ (山地住民、田舎者)になり、ずっと閉鎖的になるんだとか。イタリアではそれぞれの町の人が、自分の町になんだかんだ言って誇りを持っているのが微笑ましい。
今月は本当に猫の手かモモの足も借りたいくらい時間がなく、この記事を書くのもすっかり遅くなってしまった。学校は再開したけれど、小学校からはマスクが必須で、自分の机に座っている時と間食(の時間がある)、お昼の時間の時以外は、体育の時もマスクをしている。クラスメイトの顔もまともに見られない。みんな一体どうやって遊んでいるんだろう。 学校が始まる直前にクラスの父母と先生とオンラインミーティングをした時、2年生の次女の担任の先生が、「みんないろいろ不安だろうから、『大丈夫、うまく行くよ!』とか、『大好きよ!』とか、何かメッセージを書いた手紙をポケットに入れておいてあげたらいいと思う」と言っていた。それはいいアイディアだと思い、思いついたのが、握り石。

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散歩や旅先で拾い集めた石からそれぞれ好きな石を選んで。

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3姉妹のイニシャルと、宇宙エネルギーのシンボルを飾ったお守り握り石を作った。

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「何かあったらこの石に相談してごらん。きっと助けてくれるよ。」と言ったら、「もっと作って! スーパーパワーがつくかも!」とみう。いいぞいいぞ、その調子!

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あの雲の向こうは、どこまでも続く青い空。
ポケットに忍ばせたスーパーパワーお守り石をぎゅっと握って、新生活は何があっても前を向いて行こう。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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