ボローニャ「森の家」暮らし

ボローニャにも春の訪れ。出会いと学びの2月。

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毎日空が白んでいくのが早くなり、外で過ごす時間も増えてきた。サラサラの雪が降った後、大地は奥深くまで潤い、芽吹きの季節への備えは万全。冬から春にかけて森中に可愛らしい花を咲かせる黄色のプリムラや、甘い香りの紫色のスミレが咲き出すと、あぁもう春なんだな、とほっとする。

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今月はワクワクの連続だった。

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ある日のこと。庭整備をときどきお願いしているドナートに、コンポスト(堆肥)に使いたい牛糞か馬糞のことを相談をしたら、「友だちのマッシモが、パオラの馬場の掃除をする時に運んでもらえばいいよ。明日9時にうちに来るから言っておくよ」。それなら直接私からもお願いしようと思って、約束の時間にお邪魔した。マッシモは農学者で、近所にたくさん農地を持っていて、うちのロバたちに干し草ロールを届けてもらっている。マッシモに、私がやりたいと思っている耕さない畑の話をしたら、それじゃ一緒に場所を見に行こう、ということになり、森の家へご案内。去年の秋から準備しているコンポストの状態も見てもらったら、まだ数ヶ月は寝かさないといけないね、という。このままだと私がやりたい農法はすぐには始められなさそう。そしてドナートと一緒に、「悪いことは言わないから一部はトラディショナルな農法でやってごらん」。これはこの辺りの農業経験者みんなに言われること。地元の農業高校の教授にも同じことを言われた。みんなきっと知らないからだ。黒羊になった気分。何事も冒険だ。完璧でなくていい。いろんな方法でとにかくやってみるつもり。

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ドナートには卵をもらった。放し飼いの鶏たちは家の周りの林や野原で自由気ままに過ごす。そして好きなところに卵を生む。(うちにいた鶏たちはみんな鶏舎で産んでいたけど。)ガレージの隅っこに産み落とされた卵をいただいた。パックを車に積んでいてよかった。そのあと、11時に隣町のオーガニックファームでアポイントがあるというので、ご一緒させてもらっ た。

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イル・グラネッロは、うちから車で10分ほど。2.5ヘクタールの斜面に、この辺りで育てられる伝統的な野菜のほか山間の気候にも適応できる南イタリアの野菜など、さまざまな種類の野菜を自然農法で育てている。

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メカニックが本業のドナートがファームのオーナー、ロマーノの車を見ている間、農場の共同経営者の奥さまエリーザとおしゃべり。コンポストに発酵食品も加えているというと、「いいアイデアね。それなら増えすぎたウォーターケケフィアもコンポストに入れてみるわ」。それなら少し分けて! とお願いしたら、快く分けてくれた。

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何年か前に一度断念したウォーターケフィア、今度は続けられるかな。

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帰りの車内でドナートと話していると、なんと彼は20年前に2年間、バイオダイナミック農法(月や惑星の運行などに基づいて行われる農法)の大きな畑をやっていて、ボローニャのメジャーなオーガニックショップに卸していたそう。ドナートと知り合って7年経つけれど、全然知らなかった。それでも農業だけで5人家族を養うのは大変で、メカニックの仕事に戻ったそう。エリーザたち は4人兄弟の6人家族。農業は運営費がどうにか賄えるくらいで、家族を養っているのは、海洋学者のロマーノの収入から。ロマーノは年5ヶ月は船の上で過ごしている。ボローニャ出身のエリーザも海洋学者で、ふたりの出会いは南イタリア、プーリアの海。15年ほど前、自然農法の畑で家族とコミュニティを養いたい、と思い立ちボローニャ界隈に場所を探し、この土地に巡り合ったそう。この時、農業のことはまったく知らなかったそう。「もし農業の大変さを知っていたなら、農業なんて始められなかったと思うわ」とエリーザ。それでも10年以上、ファーマーとしてやっていて、スタッフも何人も抱えている。あちこちのファーマーズマーケットで野菜や卵、南イタリアの柑橘類やワインなどを売っていて、着々と顧客を増やしてきた。大変なことはたくさんあるけれど、この時代、自然を相手にする仕事での達成感は計り知れないという。頭で考えすぎず、まず始めてみる。勘を信じる。やらずに後悔より、とにかくやってみる。失敗は成功のもと。 何ひとつとして無駄な経験なんてない。みんな私のフィロソフィーを体現している先輩だ。
ドナートを家に送って、13時に長女ゆまと次女のみうを小学校に迎えに。みうは、宿題したら仲良しのクラスメイトの家に遊びに行く! というので、先日買ったトウモロコシの粉を使ったお菓子アモール・ポレンタを作ろうと思い立ち、大急ぎで作った。今月はこのお菓子を何回焼いただろう。粉は子どもたちが通う小学校のすぐ近くにある、イル・ポッジョローネから。

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週末のみオープンしている粉屋さん。界隈の畑でオーガニックで作ったさまざまな種類の麦(軟質小麦、硬質小麦、デュラム小麦、ライ麦、スペルト小麦)、トウモロコシ、ひよこ豆などを、石臼で挽いている。さまざまな挽き具合の粉があり、用途によって使い分ける。価格はスーパーで売っているオーガニックの商品より安いくらいで、普段使う粉物はほぼすべてここで買えるので、とっても助かる。始めて行ったとき、顔を見るなり、「きみたちカランコ(うちの領土の名前)の人たちだね。僕たちも同じ地主から土地を買ったんだよ」とオーナー。この地元感、たまらなく好きだ。

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ここで、たくさんの人からリクエストがあったので、我流アモール・ポレンタのレシピを大公開。

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ココナッツオイル(またはオリーブオイル。オリジナルレシピはバター)100mlと三温糖(もしくは黒砂糖)100gを泡立て器でよく混ぜる。そこに卵をふたつ加えて混ぜ、さらにオートミルクを 50cc弱加えて混ぜる。粉物(トウモロコシ粉(中挽きのフィオレット)75g、小麦粉(オリジナルレシピは薄力粉、私はいろいろな挽き方の粉を配合している)、アーモンド粉(もしくはひまわりのタネを攪拌したもの)75g、ふくらし粉8g)を加え、ざっくり混ぜる。クルミを飾って、170度のオーブンで30~40分。冷めたら粉砂糖をふりかけて、出来上がり。この日は3台焼いて、ひとつはみうのお友達に、もうひとつはドナートに。

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そしたら、また卵を分けてもらった上に、ドナートのハチミツを分けてくれた。(わらしべ長
者!)

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もうひとつは、農学者のマッシモに。「あの後いろいろ考えたんだけどね」、と、私の畑にまたアドバイスをくれた。マッシモも、バイオダイナミック農法の実践者。自然と、宇宙と、見えない力に敬意を払う者として、テクニックは違っても、同じ言語を共有できる仲間がたくさん近くにいるのは、本当に心強い。それに、学校に子どもたちを迎えに行った時以外、マスクをすることはなかった。それも、同じ「真実」を共有しているから。また近々ね! と、躊躇なくみんなと強くハグを交わして、満ちに満たされて家路についた。

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また、別の日。洗濯物を干していると、家の脇に車が停まった。歩み寄ると、もと市長で町の応援団長でもあるパオロだ。この辺りあちこちに、家や農地、森を持っていて、本業の車の仕事のほか、毎日農地やらワイナリーやら森整備やらで大忙し。以前お願いしていた柳の枝を切ったそうで、今度届けるね、というので一緒に取りにいかせてもらうことに。

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なんでも詳しいパオロは野鳥博士でもある。これはモリフクロウの巣で、これは大フクロウの
巣。と、手作りの巣箱を見せてくれた。

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ロビンは草陰に巣作りして、ヤツガシラは巣を作ることはなく、木の洞窟や石垣の隙間に何も敷きもせずポコポコ卵を産む。今、鳥たちは求愛のシーズン真っ只中。朝いちばん、クロウタドリにはじまり、たくさんの鳥たちの歌声が聞こえる。パオロは森を散歩しながら、あれはエナガ、あれはノスリ。あっちの方で聞これるのはシジュウカラ。スグロムシクイはフルートのような澄んだ歌声。と、教えてくれた。

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キツツキが木をつついている音はよく聞こえるけど、巣を見たのは初めて。穴はこんなに深く彫ってある。

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ジュニパーの上には、リスが冬眠したときに作った巢が。冬眠する時は、球体の巣を作ってその中に寝るんだとか。もう目覚めて巣はパッカリ開いている。

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私たちの話し声を聞いて、トリュフハンターで、元村の人気レストランのオーナー、アルフォンソがひょっこり姿を現した。パオロの所有地の一角は、トリュフの森になっていて、トリュフハンターの親子が管理しているのだ。トリュフ犬とよく散歩している息子のルカとは友達だけど、パパとは初対面。「いつも家の前を通るけど、熱心に庭仕事しているね。この間新聞の記事を読んだよ。作品も素晴らしいね。」何でも知っているのだ。トリュフの森には、トリュフが根に共生するポプラ、ヘーゼルナッツ、樫のほか、カエデ、エルム、オークなど、さまざまな種類の木が生えていて、アルフォンソは若いポプラの木を植えていた。

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パオロに畑と森ツアーをしてもらったら、あっという間に正午を過ぎていた。柳を車に積んで、お礼を言ったら大急ぎで小学校にお迎えに。

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子どもたちに、パオロの森でオオカミの足跡を見たよ、と言ったら、案の定連れてって! というので、夕方散歩にお邪魔した。

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春霞の山間の景色は、夕日に照らされてまた昼間とは違った雰囲気。パオロに教えてもらった木々の名前や地形の説明をしながら、オオカミの足跡を探しに。

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少し歩くだけで地質が変わる。ここは粘土質で、水はけが悪く、乾くとカチカチになる。それ で、足跡もくっきり残る。見慣れたノロジカの足跡は、うちのチベットヤギ、くるみと同じで、大きいサイズ。

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アナグマの足跡は、熊のような肉球の並び方。

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そして見つけたオオカミの足跡。三女のたえの手くらい大きい。

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ゆまは粘土を採取。何やら実験したいそう。

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みうは、地衣類サルオガセを採取。サルオガセはさまざまな菌に効果があり、植物療法フィトテラピーでも使われるそう。持って帰ったら、庭で摘んだスミレやヒナギクと一緒に並べてお店を開いて暗くなるまで遊んでいた。

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今月は、好奇心の赴くまま、新ことをいろいろ始めた。クラウドファンディングプラットフォーム「Patreon」で、ロジカルでスピリチュアルなジェイソン・シュルカによる、月間を通して行われるオンラインワークショップに参加。今月のテーマは、マニフェステーション(願望実現)。ワークショップには、素晴らしい実績のリモートビューアーや、細胞レベルからワークするヒーラーがガイドするメディテーションも。エネルギーの法則や、言葉を巧みに使ってプログラミングやリプログラミングをする方法など、さまざまな角度から総合的にマニフェステーションについて学んだ。

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また、サイエンティスト、ドクター、ノーベル賞受賞者、チャネラー、ヒーラーなどに、独特なアプローチでインタビューをするマイケル・サンドラーのオートマティックライティング(自動書記)のオンラインクラスも受講。オートマティックライティングは、朝いちばんにまだ頭が冴えきっていない間に行う。目覚まし時計は5時15分にセット。浅い睡眠の時などに出る脳波、シータ派の音楽を聴きながら。深い呼吸を繰り返し、無心の状態になったら、ソース(源)、神々、スピリッ ト、インナーガイドなどに祈りを捧げる。それから質問形式で自動書記を始める。まだまだトレーニング中だけれど、いまで1ヶ月弱、毎日出てくるメッセージを読み返す(これも大事な作業)と、いろいろなサインに気付くから面白い。

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もうひとつ始めたことは、夢の記憶のメモと、前日あったワクワクしたこと、ありがたく思ったことを3つ以上書き留めること。それも今まで書いたことがないこと限定。これが意外に毎日たくさんあるので、見直すのも楽しい。締めには、「今日が未だかつてないほど最高に素敵な日になりますように!」という一行を。毎日感謝とポジティブなバイブレーションで始める。そして、天の導きに身をまかせると、本当に面白いことがたくさんある。

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2月末で、森生活を始めてまる一年になった。もともと興味があったスピリチュアルやスーパーナチュラルな世界。ロックダウン中にソーシャルメディアで知った尊敬するドクターやサイエンティスト、精神科医、エコノミストたちが皆その世界に精通していることを知り、ますます虜になった。今年から朝のメディテーションが習慣になり、ワークショップも通じて自分のコアな部分が確立してきた気がする。いろいろなサインも現れるようになってきた。

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霧が晴れて雲海のようになった丘の上でメディテーションをした後のこと。木々の間から覗く逆光の朝日を眺めていると、その手前を不思議な霧の塊が通り過ぎが。すると、朝日をぐるり、くっきり虹が。ゾクゾクして思わず手を合わせた。黄色い蝶々が1匹だけふわふわ飛んでいたり、教会の上に大きな鳥のような雲が見えたり。みんなに見守られているよう。

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2月上旬には、今までで見たことがないほどたくさんの虹を見た。

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自然療法士のアンナマリアは、シベリアのシャーマンの友達曰く、虹は向こうの世界とのポータルなんだそう。

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私は、虹は新しい始まりの訪れや、ゴーサインだと思っている。それを証明するかのように、今月は新しいことを始め、新しいご縁に恵まれ、新しい世界の扉が次々開いてきた。

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ワイルドプラムの花が咲き始め、ハチたちの賑やかな羽音が聞こえて来るようになった。賑やかにさえずりながら、忙しそうに飛び回るシジュウカラたちも見かけるように。この鳥は、ユニークな発声方法で、周りの環境についてさまざまなメッセージを仲間に伝えることができるとか。ネイティブアメリカンのトライブでは、シジュウカラはスピリットの世界のメッセンジャーで、先祖たちの知恵と真実を伝えに来ると信じられている。

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サインはどこにでもある。私たちはいつだってひとりではない。いつも見守られているのだ。今もやもやや、不安を抱えている人たちは、外に出て春の兆しを探してみてほしい。小さな芽吹き、鳥の歌声、光の変化、空気の香り。見えなかったものに気づき始めたら、それは小さな灯火、変化の始まり。そして、細胞の隅々まで光をたくさん取り入れる。毛穴中から宇宙中の光を深く吸い込み、毛穴中から吐き出す。吐き出されるのは始めは濁ったものが、済んだ光になるまで続ける。ワークショップで教わったお気に入りのテクニックは、毎日の習慣になった。3月からしばらくうちの小学校もオンライン授業に切り替わるそう。授業が終わったら子どもたちと散歩に出かけ、森を、大地を、空を観察し、光を深呼吸しよう。大好きな季節を、子どもたちと思いっきり楽しもう!

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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