ボローニャ「森の家」暮らし

気付きと学びの毎日。大地との絆を深める5月

春はとっくに幕を開けたものの、なかなか気温が上がらなかった5月。例年以上に強風の日が多く、風にあおられ畑の作物は身を縮め、暖かい気候を好む苗はグリーンハウスからなかなか出ていけなかった。
でも、この風のおかげで楽しめるエンターテイメントがある。

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家の向こう側にある大麦畑。銀色がかった緑の穂が風にあおられ揺れる様は、まるで緑の大海。ときに優しく、ときに荒々しく、さまざまな方向へ揺れる穂は、まるで生き物のようにも見えたり、または天使のダンスの風跡にも思える。

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大麦畑は、しばし子どもたちの遊び場に。

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末っ子のたえの背より高くなった大麦の間には、よくポピーが咲いていて、たえはそれを摘んでく る。他にもヤグルマギク、野生のセージやマーガレット、ムギナデシコなど、愛らしい野草がたく さん。

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先日、自然療法セラピストのアンナマリアとシルビアが主催するウォーキングに参加した。

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うちから5分の丘の上に集合して、参加者25人と2キロ先にあるオーガニックファームまで田舎道を歩く。

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道中、アンナマリアはさまざまな野草の性質、効能や伝統など説明してくれる。この茂みはクリスマスローズ。

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ここアペニン山脈に自生する植物の中でも5本の指に入る毒を持つもので、特に根は猛毒。戦時中田舎の人たちはこれを意図的に食べて歯を抜き落とし、健全者でないように見せかけ、アメリカ兵の捕虜にされないようにしたそう。ちなみに学名の「ヘレボロス」はギリシャ語で「殺す食べ物」。

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紫の穂がたわわについたようなランパショーネ(ムスカリ)は私も大好きな野草。玉ねぎに似た球根は、プーリアやバジリカータなど南イタリアで食用に栽培されている。プリエーゼの友だち、ドナートの大好物で、生でも食べるというけれど、長時間かけて下処理をしないと強烈な苦味があり、調理しないと毒性があるので下痢になるというので、うちにもたくさん生えているけれど 未だ食すに至っていない。

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アンナマリアはこの他にもハコベ、プリムラ、オオバコ、アキレア(ノコギリソウ)、タンポポ、菖蒲、タイム、レモンバームなど、たくさんの野草のエネルギーや惑星との関係などを、とてもわかりやすく説明してくれ、参加者たちはみんな聞き入っていた。

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ハイキングの道中、シルビアは感覚を研ぎ澄ませるメディテーションをガイドしてくれた。ここには見えない門があり、この先には新しい世界が広がっています。目をつぶって3度深呼吸して、門をくぐるとき、過去や心配事はすべて置き捨てて行きましょう。母なる大地に横たわり目をつぶったら、身体に溜まったネガティブなエネルギーを地に解き放ち、芽吹きのエネルギーをチャージ。そのとき手に置かれた植物を、触覚や嗅覚を使ってどんな植物なのか想像しましょう。森の獣道をゆっくりゆっくり歩き、気になったものを触って観察しましょう。

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この時、私は一本の木に引き寄せられるかのように近づいた。それはブナの木だった。幹に手を触れたとき、息をのんだ。そこにはたくさんの目があったのだ。何かシュールな世界のベールが開いた気がした。この一連のメディテーションは、大人も子どもも皆が経験すべきだと思う。

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ハイキングの終盤、個人所有の湖のほとりでメディテーションをするというので、素敵なヴィラを通らせてもらった。

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もと修道院で、約100年前にいまのオーナーのおじいさんたちの手に渡ったヴィラには、家具修復家とブラックスミスのアーティスト夫婦が住んでいる。樹齢数百年の珍しい杉の木の下には、さりげなく鉄の車輪と木の板で作ったベンチが。

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井戸や洗濯桶の花壇、何もかも素敵。アンナマリアは、古い家の周りにほぼ必ず植わっているローズマリーは家を守る意味があり、フォルクローレではその根にはノームが住み、悪いスピリットを追い払ってくれると伝えられると、目をキラキラさせながら教えてくれた。ちなみにカモミールは人を好む植物で、家の門の方に植えたら徐々に家の方に近づいて来て、気付けば玄関の脇や窓の下など人気があって賑やかなところに生えて来るそう。昔はどこにでも生えていたカモミール。環境汚染にとても敏感で、いまでは野生ではほぼ見つからないそう。なので、バルコニーにでも是非カモミールを植えてほしいと言っていた。

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家の裏の麦畑の向こうにあるこの湖。もう夢のよう。穏やかな水のきらめきにため息をして、虫の音を聞きなが最後のメディテーションをしたら、オーガニックファームに。

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エリーザとロマーノのオーガニックファーム、イル・グラネッロは、ボローニャ界隈のファーマーズマーケットにも出店していて、ピクニックコーナーや畑の作物を使った優しい料理を提供するフードスタンドもある。

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素朴な料理を緑の中で気のおけない友だちと分け合って食べるのは、久々だった。個性はみんな違っても、同じ価値観を共有する友の存在は本当に貴重だ。分け合う楽しみといえば、ガーデニングをしている友だちと、種子や苗を交換すること。

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ボローニャ大学の教員、エンリコは、出張先からいろいろな種子を買ってくるのが趣味。ボローニャを見渡す丘の上にある彼の遊び場の土地でバーベキューをしたときのこと。息子とおばあちゃんと実験的にやっているという畑の近況を伺って、

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数年前出張先のアメリカで手に入れて以来毎年育てているという3種類のトマトの苗をもらった。

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映画『モンサントの不自然な食べもの』でラウンドアップ(除草剤)や遺伝子組み換え作物などについて衝撃を受けた人は少なくない。原種やそれに近い種子や苗木、またはオーガニックの種子を家庭菜園でも保存することは、とても大切なことだと思う。エンリコは、種子の交換フェアーや郵送で交換するシステムのことを教えてくれた。種子をちゃんと保存できたら、是非参加してみたい。

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元市長で、界隈のことはなんでも知っているパオロは、今年もトマトの苗をたくさんくれた。近所の農家のフランコが、毎年自宅用に作っている苗をたくさんくれるからと、お裾分けしてくれる。

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当初からわたしの畑を応援してくれているパオロが、「ぼくもやりたかったんだよ」と眺めているのは、

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スパイラルハーブガーデン。

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ノーディッグ方式に従い、雑草対策で段ボールを敷いた上に、家の周りから出てきた石を積み上げて、馬糞と古いウッドチップとコンポスト入れ、

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子どもたちと一緒に選んだハーブを植えた。

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畑じゅうに敷き詰めた段ボールの下は、ミミズでいっぱい。光が届かず雑草は死んで、ミミズは段ボールを食べる。この上に積んだコンポストに植えた作物の根が、朽ちてきた段ボールの下の土に着く頃には、ミミズ効果もありいい土になっているという。ただ、ミミズがいてくれて嬉しいのは野菜だけではなかった。

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豊かな土にやってくるたくさんのミミズが大好物なモグラが、畑じゅうトンネルだらけにしてしまうのだ。モグラの通り道の盛り上がった土を踏み潰していると、下から押し返された。もしやと思って手を突っ込んでみたら、やっぱりモグラだった。

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手のひら大の、絵に描いたようなモグラは、ベルベットのような毛並みでツヤツヤしている。

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しばらく観察して、道路を挟んだ向こう側の栗林に放ちに行った。もう帰ってこないでね。でも一体何匹いるんだろう。地下深くに張り巡らせたトンネルにはきっとたくさんの家族がいるに違いない。音に敏感なモグラが嫌がる周波数をだす道具を導入したり、モグラが嫌がる匂い(ニンニク系)のつぶつぶをまくなどいろいろ試したものの、特に効果は見られず。一番は、猫を飼うことだよ、と言われた。犬たち(たぶんやんちゃなメリーナ)が4、5匹捕まえてきたけど、まだまだいるよう。猫ねぇ。どうしたものか。

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来てくれて嬉しいものは、ミツバチ。今年もアカシアの花が咲く頃、養蜂家のルカが蜂箱を持って来た。

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うちでとれるのは、アカシアの蜂蜜。ちなみにアカシア、正確にはニセアカシアで、和名はハリエンジュ。アカシアもニセアカシアもマメ科に属する遠い親戚。でも本来のアカシアの花の形はミモザのようにふわふわで、まったく違う。明治時代に日本に輸入された当初は、これをアカシアと呼んでいたものの、後に本来のアカシアの仲間がやって来たときに、ニセアカシアに改名された。でも、「ニセアカシアのハチミツ」、なんて響きも悪いのもあり、一般的にアカシアと呼ばれている。

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アカシアの花が咲くこの時期、ゲストが来ると子どもたちは「ママのフリットはすっごく美味しいんだよ!」と大宣伝をして、たくさん摘んでくる。それで、ひよこ豆の粉、ターメリック、挽きたて黒胡椒、塩と水でトロトロの衣を作り、せっせと揚げる。

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ひよこ豆の粉で揚げると、カリッと香ばしくほんのり甘くて、止まらない美味しさ。それで揚げ続けることになるので結構大変。

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でもやっぱり美味しいし、みんな喜んでくれるので、今日も揚げ物。わたしがアカシアより好きなのは、イラクサ。

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素手で触ると全体に生えた細かいトゲで猛烈に痛くてかぶれるけれど、調理すれば怖いものはない。ミネラルなど栄養満点、揚げても茹でても煎じても美味しい、世話をせずともどんどん生える、有機液肥にもなる、と万能なのだ。

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この辺りで一番メジャーな食べ方は、生パスタに練り込むこと。わたしはそれよりずっと手軽にできるペーストを作る。茹でたイラクサを冷水にさらし、よく絞ったらミキサーに。ニンニク、炒めた玉ねぎ、塩、植物性ミルク、クルミやひまわりの種、オリーブオイルを入れて撹拌。

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茹で上げたパスタとあえれば色鮮やかで栄養満点の一品が出来上がり。ペーストには煮たひよこ豆や赤レンズ豆、大豆を加えて撹拌してショートパスタにあえたり、それをオーブンで焼いたり、またはフムス系ディップにしても美味しい。

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畑の様子はというと、ようやく暖かくなったこの一週間で絶好調に育っている。

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三週間前の様子。

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今では。

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子どもたちと草取りをしながら、いろんな葉っぱを味見。大尊敬する医師で、ファーマーズフットプリント(農家の足跡)というノープロフィットオーガニゼーションを設立し、効率重視でケミカルをたくさん使う農法で弱った大地を癒し、人々の健康を取り戻すという素晴らしい活動を行っているザック・ブッシュのインタビューで、印象的な話があった。少しでもいいから、野菜やハーブを育てよう。キッチン窓辺にミントの鉢植えを置くのもいい。毎日その葉っぱを手を使うのではなく直接食いちぎって食べる。空気に触れると壊れてしまうビタミンやミネラルと、ミントと共存しているバクテリアと直接繋がって、インテリジェンスを取り込もう。植物とつながるこんな密な経験は、わたしたちのエネルギーフィールドに少なからず影響する。想像するだけでワクワクする。

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お皿に盛ると苦手な野菜も、畑から直接食べると楽しい。子どもたちは友だちが来ると、みんなを畑に連れていき、いろいろ味見させる。たえが花や葉っぱをむしゃむしゃ食べているのをみて刺激される子も多く、チクチク痛くて嫌いだったイラクサを、フリットにしたら感激して摘んで帰っていく子も。嫌なことや状況は、好奇心でひっくり返せる。これはたくさんのことに応用できるテクニックだ。

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多くの野菜は生で食べるのが一番いい。サラダ菜やほうれん草などは、毎日外側の葉っぱを収穫してサラダに。

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収穫は主に長女のゆま担当。

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レタス、水菜、ブロッコリーの仲間、フェンネル、からし菜、ネギ、ラディッシュなどに加え、タンポポやアオイなど野草も入れて、14種類の葉っぱのサラダが出来上がり。これにヒマワリや カボチャの種、チアシードや麻の実など加えたら、バラエティー豊かな一品ができる。イラクサ のフムスにキヌアやバスマティ、または種がいっぱいの天然酵母パンでもあれば、わたしにとって理想的な一食が完成。

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グリーンハウスでは畑用に、キッチンではスプラウト用に、常に種や豆を発芽させている。小さな種は、適度な水、温度、酸素さえあれば発芽する。そして、光の方へと伸びて行く。この純粋なエネルギーとインテリジェンスに、神聖なものを感じずにはいられない。

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わたしたちは本来素晴らしい再生力、治癒力を持ち、スーパーナチュラル(人知を超えた)なことができる能力を内包して生まれて来た。それが、電磁波汚染、水道水にも入っているフッ素や残留塩素など、アルミホイルやアルミ缶のみならず制汗剤、歯磨き粉、日焼け止めなどボディケア用品、ベーキングパウダー、頭痛薬や予防接種など医薬品にも入っているアルミニウム、ペットボトル入り飲料水、プラスチック容器や小包装、テイクアウトの食品にも流出するプラスチック粒子など(生理用品、オムツ、フェイスマスクもプラスチック)、(現代人は一週間に平均クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取しているという研究結果がオーストラリアから最近発表され驚愕した)など、日常的に有害物質をたくさん摂取することによって、病気はもちろん、元来持っているはずの能力を失うことに繋がっている。

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恐れは判断力を下げ、自由を失わさせる。クリティカルシンキング(健全な批判的精神と客観的、論理的、適正な思考)ができなくなる。情報操作で恐れを与えて人々を都合のいい方に誘導することは、人類史上ずっと行われて来たことだ。

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自分を取り戻すこと、自分に帰ることが、ヒーリングと幸せのカギだ。それには、童心に戻ること。好奇心を持ち、どんな状況に置かれても自分には選択肢があることを認識すること。さまざまな 感情は、たとえ辛く悲しいことであっても、無視したり卑下したりせず、しっかり受け止め、あとは流すこと。やりたいと思うことを思いっきりやること。

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ある日思い立って半日でカパンナ(小屋)を作った。春先に石と伐採した木などを積んで作った円形の土台は、まだ何に使うか決めかねていた。

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作りながら、ここはエネルギーのポータル(門)な気がしていた。寝転んで空を眺めると最高に気持ちがいい。クリエイティブで気性が粗めの次女のみうと一緒に作りながら、「イライラしたら ここに来て、深呼吸して中に入ってね。イライラを大地に吸い取ってもらって、光を充電してね。」というと、「うん。これ、平和のカパンナ(la capanna della pace) って呼ぼう」と言った。

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《上の如く、下も然り。 内の如く、外も然り。》伝説的な錬金術師、ヘルメス・トリスメギストスの、宇宙の法則の一文。世界で、宇宙で起こる現実は、心の反映。内側にも外側にも宇宙は広がっている。

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私たちは自由になるために生まれて来た。創造するために。経験を生きるために。もう何ヶ月も 魂が訴えていること。ここで遊ぶ子どもたちにもこの言葉のエネルギーが届くように。

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成長する過程で、身近な人から、社会からプログラミングされて来たことから自由になり、本来の自分を思い出す、取り戻す。それ 今やっているところな気がする。

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アンナマリアとウォーキングしていたとき。今年は勿忘草が例年以上にたくさん生えていることを指摘し、「みんな混乱した世界の状況に気を取られず、自分の生まれ持った能力、使命、権利を思い出してね。というサインだと思う。」と言っていたのがとても印象的だった。この控えめながら愛らしくてたまらない花のメッセージ、心に刻んでおこう。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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