ボローニャ「森の家」暮らし

太陽をたくさん浴びて、野菜もご縁もよく育つ8月。

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連日暑い日が続いた8月。朝起きたらまずは畑に。水が必要そうな野菜や草花に水やりをしたり、アナグマがひっくり返したマルチ(根覆いの藁や草)を整えたり。

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手入れは最小限で、自然に任せた野菜作り。トマト、ズッキーニ、ビーツ、ナス、ペペロンチーノ、サラダ用の葉っぱなど、毎日少しずつ収穫。

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ビーツは若い葉はサラダに、大きい葉は炒めたり煮たりして夏中食べてきた。

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甘みがある赤い根は、生でサラダに入れたり、皮ごと茹でてから切ってサラダやカレー、ヒヨコマメのフムスに入れたり。

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ジャガイモは土に埋めず、刈った草やウッドチップを上にかぶせて育てた。水やりをほとんどしなかったので小ぶりだけどたくさんできた。収穫は被せたものをどけるだけで、土掘りいらず。土も付いていないのでさっとすすいで、皮ごと調理。いろんな野菜と炒めたら、新鮮な卵でとじてフリッタータに。

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この夏何度も作ったナスとズッキーニを使った料理のひとつは、インドネシアのナシゴレンをイメージした一品。

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夏野菜と、ひき肉の代わりに大豆ミートやほぐした硬い豆腐で作った具は、ナンプラー、オイスターソース、砂糖、唐辛子などで甘辛く味つけて、バスマティライスに乗せてテーブルに。

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夏場に簡単に育てられて便利なのは、スプラウト。ムング豆で作るもやしは、1週間以内でできる。近所でもやしは売っていないし、あっても小さいパックで数ユーロするので自宅で作るのに限る。スプラウトは栄養価が非常に高く、少しのタネでこんなにたくさんできるので最高だ。こうして手をかざすと熱気が感じられる。私たちは命をいただいて生きているのだ。

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8月15日を過ぎたら毎年秋めいてくるけれど、今年も同じ。永遠に続くかと思われた熱波も過ぎ、にわか雨が降ったりして茶色く焼けた芝生も少し青くなってきた。

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日照時間は4月と同じくらいになって過ごしやすくなり、水やり以外で畑で過ごす時間も増えてきた。グリーンハウスでは暑すぎるので、テラスの日陰で育ててきたレタスやスイスチャードの苗を畑に植え替えたり、秋冬の野菜のタネを撒いたり。季節の移り変わりを感じて過ごすこんな時間が大好きだ。日が少し傾いてくる頃、近所に散歩に。

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うちから徒歩10分、教会の向かい側に住んでいる可愛いおばあちゃん、ジーナは、通りから私たちの話し声を聞いて窓からひょっこり顔を出して、ニコニコ降りてきてくれた。

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毎日庭仕事をして過ごしているジーナ。1歳でボローニャの孤児院からこの近くの家に引き取られてきて以来、80年間この村から出たことがない。うちの元オーナ一一家に家族同然で可愛がられてきて、幼少時代は毎日のようにこの敷地で遊んでいたそうで、いろんな逸話を聞かせてくれた。

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前回来た時はまだ寒かったのでここにある植物はすべて家の中においてあった。

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この日は初めて家の中にもお邪魔した。若くしてご主人を亡くし、ひとりで子どもたちふたりを育てあげ、今はひとり暮らし。

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電話には子どもや孫の写真が貼ってあり、ワンプッシュで通話できるので便利なのと笑う。カランコ(うちの名前)は戦後からほぼ無人で庭も荒れ果てていたのが、あなたたちが越して来てからとても綺麗になったと聞いて嬉しいわ、今度子どもたちとお邪魔するわね。というので、その時は是非カゾンチェッロの庭園のガブリエッラにも来て欲しいと思う。同世代で古くからの友だちだけど、何十年も電話でしか話していないというのだ。

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ジーナの家から15分歩くと、マリアエリーザの家がある。

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道を挟んだ左側が元納屋だった母屋で、右側には元おばあちゃんの家を改装した素敵なレジデンスが。

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マリアエリーザは長年市役所勤めをしていたのが、元納屋だった家を改装するときにインテリアに目覚め、一年ニューヨークでインテリアデザインを学びに行った行動派。

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ここで育った彼女のお母さんはジーナとガブリエッラのことをよく知っているというので、過ごしやすくなったらみんなうちに誘いたいなと思う。

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ガブリエッラのご主人で漫画家のルーチョの家にもお邪魔した。主人公を作り、物語を数コマで組み立てるというワークショップをしてくれた。

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主人公は魔法を使う不思議なネコ、ということになり、それぞれマジカルなネコを描いた。話のあらすじをそれぞれが決めるところで時間切れになったけれど、一日中ジャム作りをしていたというガブリエッラもやって来て、作っていったお菓子を一緒に食べておしゃべり。

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一雨降って水やり休みができて嬉しいわ。というのはガーデナーみんなの声だろう。いただいた作りたてのプラムジャムの美味しかったこと。

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ジーナもガブリエッラもマリアエリーザもよく知っているこの家、カルバネッラ。

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元農家で大きな納屋と広大な農地があり、ガブリエッラは12歳の時、当時住んでいた家から片道40分かけてここにチーズを買いに来ていたという。数年前から売りに出されていて、今年ボローニャ出身の友達夫婦が購入した。

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サラとルカは建築家夫婦で、昔からの夫のパオロの友だち。7年前から仕事でパリに住んでいる。私たちの生活ぶりにも刺激されたそうで、馴染みのあるこのエリアで家を探していたので、パオロがカルバネッラを紹介した。数カ月迷った末、購入してとても喜んでいる。

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何よりこの景色。広い空のキャンバスには明け方や夕暮れには心を打たれる色のグラデーションが広がり、雨の後には虹が、夜空には天の川が空いっぱいにかかる。10歳の長女、ビアンカは、私この家に住めて幸せと言って、サラとルカを感激させた。

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まだこの家に完全に越してくるか、バケーションの時に使うかは未定。施工はパオロに託されている。建築家の素敵な家のリノベーション、私も楽しみ。

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森の家から4時間半、イタリアとスイスをまたぐマッジョーレ湖を見下ろす築500年のこの家は、ドイツ人の親友、ユリアのおじいさんの家だった。毎年この家でユリア一家と過ごすのを、子どもたちも楽しみにしている。

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スイス側のここは、年間を通して比較的温暖で、バナナやパーム、地中海の植物などスイスとは思えない植物が元気に育つ。

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大きなイチジクの木には鈴なりにイチジクがなり、朝起来て窓の外のイチジクを頬張るのは最高のご馳走。1日だけ一緒だったユリアのお姉さんカテリーナ(左)は建築家で、北イタリアのウディネの放棄された村を徐々に買い取り、修復しながら徐々にレジデンスにしていて、村は息を吹き返した。お城の修復を得意として、オーストリアに多くのクライアントがいる。いつかカテリーナの村にもお邪魔したい。

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この日は7年前初めてユリアの家にお邪魔した時に一緒に訪れた、フォロッリョ滝を見に。

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前回は下から見るだけだったけど、今回は登ってみることに。腰が重い男性陣は出発前から心配気げ。

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急な石の階段を登って登る。三女のたえは、度々立ち止まっては木や岩に抱きついたり葉っぱを集めたり。

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30分も登ると、この景色。

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さらに登って滝の上まで。

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天空の国に来た気分。

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りんご発見。

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3年生の次女のみうの宿題を見ていて、どれが生物か、という問題で、石や水が出て来たとき困ったことを思い出した。私は石も水も生き物だと思う。

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冷たく澄んだ川の水に、手足を浸して寝転んだ。水の音で思考はかき消される。手足は冷たくなるも、暖かい岩に抱かれ、浄化され、満たされた。

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水の流れが聞こえて日の出が見えるところで暮らすのは、ちょっとした夢だ。子どもたちは冷たい川に飛び込んだり、岩を伝って上流を目指したり、洞窟を探検したり魔法が使えそうな枝を集めたり。こんな経験は一生の糧になるに違いない。

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スイスから帰って早々、海に行った。私たちにロマーニャの魅力を教えてくれた仲良しのヴェロニカの秘密の誕生会が企画されたのだ。

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開催地はお隣マルケ州の自然保護区にあるヴィラ。

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11歳の時を最後に、誕生会はしてこなかったヴェロニカ。

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彼女を慕ってやまない友だちが集って行う極秘の誕生会は、すべてが完璧だった。

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12年前にフードブロガーとしてキャリアをスタートしてから、今やロマーニャのフード業界で知る人ぞ知る存在になった。クライアントのシェフと、鮮度にこだわったシーフード業者から贈られた贅沢なビュッフェに、みんな目をキラキラさせていた。

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キッチンには彼女のクライアントで、私も作品を依頼されたオステリア・テラのシェフ、ジャンマルコが。

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花や演出はカルロッタ、チーズは売れっ子羊飼いのエミリアーノ、ワインはナチュラルワインのカンティーナのマッシモ、ドルチェは女性シェフ、アッズーラと食周りを演出するサラなど、クライアント同志で彼女を愛してやまない友たちによって作られたテーブルは、本当に素敵だった。

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サプライズってきまり悪いしほんとに困るんだから、というヴェロニカ。でもとても嬉しそうだった。

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このイベントで重要な役を果たしたのは、弟ジャンマリア。あちこち駆け回ってレンタルして来たり設営したり。ヴェロニカ同様、若くしていろんなビジネスをしてきた彼はやり手で、特にやりすぎて家族を困らせるけど、青年はこれくらい勢いがあるのがいい。

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自然保護区なのに花火あげちゃったり。(幸い警察は来なかったけどそれも想定内だったとか……)

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おかげさまで誕生会コンプレックス(?)は克服したので来年は自分で主催することにするそう。

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翌朝。日の出前に目覚まし時計をセットした。

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この景色を見たかった。日がかなり昇るまで目を閉じて、大地にただただ座っていた。

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朝8時にプールで泳いだ。このプール、塩素を使わない塩水タイプでサイズもシステムもうちに導入しようと思っているものに近い。(塩素は嫌いなので私はプールにはほとんど入らない)。循環させる装置がオンになると水が流れる音がするので、ふと、海水プールができたら少なくとも夏の間はいつでも海と川と繋がれる気がして嬉しくなった。

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ヴェロニカへの贈り物。

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喜びは、一切れのケーキを分け合うこと。そして喜びはa piece of cake(簡単なこと)。

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いつもたくさんの笑いと口福と驚きと愛情をありがとう。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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