ボローニャ「森の家」暮らし

ガーデニングは未来への架け橋。人と自然とつながる9月。

長い長~い夏休みがようやく開けた9月中旬。

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日中は半袖で過ごせる日があっても、朝晩は肌寒くなって来た。恵の雨のおかげで大地は潤い、見渡す限り青々としている。

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春に植えたさまざまな種類のサラダ。花が咲いてタネが落ちて畑一面ベビーサラダが。

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半月前はまだこんなに小さかった。9月の畑がこれだけ豊かなのは初めて。

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畑作りを本格的に初めて3年。自然のリズムと作物を準備するタイミングがだんだんつかめてきた。

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タネを集めるのも大事なこと。キュウリとメロンなど交配した可能性のある野菜やF1種、ハイブリッドの苗からの採種は問題があるものの、サラダ、豆、ラディッシュなどは採種がしやすい。それで何株かは収穫しないで花を咲かせてタネを集めるようにしている。

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サラダ系ほかビーツやスイスチャードは春でも秋でもタネを植えられるので、一部は採種し、あとは畑のあちこちに植えた。

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畑は土を耕さないノーディッグ・ガーデニング。ノーディッグを推進するイギリスのガーデナー、チャールズ・ドウディングは7年も8年も同じ畑で同じ作物を育てて大成功していて、ノーディッグ方式で土のバイオロジーを壊さず土を豊かにしていく農法だと、作物は病気にならずローテーションする必要は無いことを立証している。

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畑にはさまざまな作物を混ぜて植えている。この辺りは枝豆に挑戦したものの水をほとんど与えなかったので実がちゃんとつかなかったけれど、豆科の作物を栽培したあとは土が肥沃になるので、土作りの為にそのままにしておいた。枝豆の間にケールとブロッコリーのタネをまいたもののほとんど育たなかったので、紫カリフラワーとブロッコリーの苗を植えた。

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タネが落ちて勝手に生えてきたボラジとサラダの間には、ケール。土は耕さず、上に自家製コンポスト(堆肥)を敷いて追肥。

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パレットで簡単に組んだ簡易コンポストエリア。それぞれ100~120cm四方くらいで組んである。左は積んだばかりのコンポスト。右端は鶏の糞、その左隣はロバの糞みんな肥料になる。

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いいコンポストを作るには、切ったばかりの草、動物の糞など緑の材料(窒素)と枯れ葉、枯れ草、木屑、ダンボールなど茶色の材料(炭素)、水分と通気が大事。緑と茶色をラザニァのように層にして積んでいく。

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古いロバの糞の山にはミミズがたくさん。これもいい堆肥を作るには重要な役割を果たしてくれる。主に菜食生活なのでキッチンから出る生ゴミはすべてコンポストに。自家製のコンポストで野菜を育て、食べられないところはまた土に返す。ミミズやバクテリアと時間が、またいい仕事をしてくれる。自然のシステムは完璧だ。

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最近パオロが修復・リフォームの工事を始めた近所の家の庭には、刈った草がたくさん積んであって、その下にはフカフカのコンポストができていた。オーナーは快く持っていっていいよというので、トラックに積んで帰って来た。このコンポストは草だけでできているからか、深い森の土のような香りではなく、ミミズも一匹も見かけなかった。いいコンポストは香り(とミミズ)でわかるのだ。一部は自家製コンポストと混ぜて熟成させてみることに。乾いた草は茶色の材料としてコンポスト作りに。私にとっては宝の山だ。

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雨が降って暖かい日がくると、森散歩が楽しくなる。

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キノコ好きはこの時期、栗林に向かう。キノコにとっていい条件が揃うと美味しいキノコが見つかるのだ。

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こんなに大きなポルチーニを近所で見つけたのは初めて。

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ナラタケも大好きなキノコ。高価なポルチーニやタマゴダケを探しに来る玄人キノコハンターには見向きもされない美味しいキノコがたくさんある。

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カゴいっぱいの幸せ。

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キノコはリゾットほか、トーストしてニンニク、オイルを塗ったブルスケッタに乗せたり、タリアテッレに合わせたり。

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レモングラス風味のグリーンピースとボラジのクリームにソテーしたキノコを合わせたら、子どもたちも喜んで食べた。

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今年はブドウの収穫の頃、旅行や用事があって、いつも手伝っている友だちのブドウ園の収穫に参加できなかった。

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でも、自宅のブドウを門まで届けてくれた友だちがいた。

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たくさんあったので、絞ってジュースにすることに。

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絞って漉したら瓶詰め。

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搾りたてはあま~いブドウジュース。濃縮還元100%とは比べ物にならない美味しさ。一部にはコンブチャ(紅茶と糖分を発酵させた発酵飲料)を加えて発酵させてみた。数日後には微発泡の美味しいドリンクの出来上がり。

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ブドウを届けてくれた友だちにこのドリンクをお届け。リンゴや洋ナシをくれた友だちにはコンポートを。自家製ジャムをくれた友だちにはジャムを使ったスイーツを届けたり。ご近所さんとのこんなやり取りは、これからますます大事になるに違いない。

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先日、噂には聞いていた素敵なガーデニングの祭典、ジャルディーニ・ダウトーレに参加した。

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アドリア海のリゾート、リミニ。リミニの歴史地区と、元漁師の集落で今ではお洒落なエリアになっているサン・ジュリアーノを結ぶティベリオ橋は、ローマ人が残した歴史的建築物。この橋を望む運河沿いの公園では、コンサートや演劇ほかさまざまなイベントが開催され、市民の憩いの場になっている。ここで毎年春と秋に行われるジャルディーニ・ダウトーレは、リミニ内外のガーデニング好きや、センスの良い人にとって欠かせないイベントに。今回もイタリア中から小さなこだわりの生産者ほか、アーティザンのセラミック、服、雑貨など沢山の出店者があった。

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このイベント、この街を愛してやまないシルビアが12年前に立ち上げ、年々大きくなってきた。

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設営に行ったのは3日間のイベントが始まる前日。シルビアは設営中の植木屋さんたちを次々紹介してくれた。

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レアな蘭を得意とするマルコとは、イベントを立ち上げた当初からの長い付き合い。

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この生産者は何十種類ものセージやラベンダーを育てている。見たこともない色合いの可愛いセージの花に感激。この日は設営のみだったので、最終日の日曜日にいろんな色を連れて帰ろうと思っていた。

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ところが、イベント二日目。天気は味方してくれなかった。警報通りに大荒れになり、瞬間風速は110キロを観測。町中あちこちで大きな木が折れたり、ビーチに並ぶ監視台もなぎ倒された。

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ティベリオ橋から海まで1キロほど。大荒れの海は運河を逆流して、会場になった公園を水浸しにした。

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塩水に浸かって植物の保証ができなくなった生産者の多くは、会場を後にした。楽しみにしていたセージやエキナセアの生産者も同じ。残念だけど仕方ない。それでも水浸しになった会場で流された植物や商品を拾い集めたり、翌日のための設営を手伝ったり、被害にあった出店者たちもみんなで助け合っていたそう。そこには何か特別なシナジーが生まれたに違いない。

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翌日曜日は打って変わって雲ひとつない空。9時半の開園から会場は大にぎわい。

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私の作品はシルビアたちが外して保管してくれたので無事だった。ただ少しの時間で元のように展示するのは不可能。仕方がない、妥協の展示になったけれど、それでも多くの人たちに喜んでもらえた。

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展示をすませると、植物大好きの長女ゆまに引っ張られて買い物に。なかなか見かけないハーブや特別な果物の木などいろいろ買い付けた。

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浸水のためにぬかるんだ会場は大幅に縮小され、元のプランとは別物になってしまったけれど、それでも溢れんばかりの人に、夜中休まず会場を整備したシルビアのチームも安堵の表情。

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何カ月もかけて企画し、何日もかけて設営してきた会場が見るも無残な形になり、イベント自体を中止にしてはという声もあったよう。それでも、人々が規制された生活を強いられてきたここ数年、やっと人間らしい生活が戻った今。このイベントを楽しみにしてくれているガーデナーたちに、自然と人とコミュニティーの美しさとたくましさを、このイベントを通して伝えたいという強い信念で、みんなで最終日を迎えたというシルビア。本当にみんなよく頑張った。

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私にとって、完全な野外で展示するのはこのイベントが初めてだった。ワイヤーの作品は背景がニュートラルでないとまったく見えないので心配だったけれど、空と川をキャンバスにした今回の展示は、背景の物語も含め、特別なものとなった。

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自然の中では何ひとつとして変わらないものはない。すべてのものは刻一刻と変化している。

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移りゆく自然の風景をバックにした作品は、命を宿したようだった。

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イベント開催前日の展示設営中、にわか雨が降った。その後空に現れたのは、虹。みんな設営に忙しくて空を見上げる暇などなく、誰も気づいていないようだった。目先のことで手いっぱいになっている時こそ、何かもっと大きなことを見逃しているかもしれない。

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どんなに激しい嵐も、必ず過ぎ去る。青空が広がり、安らかな時間が戻ってくる。

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そしてまた静かに花は咲く。

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<そこにいつだって花はある。それを見ようとする人には。>
シルビアに感謝を込めて贈った小さな作品には、アンリ・マチスが残した大好きな言葉。困難に勇敢に立ち向かっている人、花を自然を愛する人、明るい未来を信じる人みんなに贈りたい。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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