ボローニャ「森の家」暮らし

東京個展で迎えた春。芽吹きの季節に胸おどる3月。

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2月末にほぼ4年ぶりに子どもたちと日本に帰った。前回帰国した時は三女のたえは2歳弱だったので、日本の記憶は写真で見て思い出すくらい。三姉妹は指折り数えて日本へ行くことを楽しみにしていた。

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前日まで小春日和が続いていたのに、出発の日は天気予報通りで雪。

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犬たちはいろいろ察していじけているようで、お見送りしてくれなかった。

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ロシアの上を飛ばなくなったので、通常より南下した空路でプラス1時間強かかり、ボローニャ~フランクフルト~東京で乗り継ぎの時間を入れると18時間ほど。それからバスと電車を乗り継ぎ、神奈川の実家に着いたのは、夜10時近く。森の家を出てから27時間経っていた。

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私も子どもたちも楽しみにしていた湯船に浸かり、畳の部屋で布団に潜り込む。慣れない硬さの布団も心地よい。子どもたちの興も覚め、間も無くみんな夢の中。

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夕刻に飛行機の窓から見えた富士山を思い出しながら、無事みんなで帰ってこれたことに感謝して、私も眠りについた。

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晴天の翌朝。目が覚めると、裸足で庭に出てグラウンディング。身体に溜まったプラス電位を大地に流し、地球のマイナス電子を組み込むグラウンディング(またはアーシング)は、体内機能を正常に戻すことができ、体内時計、身体のバイオリズムやホルモン分泌を正常化するなど、さまざまな効果が期待できるという。よく海外にいく友だちも、グラウンディングをすると時差ボケにならないというが、私たちも時差ボケに悩んだことはない。祖母が植えたという小さく可愛い水仙が驚くくらいいい香りで、四つ這いになって花々に鼻をくぐらせた。

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毎朝母の玄米ご飯に納豆、自家製なめたけ、大根おろしを食べた。三食これでもいいくらい好き。父がアメリカに転勤になって引っ越した1990年、当時6年生の私は父の上司に好物を聞かれ、納豆!と答えたら、日本から来るたびに(アンモニア臭のする)納豆を持ってこられて苦笑いした。同じくらい好きなカステラ生地に餡と求肥が入った若鮎のようなお菓子と言えばよかったな、と思ったけれど、これも日持ちがしないからきっとがっかりだっただろう。

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父は何十年も眠っていたバーベキュー用のピクニックテーブルを庭に持ち出して、子どもたちに快適アウトドアスペースを作った。テレビ電話をした夫のパオロから、森では一晩で30センチ雪が積もったと聞き、こっちは暖かくて幸せだねーと子どもたちと笑った。

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下のふたりが近所の公園のながーい滑り台で遊んでいる間に、長女のゆまと近所の神社に。

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ちょうど梅祭りをしていて、境内は華やか。

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おみくじを引いたり出店でお豆腐を買ったり。ひさびさのふたりだけの時間を楽しんだ。

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最近ゆまの学校の友だちも日本のドラマを観ていたり、ちょっとしたアジアブーム。こんな日本らしい風景をしっかり記憶しようと、見ることやること食べることすべてを身体いっぱいに記憶しようとしているようだった。

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17日間の日本滞在、最大のイベントは東京で2度目になる個展。開催地は15年前、東京を発つ前まで5年住んでいた代々木上原。慣れ親しんだ街は、駅はまったく別の顔になったけれど慣れ親しんだ店も残っていて、「おかえり、久しぶりだね」と言ってくれているようだった。

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個展のタイトルは、「Souvenier del Calanco ~森の家のお土産~」。

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白い木の梁が印象的な天井が高い空間に、森で生まれた作品を飾り終えると、ニュートラルな会場の空気は一変。森の家のエネルギーが漂う空間に。

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仕上げは、神楽坂にあるリミットレスなお花屋さん「te-n.」のなおさんチームによる、素晴らしいグリーンの演出。会期中ずっと花の香りが漂って、幸せだった。

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出発直前に近所の庭園のガブリエッラに持ってもらった野原のジョウロや、雪の上で撮影した三女のたえの雨靴をモデルに作った野原の長靴。

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吹き抜けの階段の上にいつもいるアリスの白ウサギに、暖炉でいつもお湯を沸かしている鉄瓶に、いつも飲んでいるハーブティーの花や葉っぱのモチーフを入れたポット。

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子どもたちが小さい時に出会ったロシアの童話に出てくる、鶏の足が生えたババヤーガの家に、大好きな言葉を綴った本。

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個展の話があった時に書いた詩から生まれた「私の世界」のリース。どの作品にも思い入れがあり、もう森の家には帰ってこないのねと思うと寂しいけれど、森のエネルギーが故郷にも広がると思うととても嬉しい。

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今回も個展をオーガナイズしてくれたのは、東京でマネージメントをしてくれているコータさん。同じ年生まれの蟹座どうし。海をまたいだ共通の友だち経由で繋がったのは6年前。話さなくても通じていることがいろいろあったり、やりたいことだけやる姿勢など、同類の方位磁針を持っている人。代々木上原でパリの香り漂う「ペール・ジュート」ほか、3店の素敵なブティックをウイークエンドだけオープンしている。

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今回の個展を記念して、コータさんデザインの着心地のいいリネンワンピースや、毎日でも着たいボーダーTシャツなどに、「私の世界」のリースのイラストを刺繍した特別アイテムを作ってくれた。

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出来上がりは6月。届くのがとても楽しみ。

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個展が終わって3日後、あっという間に帰国の日。コータさんが空港まで見送りに来てくれた。

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本当に本当にお世話になりました。この夏は久々に森にも遊びに来てくれそうで、楽しみ!

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帰りは北極の上を飛んだ。窓の下に広がるミステリアスな世界に想像を掻き立てられる。

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それに機内に現れた虹。旅のお守りに違いない。

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ミュンヘンで乗り継いでボローニャに着いたのは夜11時。それから預けた荷物をピックアップするのに途方もない時間がかかり、みんな疲れ果てた。実家を出てから森の家の門をくぐるまで、29時間。

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深夜1時に森に到着。見上げた星空の美しかったことといったら。

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翌朝。西の空がピンクに染まりだす頃、目が覚めた。うちの東側には山がそびえているので、朝日が見えるのはこれから数時間後。でも西の空が朝日を映して見せてくれる表情が大好きだ。

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みんなおはよう!

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この日は学校がみんなお休みと思っていたら、たえはサクッと起きたので幼稚園へ。

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数時間後に起きて来た姉たち。それぞれ陽だまりでくつろいでいた。もちろん裸足。庭中で満開なのは、ワイルドプラムの花。

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私はいつもの丘の上に深呼吸をしに。自然の中を素足で歩いて、好きなことしてごろごろできる場所がたくさんあって、幸せ。

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たえは幼稚園から帰ってくると、庭を駆け回り、日本に発つ前には見かけなかったネコヤナギやレンギョウの枝を持って、嬉しそう。

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帰って早々、先送りしていた庭仕事に取り掛かった。私たちが留守の間、パオロはボローニャのクライアントのテラスから、たくさんの植物を引き取って来ていた。

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スタッフふたりと5日かけて屋上のテラスから運び降ろして森に運んだジャスミンやバラ、カメリアやフジやカエデなど。これを数日かけて植えていく。

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多くは根が植木鉢いっぱいに育っていて、植木鉢をノコギリで切り開けないと出てこなかった。蔦が絡まっていた柵から離してテラスから降ろすのに、枝をたくさん切らないといけなかったけれど、大地に植えてあげたのでホッとしているだろう。ここの土と気候に慣れて元気に育ってくれますように。

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ヨガの先生で庭師のガブリエレは、ワイルドプラムの木にいろいろな種類のプラムを挿し木しに来てくれた。

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去年やったものはロバたちが押し倒してしまい、残念ながら失敗に終わった。今年はどうかな、うまくいけばシロという日本のプラムもできるはず。楽しみ。

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松の木にコクーン状の巣を作る厄介な毛虫。触ると非常に危険で、周りにいる動物にも危ない。放っておくと市のパトロールから駆除指令が出ることも。うちに唯一ある松の木に、今年は三つ巣ができていたので、はしごをかけて登って巣がついた枝ごと切り落とす。

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毛虫の最後は、暖炉の火の中。ごめんね。次は蝶かミツバチに生まれて来てね。

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主に土を耕さない農法をしているうちの畑。雑草の上にダンボールを敷き、その上に15センチのコンポスト(堆肥)を敷いて雑草の育成を断つ。敷いたダンボールにはすぐミミズたちがやって来て、そのうちに帰り、いい土壌ができる。作物の苗は直接コンポストに植え、追肥は年に一度のみ、2センチほどのコンポストを撒くだけ。という、イギリスのチャールズ・ドウイングのノーディッグ農法。4年前から畑の一部は完全ノーディッグ、他はパーマカルチャーなどさまざまな自然農法を試している。上に敷いたコンポストに、どこからともなく生えて来る雑草は、小さいうちなら鋤で引っ掻くだけで除去できる。あいにく小さいうちに対処できなかったものは深くまで根を張るので、大きなフォーク型の器具を刺して土を少し持ち上げて、根から引っ張り抜いている。

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毎年近所のおじいさんから処分に困るという羊毛を何袋ももらうので、去年の秋から畑の一部にダンボールを敷いた上に羊毛を敷き詰めて、雑草を処分してミミズを呼んで良い土作りをする試みをしている。

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ダンボールをどかしてみると、たくさんミミズがいた。もう数カ月このままにして、植えられそうだったらズッキーニやカボチャなど植えて見ようと思う。

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この春から植えたい野菜や花のタネは山ほどある。どれもグリーンハウスで苗にしてから畑に植えたいところだけれど、今年はかなり忙しいので、できることをできるだけ楽しんでやろうと思う。

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タネを植える土は、自家製コンポストに、鉱物から作られ土壌環境を改善するパーライトやバーミキュライト、トレースミネラルを含むロックダストなどを混ぜ込んで作る。混ぜだしたら陰陽に見えて、ハッとした。何かメッセージを受け止めた気分。

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チャールズが毎年販売している、月の満ち欠けなども考慮したタネ植えカレンダーを参考に、植えるタイミングを決めている。

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三女のたえにはミックスサラダのタネをグリーンハウスに植えてもらった。

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水やりも忘れずに。

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日中はとても暖かくなるグリーンハウスの中、1週間ほどでサラダ系は芽をだした。毎日観察するのはとても楽しい。

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三寒四温、朝霜が降りる日がまだあるも、日中はTシャツで過ごせる日も。

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森を散歩すると、プリムラやスミレ、ポルモナリアやアネモネなど、可愛い花がたくさん咲いていて、目と心にビタミン補給をさせてもらっているよう。

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散歩をする時、考え事はできるだけしないように心がけている。頭で考えてばかりいると大切なことを見逃してしまいそう。遠くから綺麗に咲いていて惹かれた野生の桜の木。近づいてみると、低いところの枝は、雪で折れて幹からぶら下がったっていた。それでもほのかにピンクの花がたわわに咲いていて、その美しさに息を呑んだ。

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折れてもめげず、自分のポテンシャルを信じて花開き、そしてちゃんと実をつけるだろう。そうしている間に傷は癒え、来年の春もきっと花を咲かせるのだろう。もし次の雪で枝が落ちてしまっても、憂いなく、土に戻って誰かの栄養になり、新しい命の一部になるのだろう。もしかしたらこの折れた桜の枝は私にそんなことを考えさせるためにあったのかもしれない。

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家を見下ろす山の上からの景色。鮮やかな緑は、麦や大麦、家畜用のそら豆畑。キラキラ眩しい黄緑はエルムの花。これから森の木々が若葉を芽吹き始め、ますます景色が生き生きしてくる。

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大好きな目覚めの季節。朝一番の鳥たちの愛のコンサートを楽しみに、日の出前に起きたり、手を土に突っ込んでタネを植えたり、毎日植物の成長を観察したり。この地に根ざして大地の息吹を感じて毎日生きていけることに、今日もワクワクと感謝でいっぱいだ。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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