ボローニャ「森の家」暮らし

何でもない日常にマジックが宿っている。そんなことを思う11月。

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晴天ではじまった11月。

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近所の農地の土手にはリンゴと洋ナシの木が生えている。

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誰も収穫しないので、ころころ落ちる。

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それでカゴを持って拾い集めに行った。少しくらい鳥やマルハナバチに食べられたようなものも持ち帰り、毎晩キッチンのドアのところにやってくるロバたちにあげている。

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甘酸っぱいリンゴは焼き菓子にぴったり。オートミール、ニンジン、バナナ、ナッツ、撹拌したヒヨコマメやピーナツバター、ナッツやドライフルーツとスパイス、ココナッツオイルなどで作るプロテインバーに擦って加えた。

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焼き上げてから切って、子どもたちの学校のスナックに。

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うちに4本あるオリーブの木。4年ほど前に植えたもので、今年初めてオリーブを収穫した。

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たった1キロだけだけど、嬉しいもの。

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1週間塩水につける。塩水は毎日変えて、下準備。その後好みのハーブと塩水で瓶詰。

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数週間したら出来上がり。2週間経った時に食べてみたら、まだ苦かった。

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大好きな柿。うちの庭にも3本植えたけれど、一本は枯れてしまい、もう2本にはまだ実がなったことはない。これは、お隣さんのコッリ兄弟の柿の木。ふたりとも糖尿の気があるのもあり、柿は食べないそう。それで毎年収穫させてもらっている。

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鳥たちにも十分残して、カゴいっぱいの柿をいただいた。

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皮をむいて枝を紐でくくって、

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暖炉の周りに吊るした。一足早いナターレのオーナメントのよう。

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暖炉の熱で4日もしたら、硬かった渋柿は柔らかくて甘い柿に。

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軒下に吊るしたときはカビが生え、何週間たっても食べごろにならなかったけれど、暖炉の脇ならあっという間。1カ月ほど干したら、日本で売っているような干し柿に。でもその前に、みずみずしくて美味しくなった柿は毎日少しずつ減って行く。イタリアに干し柿文化はなく、みんなに感心される。それで、5、6個吊るした干し柿ガーランドをプレゼントと、とても喜ばれる。

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そろそろ作りたくなるナターレのリースは、太い針金を束ねてから藁を巻きつけベースを作る。

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その上に、モミの木の枝などを飾っていく。

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泊まりに来た友だちと、藁の輪にもみの木の枝を飾ったところで夕食の準備があったので、この日はここまで。メリーナは三女のたえに思いっきり遊ばれていたけれど、忍耐忍耐。

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町がクリスマスめいてきた11月の下旬、ダニーラから、一足早いクリスマス前のアペリティーボに誘われた。ダニーラは、ボローニャ旧市街に住んでいた時のご近所さんで、15年前、犬の散歩にいつも行っていた公園で知り合った。その時期公園には新入りの犬連れ仲間がたくさんいて、毎日顔を合わすのでとても仲良くなり、よく公園や誰かの家で犬連れでアペリティーボをするようになった。

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とってもセンスの良いダニーラは弁護士。趣味はヴィンテージマーケット巡り。家に置き場がなくなったお皿やオブジェだけでなく、ソファーやワードローブまで、素敵なものをたくさん譲ってもらった。あまりに物が増えたのと、自分のクリエイティブスペースが欲しいと、広いガレージを改装した空間を昨年買って、ダニーラワールドを作り上げた。

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この壁は、建築雑誌で見た壁にとてもインスパイアされて作り上げた。1800年代の絵画を買い集め、レザーソファーはイギリスから取り寄せたそう。

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ペンダントヘッドは、11年くらい前にダニーラにオーダーされてシルバーで作った彼女の愛犬、スピッツ。右の脇に横向きのハートの柄があるのが特徴。当時の犬たちでまだ残っているのは、スピッツだけ。

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工業デザインが好きなダニーラ。1950年フランスのジェルデ社で開発された、配線のないジョイントをもつランプは、デザイン性、実用性ともに素晴らしい銘品。

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良いものは、時代を超えて魅力的。いろいろな時代とテイストのミックス&マッチも素敵。

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こちらは50年代のイタリアの銘品、サン・ジョルジオの扇風機、ゾディアコ。

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弟のだというモト・グッツィーノは、1947年に発売されたモトレッジェーラ(軽いバイク)。自転車にエンジンがついたこのバイクは画期的だった。

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このふたり、やるかなぁと思ったら、案の定。こんなこと、したくなるよね。

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こんな可愛いミッキーの電話も。ダニーラはミッキーのコレクターでもある。

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ずっとしまわれていた収集品たち。やっと日の目を見られて嬉しいだろうなぁ。

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いつも犬連れで会っていた友たちと犬無しで会うのはなんだか妙な感じ。今は亡き犬たちの姿が見えるようだった。小さかった長女のゆまも次女のみうも、犬たちのリードを持って公園を歩き回ったり、追いかけっこしたりたくさん遊んでもらった。みんなその後新しい四つ足の家族を迎えて、あの公園に行っているそうだけれど、飼い主たちも徐々に年をとって、昔とはまた違う雰囲気なんだろうな。

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持って行ったパネットーネは、友だちの生パスタ屋さん、スフォリア・リーナのパティシエ作。一般発売前に、一足先に味見させてもらった。ヘーゼルナッツ、チョコレートキャラメル味で、少し温めて食べるとフワッフワでとっても美味しい。一年中食べたいくらいのパネットーネ。今年は何種類味見できるかな。楽しみ。

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来年2月のボローニャでのふたり展に向けて、今月もユリアと週何日も作品作りに没頭した。ユリアの自宅兼アトリエにはしょっちゅうさまざまなプロジェクトでコラボレーションしているユリアの友だちが訪れて、隣で作業を並行でしたり、ユリアの次男、11歳のレオのバイオリンレッスンに、ボローニャでよく知られたバイオリニスタが来たり、インスパイアされることも多い。

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普段家にいるので家事と子どもの世話の合間に作品作りをしている感がある私。それに孤立した場所でひとりでいることが多いので、家から離れて気の合う友とあれこれ試しながら共同制作したり、おしゃべりに花が咲くのがとても楽しい。長女のゆまは、ユリアの長男ニコライと一緒の高校に通っていて、家と学校は徒歩15分の距離。ボローニャに行くときはゆまを高校まで車で送っていけるので、片道4、50分の道中いろんな会話ができるのも良い。思春期の娘との関係はそう簡単でないことも多いけれど、一緒に密に過ごす時間は貴重だ。

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日本に行きたくてしょうがないゆま。14歳の誕生日には、学校が終わった14時過ぎに待ち合わせして、ラーメンを食べに行った。 それにタコ焼き。日本であんなもの食べたね、また食べたいね、今度はこんなことしたいな、と日本に行きたい熱が上がるゆま。連れて行ってあげたいけれど、高校を長い間休めないので今までのように春に一時帰国することは難しそう。

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本が大好きで、最近はよく携帯で何かの連載を読んでいる。目に悪いので本を読んでほしいと思うけど。それに、今の子たちの傾向かもしれないけれど、本もアニメも音楽もダークなものに惹かれているようなのも気になる。ゆまの携帯の待ち受け画面は触れるたびに違った画像が出るけれど、たまたま見かけた待ち受け画面にアニメのキャラクターの絵と、I'LL KILL YOUと書いてあってびっくりした。次女のみうのベッドの脇にはいろんなコラージュがされていて、そこにDEVILとポップに書いてあったのにも閉口した。世の中ネガティブなサブリミナルメッセージが溢れている。見るもの、聞くもの、話すこと、口にするもの、付き合う人たち、環境、すべてが自分を作るので、これは自分を高められることか、そうではないか、意識的に取捨選択するこが大事。そんな話をするととてもけむたがられる。宿題や課題で携帯やコンピューターを使うことが多く、ソーシャルメディアも欠かせないようだけど、気が散ることだらけ。大人だってさまざまな誘惑からスクリーンタイムを自制するのは難しいのだから、子どもはなおさら。

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いくらやきもきしても、本人がその気にならなければ暖簾に腕押し。そんなこと、ここ数年でよくわかったと思ったけれど、まだまだ未熟な私。娘たちは母親の弱いところをよく分かっていて、とことん突かれる。同じ手段が効かなければ別の手を打たなければいけないのだけれど、なかなか難しい。子どもたちは先生だ。こうして親は育てられるのだ。

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こうして半日ボローニャでふたりで過ごした帰り道、そうだ、ケーキ買ってないね、と閉店間際にお菓子屋さんによったら、ケーキは予約制ですと言われ、残っていた焼き菓子を詰め合わせで買って帰った。こうして地味に過ごしたゆまの誕生日。私は母親満14年。まだまだ先は長い。

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気温がぐっと下がって、霜が降りるようになったある朝。黒いニワトリ、エリザベスが鶏舎の中で冷たくなっていた。ロバたちが鶏舎の前にしばらくいたのは、いつもと様子がおかしいことを察したからなのだろうか。

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イタチの仕業だったのか、何かの病気だったのか、原因はわからない。今年植えたナシの木の脇に埋めて、お祈りをした。今までありがとう。土に帰ってナシの木を元気に育ててね。

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そのあと、また悲しいことがあった。チベットヤギのクリとイガがいなくなったのだ。前夜、犬たちが異常なほど吠え立てていた。おそらくオオカミたちだ。初代クルミがオオカミにやられた時は雪が降っていて、白い雪の上にオオカミの足跡と血痕が残っていた。今回は何の形跡も見つけられなかった。クルミの後に迎えたヤギたちは、夜は鶏舎の下の部屋に入れるようにしてきたけれど、夏になったら夜部屋に入らなくなってしまった。

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守ってあげられなくて残念だった。ごめんね。ごめんね。

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いつもの場所は、毎日少しずつ違った表情を見せてくれる。

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そしていつもハッとさせられることに出会う。

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朝が来て夜が来て、季節は巡り、生があり死があり、天も地もマクロもミクロも何ひとつとして変わらないことはない。

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外の世界はコントロールすることはできない。コントロールできるのは、自分の内側の世界だけ。この魂が宿る【寺院】は神聖なものだということを忘れずに、心が洗われたり開いたり広がったりする経験をどんどん重ねたい。人にも自分にも優しく、答えを急がず、物事を熟視する時間を持ちたい。時に自分のテリトリーが脅かされるようなことがあれば、NOと言うことを恐れず、毎日前をしっかり見据えて一歩一歩しっかり歩んで行きたい。子どもたちに伝えたいことは、言葉で言うより自分が体現するしかない。全然簡単なことではないけれど、失敗を繰り返して、少しずつ成長したい。

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アトランタに住むジェイシンからオーダーされたリース。アドリア海はリミニで知り合った彼女は、リミニ~イタリアの夏~友だちが集う場所にふさわしい作品、とリクエストされた。大掛かりでうっとりするようなパーティを世界中でオーガナイズするジェイシン。お料理大好きでおもてなし上手の彼女は、自宅でも素晴らしいディナーパーティをよく開いている。

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「良く食べ、よく笑い、たくさん愛する」リースは、ここでたくさんの素敵な友だちと、楽しい時間を過ごすのだ。それに参加させてもらえるようで、本当に幸せ。ジェイシンは2年前仲良しの友を亡くして、その友人と残されたパートナーのポートレイトをオーダーしてくれていた。亡くなった友、ロバートは、いつも周りをハッピーにしてくれる人で、ロバートの追悼式にはPractice Robert Magicというメッセージがみんなに配られ、以来それは彼女のマントラになった。毎日がマジカルでミラクルだと思っているジェイシン。そんな彼女が大好きだ。

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車のサイドミラーに写る朝日。それにうちを見下ろす裏山から臨む夕日。いつ見ても感動する。

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広い広い宇宙に浮かぶ小さな地球は、こんなにユニークで美しい。ここで小さな小さな私たちは、みんなそれぞれ泣いたり笑ったり悩んだり感動したり喧嘩したり愛し合ったりして、それぞれのストーリーを生きているのだ。そのひとりひとりの世界は、少しずつ重なり合い影響し合っている。みんな一緒にこの地球で同じ時代を生きる同志。そう思うと、すべてが愛おしい。すべてがマジカルでミラクルだ。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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