いまも色褪せない90年代の音楽。
こんにちは、編集NSです。平成もあと2ヵ月を切りました。たくさんの反響をいただいた最近の短期連載「♪プレイバック、私の青春。☆」を真似して、平成前半の1990年代の音楽に触れたいと思います。
音楽って感情との結びつきがとても強くて、聴いている時の思いが増幅されたり、なにかの記憶が鮮やかによみがえったりしますよね。私にとっての90年代は大人と子どもの間でもがいていた時期で、しょっぱい思い出と激辛の思い出が交互に頭に浮かび、聴きたくないとさえ思う名曲やヒット曲もあります。
そんななか、ここに挙げるのは私にとっては時代を超越していて、いまなお聴き続けているものです。おじさんばかりなのですが、当時は彼らのほとんどが20代で、新しくてユニークな音楽を生み出していました。ミュージシャンとして好き、アルバムが好き、その曲が好きとそれぞれ違いますが、10曲をセレクトしてみました。ニルヴァーナやR.E.M.、ローリン・ヒルやアラニス・モリセット、デ・ラ・ソウルやTLC、ブラーやトレイシー・チャップマンなどなど、まだまだいる好きなアーティストはまた別の機会に触れたいと思います。
1.トム・ペティ「Into the Great Wide Open」
Tom Petty『Into the Great Wide Open』(1991年)より
好きなミュージシャンがリスペクトしているのがきっかけで、別のア―ティストにはまったことはありませんか? 私にとってトム・ペティがそれ。中学生の時にボン・ジョヴィに夢中になったんですが、インタビューでジョン・ボン・ジョヴィが尊敬する人として、トム・ペティを挙げていたんです。ぱっと見冴えないのですが(トムごめん)、美しいメロディと詩を生み出す希代のロック・ミュージシャンだと後々知りました。ボン・ジョヴィはその後あまり聴かなくなりましたが(ジョンごめん)、トム・ペティはずっと新作が楽しみなミュージシャンでした(2017年に亡くなりました)。いろんなミュージシャンに尊敬されていて、ジョン・メイヤーによる「Free Fallin'」は聞き惚れてしまうカバーです。この曲のMVには、当時売り出し中のジョニー・デップが出演しています。『シザーハンズ』出演後で『ギルバート・グレイプ』の公開前、若い!
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2.シンデレラ「Heartbreak Station」
Cinderella『Heartbreak Station』(1990年)より
同じくボン・ジョヴィつながりですが、彼らに見出されたとかでデビューしたのがシンデレラ。当初はギラギラのハードロック・バンドでしたが、フロントマンのトム・キーファーの舵取りでどんどんブルージーに。なんだかすごく好きな音なのに、メディアにほとんど情報が出てこなくて、私はわかっているよ!と妙な忠誠心を抱いたことを記憶しています。ボン・ジョヴィはその後あまり聴かなくなりましたが……(リッチーごめん)。
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3.レニー・クラヴィッツ「Stand By My Woman」
Lenny Kravitz『Mama Said』(1991年)より
急に膨らみ急にしぼんでしまったハードロック/ヘヴィーメタルとは、まったく別のロックを奏でていたのがレニー・クラヴィッツ。このセカンドアルバムは70年代のロックやファンクを強く感じさせるレトロで新しい音で、レニーのアルバムでいちばん好きなものです。たしかすべての楽器をひとりで担当していて、聖徳太子か!と驚いた記憶があります。
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4.ア・トライブ・コールド・クエスト「Award Tour」
A Tribe Called Quest『Midnight Marauers』(1993年)より
90年代にメインストリームに躍り出ようとしていたヒップホップというジャンルですが、当時はマッチョな曲が多かったように思います。ア・トライブ・コールド・クエストはそんなトレンドとはずいぶん違う知性を感じる音で、遊び心にあふれていて、聴き込みました。このアルバムは3枚目。この後の1996年に『Beats, Rhymes and Life』、1998年に『The Love Movement』という傑作を連続して発表していきます。
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5.ベック「Loser」
Beck『Mellow Gold』(1994年)より
当時はイキったMVが多かったと思いますが、ベックのメジャーデビュー作であるこの曲のMVは対極にあるふざけた脱力ぶりで衝撃を受けました。ジャンルにはくくれないほど多様なエッセンスが取り入れられていて、しかもポップさも兼ね備えていて、新作ごとに驚きをもたらしてくれるミュージシャンです。
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6.ジャミロクワイ「Blow Your Mind」
Jamiroquai『Emergency on Planet Earth』(1993年)より
レニー・クラヴィッツとはまた別の形で、60~70年代ミュージックを再構築してインパクトをもたらしたのがジャミロクワイ。環境問題のことを歌っているににスーパーカーが大好きで、その矛盾に首を傾げた記憶があります。静かにグルーヴが充満していくこの曲は、いまも変わらぬカッコよさがあると思います。
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7.プライマル・スクリーム「Jailbird」
Primal Scream『Give out but Don't Give up』(1994年)より
当時彼らがはまっていたというサザン・ソウルに大きな影響を受けたアルバム。当時はあまり評判がよくなかったという情報を見かけますが、私にとっては唯一好きなプライマル・スクリームのアルバムです。本作のオリジナル音源を収録したアルバム『Give Out But Don't Give Up: The Original Memphis Recordings』が昨年発売されて話題になりました。アルバムバージョンとオリジナル音源はかなり違っていて、プロデューサーの影響力なのか時代性なのか、音楽ってとても面白いと思って聴き比べています。
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8.Björk Guðmundsdóttir & tríó Guðmundar Ingólfssonar「Ástartöfrar」
『Gling-Gló』(1990年)より
どんな経緯でこのアルバムにたどり着いたのかもう忘れてしまいましたが、ビョークがシュガーキューブスに在籍中、ジャズミュージシャンとともに作ったジャズ・アルバム。アイスランドのスタンダードやオリジナルで構成され、ソロデビュー前のビョークが伸びやかな声でアイスランド語で歌っています。ソロデビュー後のビョークのアルバムには私はのめり込めませんでしたが、本作はとにかく楽しい気分になるアルバムで大好きです。
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9.エイミー・マン「Save Me」
サウンドトラック『Magnolia』(1999年)より
ポール・トーマス・アンダーソン監督が1999年に発表した『マグノリア』で多くの曲が使われていて、エイミー・マンのことを知りました。映画に使われたというよりも、エイミー・マンの歌にPTAが触発されて、この映画ができたと聞いています。3時間を超える大作を観て、「なんだかすごいんだけど、よくわからない」と置いてけぼりをくらいましたが、エイミーの歌は強く心に残り、その後ずっとファンを続けています。フィガロでもインタビューの機会をいただき、自然体でカッコイイご本人に会うこともできました。
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10.ジェフ・バックリィ「Hallelujah」
Jeff Buckley『Grace』(1994年)より
たった1枚のアルバムを発表した後、その才能が脚光を浴びる前に亡くなってしまったジェフ・バックリィ。この曲はオリジナルではなくレナード・コーエンのカバーで、オリジナルは哀愁を感じさせるものですが、ジェフの歌はどこか張り詰めていて刹那的な感覚を受けました。美しい歌声に癒されたり心を洗われたくて、いまも繰り返し聞いています。
曲を選んだり、急に思い出したアーティストの曲を聴き返したりという作業、とても楽しいものでした。みなさんも時代が変わる機会に懐かしのプレイリストでも作ってみてはどうでしょうか。私はこの後さらに80年代ミュージックに遡り、黒歴史を召喚しようと思います。ジョン、リッチー、お待たせ!
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