Editor's Blog

心を整えるための読書タイム。

おうち時間が増えたから読書でも。そう思う人も、いま多いはず。ツン読を整理するために自身の書棚を見直すのもいいですが、読書は「時代や世の中の気分」と密接な関係があるものだから、いま読みたい!と思うものが、必ずしも本棚で待ってた本とはかぎりませんよね。
私がいまこそ読みたいと思うのは、「心を整える本」です。

以前、プロサッカーの長谷部誠選手が『心を整える。』という書籍を出されました。スポーツを生業にして、その勝敗がビジネスにも繋がっていく方々の考え方は、こういう時、とても役立つように思います。
ここでご紹介するのは、アスリートやmartial artist(マーシャル・アーティスト:格闘家・武道家)の書いた書物です。

いま起こっていることを客観視する大切さを教えてくれる、朝倉未来の『強者の流儀』

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¥1,430  KADOKAWA刊

リングの上で、一対一で闘う気持ちを考えたことってありますか? 格闘技をあまり観ない人にとって、殴り合いは野蛮でコワイものかもしれません。が、たとえばパンチひとつとってみても、腕をぶんぶん振り回せば当たるものなどではありません。当て勘、タイミングなど、自身の身体の動かし方を工夫した技術戦術に基づいています。単に人を殴るのでは暴力になってしまう。格闘はあくまでもスポーツの延長です。そして勝利をおさめて、観客が楽しめる試合を展開し、人気ファイターとなれば、ビジネス的にも成功が約束されます。
『強者の流儀』を書いた朝倉未来という人物は1992年生まれ。ストリートファイターで、少年院にも入ったことがありますが、現在、総合格闘技で大注目され、YouTuberとしても、スタートしてから10ケ月で登録者数が100万人を超え(2020年4月15日現在)、総再生回数が1億回超えという記録を達成しました。2019年大晦日のRIZINで、その名が広く知られることになったとも思います。
著書の冒頭で、そもそも強さとは何か、の答えに、「自分を客観視できること」と書いています。自分自身の強みや弱みを冷静に把握することによって強くなれる、という考えです。そもそも自分自身が感じたり考えたりすることを、日ごろから深く掘り下げていく習慣を身につけていれば、「いま、何がしたいのか」「何をするべきか」は、自ずと見えてきたりします。それを軸に持ちながら世にあふれかえる情報に触れていれば、よからぬ「揺らぎ」も少なくなるかもしれません。
そして、この本がおもしろいのは、四六判ソフトカバーの誌面の文字のサイズやフォントなどを工夫して強調したりして、ストレートに伝えたいことをぶつけてくる作り。

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「軸がないのは八方美人だから」「人生のテーマは『自由』」「睡眠の取り方」「責任を持てば現実を受け止められる」「意志の弱さを仕組みで克服」など、目次の章立てを眺めるだけで、心にぐさりと響く言葉が連なっています。
私は個人的に、「責任感がある」という個性がとても好きです。理由は、特に女性は、責任感のある性質など、「怖くてきつい人」と思われることがほとんどで、得することのない性質として扱われる、と感じるからなのです(あくまでも個人の感想、です!)。得することがなくても持ち続ける点に敬意を感じてしまいます。自分自身への責任も含めて、日々きちんと責任を果たす意志的な人間であることが、イコール自分の人生に両足でしっかり立つことである、というメッセージがこの本にはあふれていて、読了後にすがすがしい気持ちになります。

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心にスイッチを入れる能動的な生き方に触れて。井上尚弥の『勝ちスイッチ』

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¥1,760  秀和システム刊

本を買う時、ほとんどの場合、きちんと悩むようにしてます。十分に書店で立ち読みして、目次を何度も眺めて、「よし!」とレジに向かいます。書籍にケチりたくはないのですが、読書とは豊かな経験をくれものだから、しっかり選びたい。ひとりで自宅のソファで文字と向き合うだけだとしても、そこから誘われる世界や、脳に働きかけてくれるパワーは絶大です。ましてや、電子書籍で内容をキャッチするだけとか、スムースに整頓できるように「プロダクトとしての本」を持たない選択もできるいまという時代、書物として一緒に過ごす価値について考えたい。執筆した人物や出版社への敬意もそのひとつかも。
この『勝ちスイッチ』は、2019年11月7日、WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)の頂点を競う試合で、フィリピンのボクサー、ノニト・ドネアと対戦するまでのことが描かれ、試合当日に発売されました。
試合を観てしばらくした後に、この本を買いました。井上尚弥が勝利したことももちろん知っていました。対戦相手のドネアも素晴らしく、究極的に美しい試合で、ファイターふたりに神々しさすら感じました。テレビ局などは、センセーショナルに視聴者を煽り、ときにファイターをビッグマウスと表現したり(井上さんはビッグマウスではない)、宣伝のためにあらゆる手を尽くしますが、本人の想いが描かれたこういう書物を読むと、「日常を丁寧に生きる真面目な人物像」が浮かび上がってきます。調子がビミョウに狂った時の調整方法、モチベーションの保ち方、井上尚弥を支えてくれる家族やまわりの人々に対する配慮、など、格闘家というプロとしての特別性はあるけれど、世の中誰しも何かのプロであることを考えると(たとえば編集のプロ、運転のプロというように)、プロとしての自分の生業に対しての行動がずば抜けて丁寧……この丁寧さに導かれるスイッチが、井上尚弥の「something special」であると感じました。調子が悪い時、鏡に向かってひたすらシャドウボクシングを続けた、というのも、すごい! なんて地道なのだろう、と。だってスーパースターですからね。
朝倉未来選手の『強者の流儀』とも共通すると感じたのは、ネガティブな状況を「オンリーネガティブ」と捉えない点です。「逆境は未来に向けて活かせるもの」という思考が芯から身についている。やはり、リングで自分の身ひとつで闘う人間の哲学は筋が通っています。

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強いのは、「心が強いから」と言い切るグレイシーの『心との戦い方』

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¥1,760  新潮社刊

これはドンズバ、身体の強さだけではダメ、心を強く持たなければ! というブラジリアン柔術グレイシー一家のヒクソン・グレイシーからのメッセージです。「絶対に負けない」という気持ちを持つ時、その気持ちに見合うだけの練習や準備をしているかどうか、それしかないのだ、というシンプルな論理。これだけ準備した、だから負けるわけがない、と強く信じること。そのことを、過去の試合のエピソードを交え、自身の人生の転機や出来事と交えて、何度も何度も語りかけてくる一冊です。
読んでいるとむしろ楽天的な気持ちになることもあります。なぜなら、読み手自身の人生と関連させて読めば、そこまで準備も努力も鍛錬もしなければ、負ける可能性を視野に入れなくてはいけない、というごく当たり前の現実がポンと目の前に置かれるからです。いつもイイワケばかりして、できなかったことを看過しちゃう自分。これだけじゃあダメだよね、という準備しかできなかった自分。そういう自分を、真正面から切り捨てられるようなメッセージがいっぱい。当たり前のことから目をそらして現実を見ないことを、書物から叱られている気持ちになります。居住まいを正したくなりますね!

最後に、こちらを紹介します。
甲野善紀・松村卓のおふたりの対談形式で進められる『「筋肉」よりも「骨」を使え!』。このユニークなタイトルに惹かれました。「筋肉は裏切らない」と言われているご時世ですから……。

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¥1,100 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊

筋肉をたくさんつけることで、パワーを繰り出せるようになり記録も伸びる――そういった欧米的な考えは日本人のアスリートにフィットしないのではないか、という論点から対談は進みます。ふだん、フィガロジャポンで美容テーマを担当することが多いこともあり、カラダへの意識は高く持ちたい、と考えて行動しています。月1でアロママッサージと、整体に通い、整体の先生に「抜くべきチカラが抜けていない」と何度も指摘を受け、このりきみが、背中や腰の凝り、五十肩の原因なのではないか、と常々考えてきましたが、なかなか実感がつかめなかったのです。が、古武術の研究家でもある甲野先生の言葉が後押ししてくれて、わずかに体感できるように変化しました。ちなみに甲野先生は、セラピストや整体師を職業とする方々にとっては、一度は著書を読んだりした経験があるはずの、神のような存在だそうです。

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日常の動きで本当に参考になったのは、腕は鎖骨から始まり、足は丹田(へその下三寸あたりの位置を指す。厳密にいうと他にも定義があるけれど、身体の軸と繋がるようなタッチポイント的概念のことです)から始まる、という考え方。始点だけすっとキープして、その先をダラリとリラックスすると、動くのがラクになります。なるべく無理な(不自然な)力を入れずに動くことで、身体だけでなく、心も平らかになります。毎日、自宅から最寄り駅に向かう道すがら、「腕は鎖骨から、足は丹田から」と一度認識することが習慣化されました。
怪我をしない身体、病気に冒されにくい身体になるには、日常でどんな「意識」が大切か、気付かせてくれる作用のある本です。

時間ができた、本読もう。
そう考えた時に、私、編集KIMがおすすめする本は上記でしたが、本との出会いは人それぞれですよね。人の推薦であっても、推薦した人と同じような読み方や読後の感想や感慨にはいたるはずもないと思います。でも、こんな時に「どんな本を選んだか」、それ自体も自分自身を知る助けになるのかもしれません。
今回、これらの書籍に向き合ってみて、現代、健やかさは「技」であると感じました。健康のための知識をたくさん持つことの先に、知識のなかで何を選んで自分にフィットさせていくか、その思考や判断の「技」が磨かれることによって、健康が日常的に守られるのではないか、と。

ちなみに、写真のウサギは昨年10月のアムステルダム旅行で一緒に連れ帰ってきたミッフィです。  

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