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夏に飲みたい爽やかな白ワイン! オーストリアの「ドメーヌ・ヴァッハウ」に注目。

編集者が訪れたワインの試飲会、セミナー、生産者の来日イベントなどをレポート! ワインを取り巻く「いま」をお伝えします。今回はオーストリアから来日した、ワイン生産協同組合「ドメーヌ・ヴァッハウ」のワイナリーディレクター、ローマン・ホーヴァース氏によるテイスティングセミナーをレポート。夏にピッタリなフレッシュな酸味とハーブのようなニュアンスが心地よいグリューナー・ヴェルトリーナー、そして華やかな香りで凛とした酸味のあるリースリングをご紹介!


12世紀から続くワイン生産の歴史と、ふたりの改革者を迎えたドメーヌ・ヴァッハウ。

日本でのオーストリアワインの認知度は決して高いとは言えない。それもそのはず、オーストリアワインは国内で生産量の8割が消費され、1割をドイツを主としたドイツ語圏へ輸出、残り1割がその他の諸外国へと輸出されているというのだから、そもそもの流通量が少ないのだ。

そんな中、1960年台から精力的に輸出を開始し、世界にオーストリアワインの認知度を広めているのが250の生産者からなる協同組合である「ドメーヌ・ヴァッハウ」だ。世界遺産にも登録されている、美しいワイン産地であるヴァッハウ。オーストリア北部のニーダーエスタライヒ州に位置し、ドナウ川に沿って銘醸地が広がっている。

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17世紀に建てられた貴族の城がワイナリー。地下15メートルの位置に造られたセラーはいまでも使用されている。

この地では12世紀ごろから、貴族が所有する土地で何百年にもわたってワイン造りが続いてきた。ところが1930年ごろ、世界恐慌によって貴族が土地を手放すことになり、畑は農家たちの手に委ねられることに。地元の農家たちは共同の醸造所を所有することになり、ドメーヌ・ヴァッハウの歴史が始まった。

ところが、それぞれの生産者の思想や畑ごとの生産量、ブドウの出来にはばらつきがあり、世界基準の高品質なワインを造るのは困難を極めた。そんな中、2004年にワイナリーディレクターとして赴任したのが、ワイン業界で最も権威のある称号「マスター・オブ・ワイン」を保持するローマン・ホーヴァースだった。

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ドメーヌ・ヴァッハウのワイナリーディレクターにしてマスター・オブ・ワインを所持するローマン・ホーヴァース。

元々インポーターとしてキャリアをスタートさせたホーヴァースは、ワインの認定資格WSETの勉強を通じてワインにのめり込み、チリのプレミアムワインメーカーであるモンテスで醸造家として修行。さらに南仏での経験を経て、ドメーヌ・ヴァッハウに参加した。05年からはドイツのガイゼンハイム大学で醸造学を収めたヘンツ・フリッシェングルーバーがワインメーカーに就任。

ホーヴァースとフリッシェングルーバーのふたりは、サステイナブルなブドウ栽培、ワインツーリズムへの貢献、生産者組合の組織改革などを進め、20年かけてワインの品質と名声を高めてきた。24年にはドイツ語圏を代表するワインガイドでワインメーカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

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世界で最も美しく、複雑なテロワールを持つ産地のひとつ。

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ドナウ川流域にブドウ畑が点在して広がる。平坦な斜面もあれば急な斜面もあり、それぞれに異なるテロワールを持つ。

オーストリアは東に位置するパノニア平原から流れ込む暖かい空気の影響と、西に位置するアルプス山脈からの冷涼な気候が影響する、ブルゴーニュより北に位置する冷涼な大陸性気候の産地だ。東西20キロにわたって流れるドナウ川流域のヴァッハウのブドウ産地も同じように影響を受けている。すなわち、東に位置する畑は温暖な気候で、西に行くほど冷涼な気候に影響されることになる。さらに川へ向かって両岸に斜面が広がるため、平坦な畑と急斜面の畑が存在し、それぞれに異なる複雑なテロワールを持っている。

冷涼であればあるほど、ブドウは枝に実っている時間(=ハンギングタイム)が長くなり、香気成分と酸を蓄えることができる。それにより、ワインはキリッとした酸味と、芳しい花のような芳香を纏い、夏にこそ味わいたいエレガントでフレッシュな味わいを得るのだ。

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品質を厳格に規定する、ヴァッハウ独自の3段階の規格。

ヴァッハウのもうひとつの特徴として、産地による独自の品質規格があることが挙げられる。KMWと呼ばれる糖度の基準に応じて「シュタインフェーダー(現地で消費される軽いタイプのワイン)」「フェーダーシュピール(基本となるエレガントなワイン)」「スマラクト(最上級ワイン)」の3段階に分けられている。

「フェーダーシュピールはミディアムボディでエレガント、若々しい味わいが心地よいです。スマラクトは若いうちからも楽しめますが、より濃縮感がありしっかりしたボディが特徴。10年〜20年のエイジングも期待できます」と、ホーヴァースはにこやかに笑う。

オーストリアで育てられるワインのうち70%が白ワイン品種であり、ドメーヌ・ヴァッハウでは生産量の95%を白ワインが占める。その中でも特徴的なのが、オーストリアを代表するグリューナー・ヴェルトリーナーと、冷涼地でしか本領を発揮できないリースリングだ。

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左からグリューナー・ヴェルトリーナー フェーダーシュピール・テラッセン2022 750㎖/¥2,420(ドメーヌ・ヴァッハウ)リースリング フェーダーシュピール・テラッセン2022 750㎖/¥2,530(ドメーヌ・ヴァッハウ)

グリューナー・ヴェルトリーナーはエレガントでフレッシュな酸が魅力的な品種。青リンゴや洋梨のようなフルーティさを持ちつつ、ブドウを圧搾した後、スキンコンタクト(果皮とワインを接触させること)によって皮からの成分を抽出させ、ドライハーブやジンジャーのようなニュアンスが漂う。

「テラッセン」とは急斜面に位置する畑で採れたブドウを使用したもの。斜面にある畑はブドウの収量が少ない上にブドウの房、実が小さく、水分量が少なくなる傾向にある。それにより香りの成分や味わいが濃縮した、品質の良いブドウが収穫できるのだ。

リースリングはドイツ発祥、冷涼産地を代表する白ワイン品種。白い花の香りにレモン、ライムのような酸味が特徴で、ヴァッハウのテロワールからはさらに白桃やアプリコットのような、優しい甘やかさを持つフルーツの要素が加わる。

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グリューナー・ヴェルトリーナー スマラクト・リード・ケラーベルク2022 750㎖/¥6,600リースリング スマラクト・リード・アッハライテン2022 750㎖/¥6,600

さらにヴァッハウには「リード」と呼ばれる、畑の名前を冠したボトルも存在する。それぞれの畑のテロワールを表現した、個性的な一本だ。

「『グリューナー・ヴェルトリーナー スマラクト・リード・ケラーベルク』は赤リンゴ、ナッツのようなニュアンスを感じます。火打ち石のようなミネラルを持ち、豊かな酸があるので熟成のポテンシャルも抜群。経年美化によってビスケットのような香りに変質することもある、とても優雅なワインです」

高地で生育されるリースリング スマラクト・リード・アッハライテンも出色だ。

「標高200〜400メートルで育つ、とてもエレガントでミネラリティあふれるリースリングです。フルボディで、ドイツでいうGG(グローセスゲヴェックス、ドイツの辛口ワインの最上級品質)とも匹敵するクオリティだと自負しています」

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繊細で華やか、そしてフードフレンドリーなのがドメーヌ・ヴァッハウの特徴。

ドメーヌ・ヴァッハウでは現在、生産量の50%を国外へ輸出している。品質の高さで国外の市場にアピールしていると同時に、もうひとつの理由があるとホーヴァースは語る。

「繊細で酸味が豊かな我々のワインは、どんな食事にも合わせやすいのです。オーストリアの郷土料理にはコイを使ったフライドフィッシュやフライドポークフライドチキンなどがありますが、世界的中の揚げ物文化にはレモンなどの酸味がよく合いますよね? グリューナー・ヴェルトリーナーやリースリングの酸味は、まさしくそういった文化にも浸透しやすいものだと思います。また、今回日本には初めてきたのですが、昨日寿司屋で味わった『ガリ』に驚きました。生姜のピクルスだとすぐに気付いたのですが、風味がグリューナー・ヴェルトリーナーの生姜のニュアンスに通じるものがあった。きっと日本の繊細な魚料理にも、ドメーヌ・ヴァッハウのワインは寄り添えると確認しました」

本格的な暑さが到来しているいまの季節、爽やかで酸味あふれるドメーヌ・ヴァッハウのワインが、あなたの喉を潤してくれることは間違いないだろう。

問い合わせ:エノテカ
https://www.enoteca.co.jp/

編集カナイ フィガロジャポン編集部、WEBグルメ担当。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。好きなワインのタイプはイタリアをはじめとした日当たり良好系。

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