かきものに耳を傾けて。

タクシー愛が止まらない、高桑啓という男。

寝ても冷めてもタクシーのことばかり考えているTAXI BOYこと、高桑啓くん。東京藝術大学音楽学部の同期で、現在は会社員として働く傍ら、ウェブメディア「Online Motor Magazine DRIVETHRU」のライター活動もしている。

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彼は音楽環境創造科だったが、学生のころからずっと、SNS上でタクシーのことばかり発信している。

大学ではサウンドエンジニアリングやサウンドデザインを学んでいたから、卒論は、とあるタクシー会社のラジオCMを作るっていう企画を立てて、実際にラジオCMを作ったよ

 

音楽学部の中でもできる、タクシー関連のことをやってのけたのだ。そんな彼に、いまの仕事はタクシーと関係ないんだよね? と聞くと、

「うん、そうそう、でもまぁ何かしらタクシーに……」と言う。
本当によくタクシーに繋げようとするよね、と突っ込むと、
「越境行為甚だしいよね〜」と、彼は即座に答えた。自覚しているようだ(笑)

高桑くんの連載「TAXI BOY」を見つけた時、私はニヤリとした。会社の仕事と関係なく、好きでやっていることだよね、と聞くと、「いかにも、お金の匂いがしないぞって感じだよね」と高桑くんは笑った。

学生を卒業して仕事で忙しくなると、”ライフワーク”を蔑ろにしがちだ。
私自身、そうである。でも、高桑くんはサラリーマンになったいまでも、タクシー愛を強く持っている。

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私が興味を惹かれたのは、ロンドンタクシーの記事。こんなタクシーが日本でも走っていることに驚いた。

運転手のおもてなしの精神が、ロンドンタクシーと日本のタクシー会社に通じていて。自動ドアが付いていないんだよ。だから、お客さんがいたら停めて、ドライバーさんが自分で降りてきて、ドアを開けて中にお招きする。
乗ってみると、お客さん第一で設計されているから、後部座席のところがすごく広くて、なんなら対面で座れたりするんだよね。新幹線のボックスシート的な感じ。
乗り降りする時のスロープもあって、ユニバーサルなデザインなんだ。ドアもちゃんと90度、手前にガゴッと開くんだよ

 

見てみたい。これが普通のタクシーと同じ料金だというから驚きだ。

高桑くんは、タクシーの行灯を集めたりもしている。
どうやってもらうの? と聞くと、

いろんな手法があるけど、タクシー会社の人と仲良くなって、いまだ!って思ったら、ちょっと行灯とか貰えますかって聞いたりする

 

コミュニケーション能力が、すごすぎる。
仕事でもないのに、そんなに頑張れるなんて。

いや、コミュニケーション力というより、想いだから。想い先行型人間だから

 

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高桑くんを表す言葉を、聞いた気がした。
出張でどこかの地方へ行った時でも、街中で乗りたいタクシーを見つけたら、「基本、走るから。タクシー乗るためには俺、走るから」と高桑くんは言った。彼の熱さには、もう、参りましたと言いたくなる。

そもそも、どうやってタクシーと出会ったのだろう。

元々、働く車が好きだった。派手な大型トラックのデコトラに、小学1年、2年のときに目覚めて。それで中学高校になると、バスが好きになってね

 

ふむふむ。想像できる。

ある日、埼玉の実家の近くで、デコったタクシーを見かけたんだ。車内にシャンデリアとか付いてたし、シャコタンだし。(車高を低くして、地面に近くすることで、イカつく見せること)
超絶リーゼントのおじさんがドライバーだったの。ノックしたんだけど、ガン無視されて。乗車拒否、だよね。それで興味を持って

無視されたのに興味を持つとは……変態性を感じる。

毎回絡んでいたら、だんだん仲良くなれて、話してくれるようになった。
タクシーは、いろんな公共交通機関の中でも、当事者と乗る側の距離が近い乗り物。情報も生で貰えるし、優しい乗り物だなと思って。
どっちかっていうとワルのおじさんだけど、その辺のコミュニティの人たちとみんなで、駅前でたむろって話したりしていたのを見て、タクシーを好きになったよ

 

血の通ったコミュニケーション。私も好きだ。
関係は続いているのか聞くと、「いまでも実家に帰る時とかに電話して、会うよ」と彼は答えた。
さすが熱い男、高桑啓だ。物や事だけを愛しているわけじゃない。
人との関係を大切に育んでいる。

最後に、帰り道で高桑くんが言っていたことが印象的だった。

なんの役にも立たないけど、好きでやっているものの発信を、諦めたくないんだよね

 

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SNS上で、”いいね”を稼ぐことが当たり前になってきた。多くの人が無意識に世の中のマーケティングを気にしていることだろう。
でも本当は、”いいね”を狙ったものより、”好き!”が純粋に詰まっているものの方が、圧倒的に強い。
そう思っているのは、私だけじゃないはず。

だから、高桑くんのような情熱を持った人が、怖くて、面白いのだ。

華恵

エッセイスト/ラジオパーソナリティ

アメリカで生まれ、6歳より日本に住む。10歳よりファッション誌でモデル活動を始め、小学6年生の時にエッセイ『小学生日記』を出版。現在はテレビやラジオ、雑誌などさまざまなジャンルで活躍中。

Instagram:@hanaechap

Twitter:@hanae0428

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