かきものに耳を傾けて。

中野裕之監督の、クリエイティブへの飽くなき探求。

音楽を大切にする映像の巨匠と言えば、中野監督。
かつて、ラジオ番組のディレクターをやっていたことがあったとは、知らなかった。

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TOKYO FMでは、西武百貨店がスポンサーの番組をやっていたらしい。当時、西武に縁のある有名人が毎月、一ヶ月間パーソナリティになった。

「普通、打ち合わせをして構成を考えたりするけど、僕は最初から、ノーハンド方式というか。出会いを大事にして、その場で作っていくタイプ」と監督は笑顔で言う。その仕事の仕方は、勢いのある感じだ。それはきっと、本人も、そして時代も。

「録るのは、全部外ですよ。相手のいる場所に出向いて。録音ダットは全部置きっぱなしで、実際は、8mmビデオでずっと撮ってる」さすがは、映像監督の中野さん。映像も音も両方”撮る/録る”とは、ぬかりない。

岡本太郎さんの回の時は、まず事前に電話で、「岡本太郎さんがどこか思い出の場所に行く回をやりますね、ハイヤーを呼んでおきますから」って伝えて。で、いまでも残っているあのお住まいへ行ったら、ハイヤーはもう返しちゃっていいよって言われて。僕はいまから歩くねって。ハイヤーをすぐに返して、そこから1キロくらい歩いている足音とかを録音して、そのまま放送していました

 

生放送ではないと言っていたから、編集でそこを丁寧に残したという。臨場感があって面白そう! その番組を聴いてみたい。

映像は、画で見てわかることをやればよくて。でも、それ以外のこと、大概黒バックで文字が出ているだけでも、音があれば、表現の8割くらいはもっていける。いまでもそう思いますね

 

中野監督の映像は、音を大切にする。その原点のひとつは、ここにあったのかもしれない。

中野監督の大切なかきもの、ひとつめは「メモ帳」。
1枚のA4用紙と、パソコンのタテイチの画面では、"宇宙の規模が違う"らしい。

1枚の白紙のコピー用紙を置いて、よく書けるペンで自由にわーっと書いていると、すごいアイディアが豊富なものができる。
だけど、パソコンでシナリオみたいに文字を書いていくと、文字の”てにをは”に、ちょっとつまずいちゃっただけで、その瞬発力がどっと落ちちゃう

 

わかる、すごくわかる! 打ち間違えて文字の下に波線が出て、そこを打ち直したりしていると、アイディアを書き出す流れがつっかえる。

「これ、錆びている刀が、土の中から発見された”画”をふと見たときに、書いたもの」そう言って中野監督は、夢のメモを見せてくださった。寝ているときにみたイメージを、「画」と監督は言う。

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これは、もう音もわかっていて、温度もわかっていて、2分半くらいのシーンになっているんですよ。ここからまた夢が続いてほしくてまた寝にいくんだけど、夢、続いてくれないんだよね(笑)
だから、こうして紙に書いて自分に刷り込んでおいたらさ、また続編が夢に出てきたりする。
よくあるんですよ、1年くらい経って、これ見たことある、なんだっけ、あ、あれだっていうの。で、また続きを書いていく

 

おかしくて笑ってしまった。でも監督、冗談を言っているわけでもなさそうだ。本当にそういうことがあるのだろう。

この夢のメモの写真を撮っていた時、「中身も見えるように、もっと近づいて寄って撮ったら?」と言われた。いいんですか、中身が見えてアイディアを盗まれても! と訊いたら、「盗まれるも何も、他の人がこれを描いてくれるならそんな楽でありがたいことはないよ(笑)」と監督は笑った。

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かきものふたつめは、 「MVのカット割り」だ。

音楽を聴く時、映像を作ろうと思って聴き始めると、映像がどっと、何種類も見えるんです。選び放題というか。
たとえば最初、ピアノの演奏が始まると、じわーっと白紙に滲んで見えるものから始まって、立体でうわーんっと見えてきて。で、しばらく画が見えてきたら、曲の45秒のところで滝、とか絶対に忘れたくないものだけメモして

 

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こういうのは初めて見た。
絵コンテとも楽譜とも違う。独特だけど、曲構成や展開を読み取れる気がする。

音楽を聴きながら、ずっと横線を書いていく。32秒でイントロが終わったら、そのあと4小節あるから4つ線を引く。その後、Aメロ、Bメロが入ってきて。で、ここで「ぎゃーん」って聞こえたらぎゃーんって文字で書いて。その後ドラムが「ダガダダガタダガダ」って入ってきたら、ダカダダカダダカダってギザギザの文字とドットを書くんですよ

なるほど、わかりやすい。
これを、カメラマンさんや女優さんに渡すのですか? と聞いたら、「渡してもわからないと思う(笑)」と監督は笑った。では、絵コンテにするのだろうか?

絵コンテって、見る人が見たらわかるけど、あれ、漫画よりもわかりにくいからね。絵コンテは構図のメモだと思うんですよ。ふたり立ってるとか、ひとり立ってるとか

たしかに。
しかし一方で、以前とあるMVビデオの監督から、「絵コンテは、一緒に現場で働くスタッフや出演者やアーティストさんへの、手紙のような存在だ」と訊いたことがある。中野監督はその感覚とは、ちょっと違うのだろうか。

映画とかみたいに、スタッフが大勢いて誤解を招くと大変なことになる場合は、必要なんだけどね。
中野組の場合は、ぼくとアシスタントがいて……もう、それだけなので

そんなに小編成だったっけ?

ぼくはカメラもやってるから。
カメラをやっていなかったら、やっぱり絵コンテがないとカメラマンに伝わらないので描くんですけど、ぼくは自分で撮っちゃうから

ハッとした。
そうだ。私が小学生の頃、中野監督プロデュースのショートムービーに出させてもらったことがある。その時も、監督はカメラを回していた。

監督は、自分でできることはなんでもやる人だ。
他のスタッフに役割を与えて分業制にするのではなく、自分自身が現場で発揮できることを精一杯出し切る。そんな現場が思い浮かんだ。

ラジオで曲をかけている間、監督はわたしに言った。

こうしてゲストをスタジオに招いて話すだけじゃなくて、自分で録りに行くっていうのも、面白そうだよね

その言葉は強く胸に響いた。
相手のいるところへ自分で出かけて行って収録をするって、
スタジオでは録れないものが録れるぞ。
自分の役割は、これで終わりだと、どこかで見限っていないか?
もっと面白いことをやろうと考えるのを、放棄していないか? 
方法ならいくらでも、あるんだぞ。

そう言われている気がした。考えすぎかもしれないけど。

監督は、向こう側にいる人だ。
私も、向こう側へ行きたい。

HIROYUKI NAKANO
日本の映像作家、ミュージックビデオ監督、映画監督。ピースデリック主宰。1990年に手がけたDeee-Liteのデビュー曲「Groove Is In the Heart」が全米4位の大ヒットを記録。この作品で、アメリカMTVアワード日本人初のノミネート(6部門)を果たす。他にも、布袋寅泰、GLAY、Mr.Children、今井美樹、小野リサ、サザンオールスターズなど、数百本のPVを手がけている。また、劇映画やONE OK ROCK のドキュメンタリー映画『FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM』などの監督も務める。

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