かきものに耳を傾けて。

フランスで一目置かれる、漫画家・相澤亮に学ぶこと。

小学生の頃からノートに漫画を描いていたという、漫画家の相澤亮さん。高校生になると原稿用紙に描き始め、美大へ行きたいと思うようになり、美術予備校へ行ってみた。

体験授業を受けた時、彫刻クラスがすごい粗野でさっぱりしていて、いちばん自分に空気が合いそうだなって思ったっていうのはありました。バンカラな感じとか。
立体や空間把握が問われる学科だから、そのあたりも自分に合っていたと思う

 

学生の間は彫刻と漫画の両方に取り組んでいたという。漫画と空間……つながりそうな気が、しなくもない。

美大出身のプロの漫画家の中に、何人か彫刻出身の方っていたりするんですよ。キャラクターがいて、場面によってカメラをどこに置くかとかを頭の中で組み立てる能力が、多分ほかの学科よりは秀でているのかなとは思います

 

そんな相澤さんの漫画作品『雪ノ女』が今年の3月にフランス語に訳され、フランスで出版された。もともと、小泉八雲の『怪談』の中の一編の雪女を、現代劇に翻案したものだと言う。

雪女って、昔話の分類では「異類婚」っていう話なんです。
人間じゃないものと結婚するっていうストーリーが世界中の昔話にはあって、だいたいそれは、悲劇で終わるんですよね。派生の話を地方ごとに追っていくと、続編があったりして

 

相澤さんは雪女と主人公の男性を描きつつ、漫画の後半で次世代の子どもたちの話も描いている。

この漫画、読後感は清々しかった。おどろおどろしい雪女のイメージとは違い、温かさがあった。それでいて、無駄のない美しさと品が心地いい。

フランスという国で出版されたことには、理由があるのだろうか。

フランスには、バンドデシネっていう、フランスの漫画があるんです。

 

フランス特有の漫画で、芸術的評価をされているジャンルだそうだ。古典だと、『タンタンの冒険』なんかもそのひとつ。

相澤さんは学生時代に、漫画家の松本大洋氏のインタビュー記事を読んでバンドデシネの存在を知り、憧れを抱いた。ただ、フランスの街そのものはあまり好きになれなかったようだ。

旅行でフランスへ行って本屋をいろいろ周ったりしたんですけど、最初、フランスの印象はすごい悪かった。パリとか……冷たい感じがしたし、汚いし、なんか、もう全然いやだ、みたいな感じだったんです。だけど、1年くらい経つとまた行きたいなと思って

 

そんな中、秀桜基金留学賞をとり、長期でフランスへ行けることになった。
ちょうど日本で『雪ノ女』を出版した頃だったので、これを現地の出版社に売り込むためさまざまな出版社を巡り、持ち込みをくり返したと言う。

でも語学学校とか行っていなかったから友達も全然できなくて……もう、いままでの人生で最大に孤独でしたね

 

実はこのあたりのことは、こちらで読むこともできる。

相澤さんはフランスで憧れていたものに触れながらも、日本の漫画の面白さを再発見する。

コスパの悪いことをしている、と相澤さんは笑ったが、その気づきの確信は、相澤さんが自分自身で経験した強い芯になりそうだ。そう伝えると、「うん、なんかやっぱり日本の漫画って世界一なんだなと思って」と相澤さん。

その後、日本に戻って漫画を描き続け、今年になって『雪ノ女』のフランス語バージョンが出版されたというわけだ。
ツイッターやインスタグラム上には、「絵的に美しい」などと言ったフランス人たちの感想が書かれている。

フランス時代のことを思い出すのは辛いけど、自分の信じるもので人生が動いていく感じのワクワク感が、同居している感じ

 

相澤さんの言葉が残った。
私にはそういう時期が、まだ、ない気がする……。

ちょっと、正直、羨ましい。いや、羨ましいなんて言葉を出すには大変すぎる時期なのだろうけど……。

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相澤さんの大切なかきものは、「ネーム」だった。

白無地のノートが絶対条件。東急ハンズで売っている3冊組のノートだという。わりと薄いノートで、ページ数が少ない。

あんまり長く1冊のノートを使っていると溜まっていく感じがするので、ぽいぽい新しく変えていきたい

 

中身を見ると、編集者と打ち合わせ中のメモ、キャラクター設定のメモ、そしてネームが書かれていた。

頭の中でストーリーが形になっているような、なっていないような状態のものをまず書き留めて、っていう感じですね。だから、自分の記憶の延長みたいな、外部記憶みたいな感じのイメージで作ったものです

 

ストーリーをつくる際は自分自身の感情から出発するが、キャラクターを作っていく時点では、そのキャラクターの感情になっていくという。

難しそうだ。以前、私自身も物語を書こうとしたが、主人公の気持ちを自分に引き寄せてしまいがちだった。どうやって、ストーリー設定の中のキャラクターの気持ちにちゃんとなれるのだろう。

結構、編集者がうまいこと舵取りしてくれるんですよね。作者でもわかっていない欠点とか、作者でもわかっていない本当に書きたいこととかを、編集者って、見抜いて整理していってくれるんで。編集者がすごいなと僕は思いますけどね

 

かわされたような感じがした。
でも、実際にそういうことなのかもしれない、と同時に納得もいった。
ということは……編集者に出会う力が、そもそも必要そうだ。

まあね、でもとりあえずいろんな出版社に持っていけば、いい出会いはあると思うんですけどね

 

ハッとした。相澤さんはやはり行動の人だ。パリまで行っていろんなところへ持ち込み、日本でも、やはり持ち込む。

もし、心が折れそうになったら、どうするんですか……
これを相澤さんに聞きそびれた気がする。
でもそれは、自分が実際にそうなった時に聞こう。
もし辛くなったら……と考える前にやっぱり、行動だ。

相澤亮 Ryo Aizawa
漫画家。2010年「講談社月刊アフタヌーン四季賞 夏」純入選、12年、第1回「電脳マヴォ敗者復活新人漫画大賞」期待賞、15年、「第9回秀桜基金留学賞」受賞。同年、第6回「このマンガがすごい!大賞」にて最優秀賞を受賞。投稿作「雪女」をもとに、『雪ノ女』を刊行。19年3月、『雪ノ女』がフランス語翻訳され発売となった。

華恵

エッセイスト/ラジオパーソナリティ

アメリカで生まれ、6歳より日本に住む。10歳よりファッション誌でモデル活動を始め、小学6年生の時にエッセイ『小学生日記』を出版。現在はテレビやラジオ、雑誌などさまざまなジャンルで活躍中。

Instagram:@hanaechap

Twitter:@hanae0428

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