話題の映画『チャレンジャーズ』、ゼンデイヤが纏った3つのキースタイルを解剖!
ルカ・グァダニーノ監督の公開中の映画『チャレンジャーズ』を観た。
そういえばジル サンダーを手がけていたラフ・シモンズが衣装を担当して主演のティルダ・スウィントンがものすごく素敵だった『ミラノ、愛に生きる』(2009)も彼の監督作で、ドラマシリーズ『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』(20)はラフ シモンズやコム デ ギャルソン・オム プリュスなどのクセの強いアイテムを飄々と着こなす主人公のスタイルに釘付けになってしまう。さらに映像もスタイリッシュだし、グァダニーノ監督はファッションと親和性が高い印象はしていた。
そして、ついに?満を持して?!『チャレンジャーズ』の衣装デザイナーは、ロエベのクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソンが務めている。ただ、グァダニーノ監督はロエベのキャンペーンに登場したり、ショー会場で見かけることもあったので2人のコラボレーションはそんなに意外ではない。本作のメインキャラクターをアンバサダーのジョシュ・オコナ―が演じているのもきっかけのひとつになったのか。グァダニーノ監督の前作『ボーンズ アンド オール』(22)で脚光を浴びた女優テイラー・ラッセルが映画の公開前に23年春夏ロエベのショーのオープニングを飾り、その後アンバサダーに就任したのも記憶に新しい。
グァダニーノ監督らしく官能性が炸裂しているとか、音楽の使い方や撮影方法が斬新だとか、(これらは情緒や機微に疎く、伏線回収などにも気づかないとっても鈍い私にもわかってしまうほどあまりにもわざとらしく、漫画的なくらいなような)はたまたその濃いキャラクターが気になってしまうテニスの大会「チャレンジャー」決勝戦の審判役が主演ゼンデイヤのアシスタントだったとか、語るべきポイントはいろいろあると思うが、このたびはやはりファッションに絞ってお届けしたい。
「衣装:ジョナサン」、ということで意気込んで観たものの、想像以上にキャッチーでシュールでユーモラスな「ロエベ感」は少なめだった。もちろん、本作のために特別にデザインされた服はあるし、ゼンデイヤ演じるタシはロエベのアイコンバッグを愛用している。しかし、ジョナサンは3人のメインキャラクターの立場や性格を表現することに徹していて、資料によれば「プロダクト・プレイスメント(小道具として目立つようにブランドの商品を配置すること)ではなく、私たちを取り巻く生活環境にブランドが蔓延していることを見過ごしがちだという奇妙な心理状態を掘り下げるということ」をコンセプトに掲げたようだ。確かにスポーツの世界はとくにロゴの嵐だし、ユニクロやOnといったジョナサンが関わっているブランド以外にも(大写しにされてまるでキャンペーンビジュアルのように見えたOnのスニーカーは、ロジャー・フェデラーと共同開発したブランド初のテニスシューズらしい)、いろんなロゴやアイコンがたくさん出てくるのだ。劇中一番ゼンデイヤが輝いて見えたのも、アディダスのテニスウェアだった。
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その姿を見て、三角関係を築くことになるパトリック(ジョシュ・オコナー)とアート(マイク・フェイスト)が魅了される、というシーン。テニスは詳しくないのでフォームに真実味があったのかどうかはわからないが、引き締まった肉体でひっつめヘアのゼンデイヤがコート上で闘志むき出しで吠える様子は、私も思わず2人と一緒に「かっけー」と圧倒されてしまった。巷で言われている「テニスコア」ファッションもなんのその、鍛え抜かれた肉体に本気のユニフォームが一番かっこいいのである。
もちろん、ロエベでも印象に残る服はあった。
筆頭は、実際に販売もされている「I TOLD YA」プリントTシャツだろう 。ジョナサンは、育ちが良いがゆえに無頓着にも見えるパトリックの装いは大統領を父に持つジョン・F・ケネディ・ジュニア(1960〜99年)をモデルにしたと言っており、実際に彼が90年代に着ていた白Tを参照している。このTシャツはパトリックも、当時付き合っていたタシもパトリックの恋敵アートとのランチの際に着ていて、タシの場合はオーバーサイズになっていたのでパトリックのものを共有していたと推測され、アートを前に彼氏の私物着用とは何だか生々しいですね、とか、思いを巡らせてしまう。
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あとは、「チャレンジャー」決勝戦観戦の際にタシが着ていたシャツドレスのスタイリングだ。
ドレスは2023年春夏ロエベを思い起こすデザインなのだが、個人的には、それにシャネルのエスパドリーユを合わせていたのに驚いた。タシのようにトップ選手を引退し、コーチ・マネージャーとして成功したビジネスウーマンなら、バッグやシンプルなドレスならロエベかもしれないが、ジュエリーはカルティエで、ロゴものはシャネル、と冷静に?!振り分けているのだ。
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他にもゼンデイヤとマイク・フェイストの肉体美(とくにお尻...)を見せつけるセクシーなアンダーウェアや、うっかり見逃してしまったパトリックの「ぼろぼろだけど現在でも非常に高価な古い財布」(ジョナサン談)など、気になるアイテムはあるが、ともかく私利私欲は極力捨てて映画をより良くしようというジョナサンの姿勢が伝わった。彼個人のSNSには映画・ドラマ好きが滲み出ているし、きっと楽しかったんだろうなあ。グァダニーノ監督の次回作、ダニエル・クレイグ主演の『Queer』の衣装も担当するようなので、そちらも大いに期待です。
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