栗山愛以の勝手にファッション談義。

Netflix「きらめく帝国」で、社会勉強⁉

コロナ禍でも、ラグジュアリーブランドは富裕層顧客の支えがあるのでそこまで痛手ではないらしい、と聞いたことがある。世界中を巻き込んでいるこの一大事にびくともしないってどんだけ、と思っていたが、Netflixのリアリティ番組「きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜」を観てわかった気がした。たぶん、この出演者のような人たちのことではなかろうか。

LA在住でアジア系の彼らは、ほとんどが明らかに手を加えていそうな顔立ちで、英語と母国語を流暢に操り、ゴージャス極まりない衣食住を堪能している。豪奢な服装は似合っているんだかいないんだか。センスが良いとも言い難い。しかし、あまりに別世界すぎてそんなファッションチェックはもうどうでもよくなり、妬み嫉みやうらやましいといった感情も全然湧いてこない。自国の文化にまつわる彼らの悩みも描かれていてもちろんそれらも興味深いのだが、とにかく彼らの生き生きとした姿と金遣いに圧倒されてしまう。わー、すごいなーと、あんぐり口を開けている間に完走してしまった。

ということで、このたびは「きらめく帝国」で心に残ったメンバーと、彼らの名言をご紹介したい。少々ネタバレ含みます……

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まずは、日本とロシアのハーフ、アナ・シェイ。
LA在住アジア系富裕層グループの中でもトップクラスのお金持ちで、兵器ディーラーの娘。爆弾、銃、防衛技術の販売はそんなに莫大なお金になるのか、と哀しくなるが、彼女は仕事には関わっていないよう。グループ最年長で(どうやら60歳らしい)、フジコ・ヘミング的な凄みがある。
ディオールのスタッフに自宅に商品を持ってこさせて、友人に5,500ドル(およそ58万円!)分買ってあげたり、主催したパーティの招待客にお土産としてロレックスを渡したり、サロンでは他人のひそひそ声が気に障るから、エステティシャンやネイリストを大勢自宅に呼んだりするエピソードの数々に驚かされたが、だんとつ一位はこちら。

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誕生日を迎える友人のカップルを、パリにあるお気に入りのレストランに連れて行ったのだ。LAから、ディナーのためにパリへ。富裕層には、小旅行、くらいの感覚なんでしょうか。

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アナと富裕層クイーンの座を争うクリスティン・チウもすごい。
台湾出身で、「宋王朝直系の子孫」の夫は多くのセレブを顧客に持つ形成外科医。こちらも飛行機をチャーターしてラスベガスに買い物へ行ったり、アナに対抗してルイ・ヴィトンのピンクサファイアとダイヤモンドのネックレスを披露したり、息子の誕生日にグッチのバッグのクレーンゲームなんかがある豪勢なパーティを開催したりとかなり派手。そんな中はっとさせられたのは、アナが着ていたディオールのジャケットを見て放ったひと言。

「レディ トゥ ウエアのわりにはよくフィットしているわね」

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そこで気付いた。そうなのだ、彼女はオートクチュールを手に入れる階層に属しているのだ。
服を見てオートクチュールなのかレディ トゥ ウエアなのかが気になったりすることなんてほぼない。オートクチュールを買うのはこんな暮らしをしている人なのだった。

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そんなに出演シーンはないのだが、ジェイミー・ジーという子もいる。
サイバーセキュリティ関連の起業家の娘で、シリコン・バレー出身。いまはインスタやらYouTubeやらをやってインフルエンサーとしてお小遣いを稼いでいるらしい。試しに見てみたが、スタイル抜群なのは認めるものの、すてき、まねしたいという気持ちにはあんまりならなさそうな……?! ともあれ年収は4万ドル(約420万円)くらいらしく、「あなたのコーディネート1回分の洋服代にも満たない」「パリ旅行3日で消える」などと周囲に揶揄されており、ほぼ親のすねをかじって暮らしている様子。
そんな彼女は以下のように言っていた。

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「彼」とはお父さんのこと。どうやら彼女が何をしようが、いくら使おうが気に留めていないようなのだ。
ジェイミーの服装からするとけっこうな額が引き落とされているようにお見受けするが、お父さんにとっては痛くもかゆくもないのでしょうか……

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女性陣が目立つ番組だが、シンガポール出身で不動産開発業をしているというケイン・リムはトークも達者で番組の狂言回し的な役割も担い、存在感がある。父親は東南アジアで「石油、海運、タンク、不動産で財を成した」らしく、自宅の壁一面にハイブランドのシューズを並べていたり、服はもちろん、時計やらジュエリーやらもすごそう。そんな彼が人種差別主義者の団体に出会って叫んだのがこちら。

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その声を尻目に、人種差別主義者たちはテレビクルーの存在もあってか一目散に去っていった。ケインは「家を買ってやるぞ!」とも付け加えていて、財力を持っていることがこんなにも堂々たる態度につながるのか、と目を見張った。あまり品はよろしくないかもしれないが、このシーンは、同じアジア人として爽快ではあった。

英語は片言だし、アジア人だからスタイルも良くないし、と、欧米人に囲まれると日本人は引け目を感じてしまいがちだが、彼らにはそんな自信のなさは微塵も感じられなかった。財力を使ってアメリカに移り住み、整形をし、大いに着飾って、そのおかげで堂々としていて、差別だってものともしない。全部お金で解決、とは思わないが、そういう効果もあるのか、と社会勉強になった次第。もちろんお金持ちの豪華な生活の実態を覗き見的に楽しめるエンターテインメントでもある。アフターコロナでもたいしてダメージを受けていないはずの彼らを確認すべく、シーズン2を心待ちにしたい。

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栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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