猫ごころ 巴里ごころ

コンサートと撮影の合間に、シャルロットとランチを。

 「シャンゼリゼのギャラリー・ラファイエットにいった?」

 パリに着くとすぐにみんなにそう言われる。

 「デパートというより、セレクトショップみたいで、品揃えがなかなかいいの。コレットみたいよ」

 みんなに勧められても、どうしても最初に行きたいのはポンピドゥー・センターの『ドーラ・マール』展だった。これまで栄光のピカソの影の女としてしか知られていなかったが、実はミューズというだけでなく、繊細な感性を持ったアーティストとして、当時のシュールレアリスト作家のアンドレ・ブルトンのポートレートや前衛的な作品を遺した優れた写真家だった。初の本格回顧展だ。

 久しぶりにポンピドゥー・センター前広場で小一時間並んだけど、400枚の写真展はなかなか見応えのあるものだった。

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 「コンサートに来ない?」 

パリに到着するとすぐに、シャルロット・ゲンズブールから連絡が来る。シテ・ドゥ・ラ・ミュージックで彼女のコンサートがあるというのだ。フランスの女性歌手部門のグランプリ、いわば今年の仏歌謡大賞を受けたばかりのシャルロットは、ますます大活躍をしている。ニューヨークからパリに戻り、国内ツアーや夫の映画の撮影で多忙の日々を送っているという。

 当日、シテ・ドゥ・ラ・ミュージックのコンサート会場には、前列に母親ジェーン・バーキン、その隣に監督で男優の夫イヴァン・アタルがいて、いつものように家族の応援団が並んでいる。場内は身動きできない位の熱狂的なファンにあふれていたのに、彼女が唄い出すと、さっと静かになり、どれだけ彼女のスタイルをレスペクトしているかが伝わってくるようなコンサートだった。

 曲が始まると、前席のジェーンが、娘のリズムに会わせて身体を揺らしているのが、とても微笑ましかった。

 コンサートと撮影で、連日多忙なシャルロットから数日後に連絡が……。左岸のラテンアメリカ文化センター(メゾン・ドゥ・アメリック・ラタン)でランチをしようと誘われた。そこの庭園で夫イヴァン・アタルが監督の新作の撮影をしているそうだ。今年の11月にはアップするその新作は、すでに日本で買われているので、来年来日するかもしれないという。

 サンローランの正式イメージガールとしてビデオを撮ったばかりだし、彼女自身ファッションを手がける話もあるというから楽しみだ。

 「ニューアルバムの準備も始めているの」
 盛りだくさんね!来年もまた大活躍しそう。

 猛暑と聞いていたパリも、7月初めは暑さも落ち着き、なんだか清々しい日が続いた。
 帰国前日、ボンマルシェのエピスリィーに行ったのは、どうしても買って帰りたいマスタードがあったからだ。滞在先のサンシュルピス近くの、カネット通りに新しいレストランができていて、そこのテーブルに置いてあった葡萄をベースにしたマスタード「ヴィオレット」が、あまりにもおいしかったからだ。19世紀には、肉料理といえば必ずこれを添えていたそうだが、日本ではまったく知られていないもの。いいお土産になりそう。

帰国前日はお土産を買いにバック通りにいく。16区から左岸に引っ越してきたショコラティエ「ボアシエール」は、包装がとてもおしゃれな店で、最近人気のところだ。

 帰りの機内では、先頃亡くなったカール・ラガーフェルドのバイオグラフィー「カイザー・カール」を読んでいたけど、まだ読みかけなのに座席のポケットに忘れてきてしまった。モード界の人たちが、大抵読んでいた本だった。

村上香住子

フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!

Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka

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