オトコが好きなファッション!? ライターの本音トーク

「ファッション産業はとてもダーティだ」 by ヴェトモン、に思うこと。※おふざけ封印talk

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ファッションブランド、「ヴェトモン(Vetements)」公式インスタグラムより。
ニューヨーク5番街の百貨店「サックス・フィフス・アヴェニュー」のウィンドウに、古着を詰め込んだ、社会メッセージディスプレイ。

今回のブログは、おふざけ一切なしです。
「ヴェトモン」のインスタレーションに関連する、ハイファッションの世界についての日頃の思いを述べます。
もし、途中で我慢しきれなくなり、いつもの悪ノリのおふざけに突入してしまったら、そのときはすみません、ホントすみません。
なるべくストイックに頑張ります。
そして、ファッション界に詳しくない人にも読みやすい文章を心がけて。
では本題。

ヴェトモンとは

ヴェトモンという新進ブランドをご存知なくても、あまりお気になさらずに。
着るだけでおしゃれになる(誰からもすてきと言われる)、といった服ではありませんから。
ロシア圏出身のデザイナー、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が、パリコレでショーを行っているモードブランドです。

ファッションとはあまり縁がない市井の人々が日常で着ている服(ブルゾン、ジャケット、シャツ、デニムなど)を極端にシルエットを変えてユニークな造形に仕立て直した作風で、近年のモード界で一番の注目株になりました。
「バレンシアガ」のディレクターにも就任し、例の「IKEA」のショッピングバッグに類似したバッグをデザインしたのもデムナです。

余談ですが、あのバッグの元ネタがIKEAなのは疑問の余地がありません。
「ロー(低層)」を「ハイ(高層)」に持ち込み、「ロー」の面白さを「ハイ」な階級の人々に伝えるデザインが彼の持ち味であり、IKEAをパクるとか、そういう次元の問題ではないでしょう。
デムナにしてみれば、「IKEAって最高にかっこいい」、でしょうから。
バレンシアガのプレスルームでバッグの実物を初めて見たとき、「あ、IKEAだ。こう来たか! 笑」、と思いましたよ。 
トイレの便器をアート作品として展覧会に出品した芸術家、マルセル・デュシャンにも似た発想といえなくもない?

デムナのデザイン手法が評判になったのは、貴族階級と富裕層が形成してきたヨーロッパのモード界だからこそだと思います。
社会における階級、階層のない日本で生まれ暮らし、デザイナーズブームも90年代ストリートも古着リメークもアメカジも通ってきた私のような人間ですと、ヴェトモンのショーは見ていないものの、服に触れて眺める限り、革新や衝撃はさほど感じません(魅力は感じるとしても)。
「リーバイス」「チャンピオン」など様々なオーセンティックブランドとのコラボも、我が国には「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」というクリエイティブな先駆者がいますし。
しかも、ジュンヤには(ギャルソン全体には)、あまり語られない他ブランドとの考え方の違いもあるのです。
人々に販売する商品としての考え方なのですが、それについては記事の後半で述べます。

古着のディスプレイのテーマ

ヴェトモンの公式インスタグラムに書かれたコメントは、冒頭からかなり強烈なものです。
「Fashion is a vey dirty industry」=「ファッションはとても汚い(卑劣な)業界(産業)です」
NYの百貨店ディスプレイでは古着や売れ残りの服を積み上げ、「アメリカでは余剰生産の服が毎年500億ドルにも達する」と語り、ファッション産業が抱えるムダに警鐘を鳴らしています。
いわく、適切な量をつくるべきだと。

いま、こういうメッセージを世界中に届けられるブランドは、ヴェトモンしかいないでしょう。
日本では「ハフポスト日本版」の記事になりました。

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「ハフポスト日本版」の生田綾さん執筆記事より。

関連して、大新聞のウェブサイトにもリンクが貼られました。

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朝日新聞デジタル」より。

大手一般メディアで百貨店のディスプレイが取り上げられることはめったにありません。
強い影響力がある、とみなされているヴェトモンだからこそのピックアップ。
その名を知らなくても、クリックして記事を見た人は多いでしょう。
それだけでも、このようなブランドが出現し、モード界に話題を提供していることに一定の意義を感じます。

ただ、しかし……私はヴェトモンの活動に全面的に拍手する気にはなれません。
その大きな理由は、価格設定。
これまでのモード界が行ってきた、高級イメージを人々に植え付けるやり方と同じことをやってる。
世の人々が、ハイファッションへの興味を失った一つの原因と考えられることを、繰り返してる。

高価すぎる服でいいの?

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ヴェトモン 2017年春夏メンズ・コレクションのビッグデニムシャツ。 
¥248,400

生地分量の多さ以外は、ウエスタンシャツの定番ディテールを用いた、カジュアルな仕立てのコットンデニム・ウォッシュ加工シャツです。
価格は表記ミスではありません。
二十四万八千四百円です。
デザイン料に、二十万円分の価値があるということでしょうか。
限りなくアート作品だから、これでいい?
作り手は、これを買った人に笑顔で挨拶できるのかな……。
「いい買い物しましたね!」って。

「高価な服は高そうに見えねばならない」、と私は考えています。
考え抜かれたカタチ、凝った縫製、上質な素材が見事なハーモニーを奏でる服は、それは素晴らしいものです。
着ている人の品格を上げ、長く愛用しようと思わせます。
驚くほど高価でも、納得させられる服は世の中にたくさんあります。
でも、キャッチーなブランド(アイテム)の陰に隠れてしまいがち。

かつて高級ブランドの多くは、意図的に高価格に設定し、「高いもの=いいもの」の公式でブランド力を上げるイメージ戦略をとってきました。
“おしゃれな見た目”  の服がほかに存在しなかった時代のやり方です。
確かに、人々の羨望の気持ちをあおる効果があったのだろうと思います。
ところが、ファストファッションの出現で、安くてもパッと見はきれいな服が出回り、SNSの個人発信が力を持ち、高価な服を購入する人は激減しました。

日本では、一部の人にしか好かれない強い個性は求められず、不特定多数に「いいね」される、「普通のちょっと上」が主流になりました。
「暗い夜の街より、明るい昼間の自宅」が大切にされる気風も広がってきました。
「ハイ」に憧れる人が減り、やってきたのは、「服が売れない時代」。
衣食住の中で「衣」は、もっともプライオリティが低い位置に下がってしまったのです。

価格にイメージを頼らないブランドもあり

一部の人しか購入できない高価格な服が存在することは、それ自体には意義があると思います。
余裕のある人だけが購入すればいい、という考え方です。
中世の芸術におけるパトロンの役割に近いものです。
購入する人がいることで、歴史的な職人技法が未来に継承され、職人や工場で働く人の生活も守られることになります。
こだわり抜いた服小物は、世の中から消え失せてはいけないのです。

トップクラスの高いブランドイメージを長年保ちながら、納得のいく(と私は考える)プライス設定のブランド(会社)もあります。
例えば、「コム デ ギャルソン」。
男の私が馴染み深いのは、前述した「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」です。
一般的な見方をすれば高額には違いないものの、大人がちょっと無理すれば、アウターでも買える設定。
よく考えられたデザインで、凝った縫製で、選ばれた生地を使っているから、「高めプライスでもやむなし」、と思えます。
シーズントレンドを踏まえたデザインですが、時代に媚びていないから、いつ着ても流行遅れには見えません。
富裕層しか入手できない服であることを演出しなくても、ブランドイメージを保つことは可能なのです。

これも余談ですが、先日、17-18秋冬の服をメディアに掲載するためにジュンヤのプレスルームに行きました。
お借りするサンプルで選んだのは、今季らしい茶色の英国調チェック柄のツイードジャケット。
地味めではありますが、とても素敵な服で、ジュンヤらしいデザイン性も感じられます。
ですが、ブランドの人に話を伺うと、「今季はスタイリストさんのサンプル貸出しは、パリコレでキャッチーだった『ノースフェイス』とのコラボシリーズばかり」、とのこと。
つまり、ファッション雑誌などに載る今季のジュンヤは、コラボ服が大半(アイテム被りもあり)ということです。
「もったいないな。旬の派手な服装を好むファッショニスタ以外の人が、長年着たくなる素晴らしい服がほかにもたくさんあるのに」、と思いました。
これからの時代、ファッションメディアは、「ハイ」の中から独自の目線で価値があると感じるアイテムを選び、より多くの人に分かりやすい言葉と易しい表現方法で伝えていかないと(自戒の念も込め)。

優れた服への興味を再び

この記事で一番述べたかったことは、ヴェトモンが提唱した余剰生産をなくすことへの賛同よりも(それもありつつ)、世の中がハイファッションに無関心になってきたことへの不安な気持ちです。
ファッションは、暮らしや文化の未来をつくるもの。
だからこそ街の流行スタイルも面白いし、カフェの制服も楽しいし、常に新しい優れたデザインが生まれて生活に浸透してほしいと思います。

ファッション界は、小さな村社会です。
高級ブランドが、その村の中に高い城壁を持つ豪華な城を築き上げ、ごく一部の人だけを城内に招いて毎晩パーティを繰り返せば、村の住人でさえ、「塀が高すぎて中が見えないし、この城のことは自分たちと関係ないや」、と思ってしまうでしょう。
村人の関心さえも失ったら、城壁を壊そうとする “革命” が起きることもありません。

ファッション業界は、どうすれば生き残れるのでしょうか。
一つの急務は、異業種との結びつきを増やすことでしょう。
飲食、建築、美術、映画、演劇、音楽、放送を始め、ハイテク産業、家電産業などにもどんどん関わっていくべき。
人々の目にとまるところにファッションを持っていき、興味を抱いてもらう活動が何よりも大事です。
自分たちを「偉い存在」と思わずに、謙虚に他業界とお付き合いする気持ちを決して忘れることなく。
そして、店づくりも接客も広告も、「エンターテインメント」であること!
もはや、カッコつけても人の心は動かない時代です。
ルックスで選ばれた店員が立つ、淡々と服が並ぶだけの店に行ったり、機嫌悪そうな表情の突っ立ち少年少女を撮影したイメージ本を眺めたって、ワクワクできません。

エディ・スリマンががらりと変えた「サンローラン」は、ロック音楽界という新たな顧客を開拓したことを賞賛されるべきだと思います。
離れた客を呼び戻すのではなく、新しい市場を生み出すことで、ファッションは広まり変化していきます。
ヴェトモンにもそれを期待したいです。
高円寺や下北沢で古着を漁るティーンのカリスマになれたら、未来のファッションへほんの少しつながるかもしれません。
これから登場してくる新しいブランドも、誰に売るか、どのように広めるか、市場をどう盛り上げるか、買ってくれる人を大事にしているか、のビジョンをぜひ。

 

あとがき

ふ〜、なんとか最後までたどり着けましたかね。
ここまで読んでいただき、ホントに感謝かんしゃです。
お礼に、なんかあげる。
会ったとき、「なんかくれ」と言われたら、なんかあげる。
そして次回のブログは、ふざける。
ぜったいふざける。
エンタメ命ですよ、ええ。

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高橋一史

明治大学&文化服装学院卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。担当ジャンルは、ファッション&音楽。退社後はフリーランスとして、原稿書き・雑誌編集・コピーライティング・広告ディレクション・スタイリングなどを行う。

kazushi.kazushi.info@gmail.com

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