オトコが好きなファッション!? ライターの本音トーク

このシャツ一枚に、心が守られた日。(服のありがたみのお話)

うーん……えーー…………、

どう話せばいいのか分からないまま見切り発進しますけども。

えーーーっと、どうしますかね、
まずは結論を言いましょうか。

「一枚のシャツで心が軽くなった」
ということ。
「そんな服を持っていて良かった」
ということ。
「心に染み入る服をつくれる人がいる」
ということ。

ムズカシイ話でもないので、さらっとお伝えすればいいんでしょうけど、
なんかなー、この日の出来事を同情されちゃうとなー、それはいちばん困ると言いますか……。
「悲しい」とかじゃなく、「しんどい」ってのが偽りのない気持ち。
「あー、たいへんだ!」って心を、救ってくれたシャツのお話です。

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suzuki takayukiのシャツ。
少し生成り色の、アンフォーマルなシャツ。
着心地のいいシャツ。

さて……、
身内に不幸がありまして。
(いきなり重いエピソード。以下、いい気分になれない話がしばらく続きます)

通夜・葬儀を仕切ったのは葬儀社です。
葬儀社という名の工場のベルトコンベアーの上に乗ったようなもので、二日間はすぐに過ぎ去りました。
やっかいだったのは、その後しばらく経ってからの、墓に納骨する49日法要。
今回は、タイムスケジュール計画、各所への連絡(墓管理会社、霊園、参列者、お坊さん、会食の店とメニュー選び……)など、知識がゼロだったことをイチから調べて自分で仕切らざるを得ませんでした。
気軽に相談できる人もおらず、一人でやっていきました。
不安ですよ、そりゃ。
参列者がごくわずかな法要といえども、パズルのピースが上手くハマるかどうか、まったく不明でしたから。
さらに私自身は、神も仏も霊魂も存在しないと考えてる、信仰心のない人間なんです。
正直言って、人が亡くなった悲しみではなく(人間性に問題があるというご指摘には100%同意します)、縁遠かった社会のルール・慣習に従わねばならないことに、落ち込みました。
「しんどい、あーしんどい!」
と。
このしんどさは、法要の当日に喪服を着るときピークを迎えました。

私はスーツを着ません。
革靴も履きません。
髪型を整えることもしません(いつも帽子を被っています)。

スーツも革靴もそれ自体は大好きなのですが、自分が落ち着ける服ではないんです。
外国映画とかで、私服が野暮ったいオトコがスーツを着たら見栄えがよくなり、本人も自信満々になる、みたいなのってあるじゃないですか。
私はぜんぜん真逆で、スーツにネクタイを締めてほかの大人と同じ姿になると、自分が何か大きなものに飲み込まれていく感覚になり、気分がどんどん沈んでいきます。

オトコの喪服のセオリーは、黒スーツ・白シャツ・黒ネクタイ・パンツ用の黒ベルト・黒ソックス・黒革靴・黒バッグ。
家を出る前に、シワシワの服にアイロンを掛けながら、
「これ着たくない、やだ……。
冠婚葬祭は個としての自分を抑える儀式だから、セオリーな装いをするのは仕方ない。
ただ、“葬” だけは悲しみの場であり、遺族まで社会ルールに従わされるのはなんかおかしくないか??
そもそも、いつの時代から続いてるルールだよ??
着る服まで強制されたら、なおさら心が折れるじゃねーかよ!」
と、社会のあり方にまで文句を言い出す始末。
(一人ぼっちの部屋でね)

「今日行くところが、会う人たちが、やることが、着る服が、なにもかもアウェイすぎるぞ。落ち着きたい、なんとか落ち着きたい……」
そんなとき、前日の晩からスーツと一緒にラックに掛けていたフォーマルな白シャツに目が止まりました。
「せめてこのシャツだけでも変えることができたら、、、、あ、『suzuki takayuki』にすればいいんだ!!」

この瞬間に感じた心の軽さたるや、ですよ。
アンフォーマルなシャツだから、通夜・葬儀では着る候補から外していましたが、今日は問題なさそう、と。
それまでの陰鬱たる思いが、すっと消え失せたひとときでした。

実はこのシャツは、デザイナーのスズキタカユキさんが、ちっさい私の体にメジャーを当てて採寸してくれ、ちっさい私のためにちっさいシャツを特別に工場発注してくれたもの(ええい、このタイミングでいつもの自虐ネタやっても笑えないわっ)。
スズキさんは思いを込めた服づくりを長年続ける人です。
劇団「マームとジプシー」の舞台衣装や、ダンサー森山開次さんらのダンス衣裳などもよく手掛けてます。
特集された民法テレビ番組「情熱大陸」や、コメント出演したNHK番組「美の壺」などをご覧になった人もいるかも。

このシャツを着たのは、実は今回が初めてでした。
最初に袖を通す機会をずっと伺ってたんですよね。
まさか、喪服のインナーがデビューになるとは予想もしてませんでしたが。

この日に、自分を保つ心の支えになってくれた服です。
単なるシャツではないんです。
スズキさんや、彼の周囲のスタッフの笑顔や優しさまでふわっと漂う、着る私だけが感じる奥行きを秘めた一枚なんです。

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南青山「suzuki takayuki」プレスルームにて。

おしゃれな服って、食事、パーティ、イベント、デートなど、“幸せ” なシチュエーションで、気分をさらに盛り上げる小道具と考えられがちですよね。
ファッション雑誌だって、ハッピーな話だけで成り立っています。
でも、
“しんどい” とき、“元気出ない” とき、“ツラい” ときこそ、素敵な服が必要なのかもしれません。
いつでもどこでも、心を守ってくれる一着と、皆さんも出会えますことを。

PS.
今回の話は……うーむ、マジメですんません!

© Kazushi Takahashi
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高橋一史

明治大学&文化服装学院卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。担当ジャンルは、ファッション&音楽。退社後はフリーランスとして、原稿書き・雑誌編集・コピーライティング・広告ディレクション・スタイリングなどを行う。

kazushi.kazushi.info@gmail.com

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