旅するミュシャ #3 ユトリロのパリをゆく。

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中島健太『旅するミュシャ-ユトリロのパリをゆく-』2021年 油彩

中島 ミュシャさん、今日は僕の大好きな画家、モーリス・ユトリロが描いた世界を旅するよ。

小さい頃のミュシャ③.jpg

「画伯って時々、ものの見方がステレオタイプよね」

ミュシャ ここはどこかちら?

中島 ここはパリに実際にある「コタン小路」という場所だよ。

 

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今回の作品モーリス・ユトリロ作「コタン小路」1910年作.jpg

モーリス・ユトリロ『コタン小路』1910年 油彩 パリ国立美術館蔵

ちなみにこの作品が描かれたのは1910年、ピカソや藤田嗣治、モディリアニらエコール・ド・パリを代表する芸術家達が活躍した時代の風景だよ! そしていま現在の同じ場所の景色がこちら。

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現代のコタン小路

ミュシャ ほとんど変わってないわ!

中島 そうなんだよ。100年以上前に描かれた作品の世界がそのまま変わらずに残っているのは、ヨーロッパならではだよね。当時はちょうど建築中だったけど、いまはこの階段を上るとサクレクール寺院があるんだよ。ところでミュシャさん、この作品からどんなことを感じるかな?

ミュシャ そうね、パリっていうからにはもっと華やかな世界を想像していたけど、なんだかとっても静かだわ。わたち、あまり騒々しいのは嫌いだけど、でも少し寂しさも感じるのはなんでかちらね。

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制作過程。書いていくと、ユトリロが実に丁寧に風景を観察していたのがわかる。階段を上る人々はどこを目指すのだろう?

中島 さすがミュシャさん、僕もユトリロの描く「静かなパリ」の世界観が大好きなんだ。でもそんなふうに世界を描くユトリロの人生はとっても波乱万丈だったんだ。

ミュシャ ふうん、ちょっと聞かせてもらおうかちらね。

中島 聞いてくれてありがと。ユトリロを語る上で欠かせないのが、ユトリロのお母さんの存在なんだ。名前はシュザンヌ・ヴァラドン。彼女自身も画家で18歳の時にユトリロを出産しているんだけど、実はユトリロのお父さんが誰かっていうのは、いまだにわかっていないんだよ。

ミュシャ あら、ドキドキする話ね。

中島 ね! シュザンヌ・ヴァラドンはとっても魅力的な女性だったみたいで同世代の芸術家たちからモテモテだったの。ルノワール、ロートレックなんかの作品のモデルもしたし、恋愛関係にもあった。ちなみにドガから絵画指導を受けてたんだって! 羨ましい……。そんなわけで諸説あるのだけど、ユトリロの本当の父親はルノワールなんじゃないか⁈ なんていう説まであるんだよ! 天才画家の血を継いでいるとしたら、彼の表現力の豊さもなんだかうなずけちゃうよね!

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アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック『シュザンヌ・ヴァラドンの肖像』1885年 油彩 アルゼンチン国立美術館蔵

ミュシャ (スキャンダル好きな画伯、いつもよりテンションがずいぶん高いわね……)

中島 さて、そんなわけでモテモテのお母さんはユトリロの子育てはもっぱらお婆ちゃん任せ。ユトリロは祖母に育てられることが多かったそうなんだけど、なんとこのお婆ちゃんが大のお酒好きで、幼少期のユトリロにも当たり前にお酒を飲ませてたんだって……。そんなわけでユトリロは16~17歳の頃にすっかりアルコール中毒に。もしかしたらお父さんの不在も影響したのかもね、かわいそうに……。

ミュシャ  あら、画伯、それはちょっと聞き捨てならないわね。片親だから不幸みたいな考え方って偏見だと思うわ。わたちもお父さんお母さん、知らないけど不幸なんて思った事ないわよ。それに画伯だってお父さんを早くに亡くされてるけど、だからって不幸ってわけではないでしょう?

中島 たしかに! ミュシャさんの言う通りだね。ついついアルコール依存症、シングルマザー、恋に奔放なお母さん、なんて聞くと=子どもは不幸と考えてしまっている自分がいたかもしれない。お母さんが恋に奔放で何が悪いの? そんな生き方をしていたのが正しくシュザンヌ・ヴァラドンで彼女の生き方はなんだかすごく魅力的だね。

ミュシャ 自分の人生を生きるってすごく魅力的だと思うわ。彼女は自分の心の声を聞くのが、きっと上手だったのね。

中島 そうかも知れないね。最終的にシュザンヌ・ヴァラドンはユトリロの友人の芸術家と再婚することになるんだけど、だからといってユトリロと母親の関係が悪かったという話もあまりないんだよね。その証拠にヴァラドンが亡くなった時にユトリロは「私の母は、気高く、美しく、善良な女性だった」って言葉を残しているんだよね。

ヴァラドンが描いた36歳の頃のユトリロ肖像画.jpg

ヴァラドンが描いた36歳の頃のユトリロ肖像。1924年 油彩

ミュシャ そういえばわたち、この「コタン小路」に静かさと、寂しさを感じるけど、でもどこか暖かさも感じるのよね。画伯とお話しして、なんとなくその理由がわかった気がするわ。

中島 画家の人生を知ると作品の見え方がまた少し変わってくるよね。僕もミュシャさんの視点を通して自分が偏った思い込みだけで作品を見ていたかも知れないと気付かされたよ。ありがとうね。

さて、次回は旅は一回お休みして、おうちでお休みしながらミュシャさんの自己紹介を改めてしてもらおうかな。

ミュシャ あら、それならわたちのおもちゃコレクションをお見せちようかしら。

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長旅の後のお昼寝は格別。

中島健太

1984年生まれ。画家として情報番組コメンテーターやドラマの美術監修など多方面に活躍。今まで描いた作品1000点以上が完売している事から「完売画家」と呼ばれる。 全国で個展を開催。YouTubeでライブペインティング「旅するミュシャ」を放送中。ミュシャにはちょろい同居人と思われている模様。著書『完売画家』(2021年、CCCメディアハウス刊)が全国書店で発売中。現在はTOKYO MX「バラいろダンディ」の火曜コメンテーター(隔週)としても活躍中。
YouTube: 画家 中島健太
Instagram: @painterkenta
Twitter: @oilpainternk

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