旅するミュシャ #4 おうちでおやすみ

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中島健太『旅するミュシャ-おうちでおやすみ-』2021年 油彩

 ミュシャさん、長旅お疲れ様でした。ルノワール、ユトリロの作品を巡ってきたけど、どうだったかな?

ミュシャ それぞれ個性があって楽ちかったわ。絵の見方って、描いた人の人生と一緒に見るととても面白いわね。絵を見て感じて、それから絵を描いた人を見て、またそれから絵を見ると、わたちがなんでその絵に惹かれたのか、ヒントがあったりするのよね。

 さすがミュシャさん。ところで、ミュシャさんの名前の由来って話したことあったかな?

ミュシャ あら、そういえば聞いたことないわね。

 ならいい機会だね。ミュシャの名前は、20世紀前半に活躍した偉大な芸術家「アルフォンス・ミュシャ」からとっているんだよ。

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アルフォンス・ミュシャ『ジスモンダ』1894年 リトグラフ リバティミュージアム(イタリア)所蔵

ミュシャ あたち、この絵見たことあるわ。

 それはよかった! この作品はミュシャの出世作。1894年当時の「ジスモンダ」という舞台のポスターなんだけど、130年近く経っていまだにそれが人々から愛されるって本当に凄いことだよね。耽美的な作品を描かせたら右に出る作家はいないと言っていいミュシャ、僕はミュシャさんが初めてうちに来たときに「なんて綺麗な猫なんだろう」と感動して、その時にふと「ミュシャ」という名前が浮かんだんだ。

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ミュシャ なんだか恥ずかちいわね。でも光栄だわ。画伯はミュシャが好きなのね。

 本当に尊敬すべき芸術家だね。出世作が演劇のポスターなことからもわかるように、ミュシャは当時はイラストレーターとして知られてたんだけど、時代と共にその評価は偉大な芸術家として定着してきたというのが面白いよね。「富嶽三十六景」で有名な葛飾北斎なんかも、当時はイラストレーターだけどいまでは世界で最も有名な日本人芸術家のひとり。歴史に名を残す芸術家というのはジャンルというよりはやはり世間に与えた影響の大きさこそ重要なんだよね。

ミュシャ 画伯もいつかたくさんの人に影響を与えられる芸術家になれるといいわね。あたちも時々は応援してあげるわね。

 ありがとう(笑) 僕がミュシャを好きな理由は他にもあって、ミュシャは本当に苦労人なんだよね。34歳で出世作を描いて世に知られるまでには、いろんな挫折も経験してるんだ。彼は音楽の才能もあって一時期はプロを目指していたんだけど、経済的、肉体的理由で途中で挫折してるんだよね。そして画家を目指すんだけど、才能こそ評価してくれる人間はいたけど「ジスモンダ」を描く34歳になるまでは経済的にもかなり苦しかったようなんだよね。それでも描くことを辞めなかった芯の強さと、それでいて作品は全く押し付けがましくない耽美さに溢れているギャップも凄い!

ジスモンダが描かれたきっかけもとっても面白くって、当時ミュシャがイラストレーターとして働いていた印刷所に1894年の暮れ12月26日に、急遽再演が決まったジスモンダのポスター依頼が舞い込んだんだ。主演女優は当時のスター、サラ・ベルナール。だけど印刷所はすでに冬休み体制で、唯一働きに来ていたのがミュシャ。だから彼が依頼を請け負ったんだって。

ミュシャ 運も実力のうちよ!

 僕もそう思うよ。働きながら夜はデッサンの教室にも通っていたミュシャに、神様が少し遅めのクリスマスプレゼントをしたのかもね。納期が1月1日という超突貫な依頼のポスターを見事仕上げられたのもそれまでの積み重ねがあったからこそ。チャンスが舞い込んだ時に、そこで結果を出せるミュシャ。努力が運も呼びこんだんだね、きっと。

ミュシャ 画伯も継続は力なりよ!

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 ありがとう笑 それで話はミュシャさんに戻って、今回の作品はミュシャさんがおうちでお気に入りのおもちゃとコロコロしているところを描いているのだけど、このピンクのおもちゃっていったいなんだっけ?

ミュシャ あら、じゃあせっかくだからわたちのおもちゃコレクションを紹介するわね。えっと、これがわたちの一番好きな、きのこ、にんにく、たまご……。

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「いちばんのお気に入りはニンニクかちら。でもキノコも捨てがたい……」

 IKEAで買った野菜の詰め合わせをこんなに気に入ってくれているとは…笑

ミュシャ それから画伯がよく放ったらかしにしているペットボトルの蓋と、これもなにかの蓋かちら?アヒルさんたちは噛むと音が出るのよね。ぴーって。

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「おもちゃを選ぶ時にいちばん大事なのは、わたちの心に響くかどうかね」

 なるほどなるほど、それで、あのピンクの棒は結局なんだろうか?

ミュシャ わたちも何かは知らないけど、たまに噛むととっても噛み心地がいいから気に入ってるのよね。

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赤い棒はどうやらアイスキャンディを作る道具のよう。いつの間にミュシャのおもちゃになったのだろう……。

 謎は解けず、か。。。

ミュシャ 解けない謎があるのも名画の条件のひとつじゃないかちら?わたち旅の後のおうちってリラックス出来て好きよ。ところで画伯、この次はどこに連れてってくれるのかちら?

 あ、次はね、僕が尊敬する画家「モネ」の世界を旅するよ。
生涯を自身の作風を確立するために捧げた画家。彼ほどに人生を絵を描くことに「捧げた」と言える人もそうはいない。大好きな画家だから、楽しみにしていてね!

ミュシャ 画伯は好きな画家がたくさんいて幸せそうね。

【連載】旅するミュシャのバックナンバーはこちら

中島健太

1984年生まれ。画家として情報番組コメンテーターやドラマの美術監修など多方面に活躍。今まで描いた作品1000点以上が完売している事から「完売画家」と呼ばれる。 全国で個展を開催。YouTubeでライブペインティング「旅するミュシャ」を放送中。ミュシャにはちょろい同居人と思われている模様。著書『完売画家』(2021年、CCCメディアハウス刊)が全国書店で発売中。現在はTOKYO MX「バラいろダンディ」の火曜コメンテーター(隔週)としても活躍中。
YouTube: 画家 中島健太
Instagram: @painterkenta
Twitter: @oilpainternk

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