旅するミュシャ#7 セザンヌはなぜ「近代絵画の父」なの?

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中島健太『旅するミュシャ-りんご籠がある静物-』2021年 油彩

中島 ミュシャさん、こんにちは、すっかり寒くなってきて、やっとモコモコ具合がちょうど良くなってきたかな?

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「隙間という隙間があたちの隠れ場所」

ミュシャ そうねぇ。ところで、画伯が冬になるとあたちに「太った?」って言うあれ、冬毛になるとボリュームが増すからだけど、あれそもそも立派なハラスメントだと思うわ。

中島 う、すみません……。20年も引きこもって画家を続けていると、どんどん世間と自分がズレていくのを感じるよ……反省。さて、今月はそんな世間とズレまくっていた画家の代表、「セザンヌ」を紹介させて頂こうかと。

ミュシャ 酷い紹介のされ方ね……。セザンヌはどこがそんなに世間とズレていたの?

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ポール・セザンヌ『りんご籠のある静物』1895年 油彩 シカゴ美術館附属美術大学蔵

中島 ミュシャさんは今回の『りんご籠がある静物』を見てどんなことを感じるかな?

ミュシャ そうねぇ、わたち、この作品なんだかあまり上手じゃない気がするの。なんだか形が不安定じゃないかちら?

中島 うん、普通そう見えるよね。でもセザンヌは「近代絵画の父」なんて呼ばれ方をするぐらい、芸術史においては重要な人で、高い作品になると300億円するものもあるんだよ!

ミュシャ にゃにゃにゃ⁈ いまのところ、全然その価値がわからないわ……。

中島 セザンヌ以前の画家の作品、いわゆるアカデミックな技法を学んでいる僕の技法と比べてみよう。

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中島健太『a present-tea party』2021年 油彩

ミュシャ こうやってみると画伯の作品、なかなか上手ね。ちゃんとモチーフが整然と並んで見えるわ。

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中島 そう、まさに注目すべきポイントはそこ。セザンヌの描く作品は、どこからモチーフを見ているのかわからないような描き方だよね? つまり、セザンヌが描いているのは、モチーフ自体ではなく、いろんな角度からモチーフを見た、「動く自分の視点」を描いているからこんな風になるんだ。

ミュシャ にゃるほど。でも、それの何が凄いのかちら?

中島 セザンヌ以前の西洋絵画は、描く時は決められた視点からのみ描きましょう、という厳格なルールがあったんだ。
これを「透視図法」というのだけど、たとえばダヴィンチの「最後の晩餐」は厳格に透視図法に沿って描かれているんだよ。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』テンペラ画 1495~1498年 サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院

ミュシャ セザンヌはそのルールを破っちゃった、という事なのね?

中島 その通り! ダヴィンチも守った数百年続く、西洋絵画の絶対ルール「透視図法」。それをまったく無視した作品がこの『りんご籠のある静物』なんだ。

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「タイムマシンがなくたって、時空は越えられるわね」

ミュシャ なんだか凄い気がしてきたわ。でも、画伯の話を聞く限りだと、凄さはわかったけど、どこが世間とズレているのかちら?

中島 セザンヌは「近代絵画の父」として知られる一方で、ものすごく偏屈な人間だったとしても知られているんだ(笑)

ミュシャ 画家あるあるだわ…。

中島 まったくです…。モデルに言い放った言葉としていまに伝わっているのが、「りんごを見習って、ピクリとも動くな!」と怒鳴ったとか、一日中ポーズをさせたモデルに対して「シャツのしわの部分は、なかなか上手くかけた」とか、なかなか酷いことを平気で言い放ってたそう。その上ものすごく疑り深かったそうで、友達らしい友達もいなく、街の中でも嫌われ者で、子どもたちから石投げられてた、とか…。

ミュシャ 思ってた以上にこじらせているわね…。

中島 ね……。でも最近風に言えば「親ガチャ」ではあたりをひいてたようで、大実業家のお父さんのおかげで、生涯お金には困らなかったんだって。

ミュシャ 画伯の嫌いなタイプね笑

中島 ドキ!(笑) ……実際、今回作品を描いてみるまで、セザンヌの事はどちらかと言えば嫌いだったんだけど、でも描いてみて印象が随分と変わったよ。

ミュシャ どんな風に?

中島 描いている時、彼の「絵に対して」の圧倒的な誠実さを感じたんだ。あまりにも丁寧にモチーフを見つめ、それを描ききろうとしすぎたがために辿りついたのが、「透視図法」で描くこと、ではなく、自分が見つめたさまざまな視点をキャンバス上で再構成しようとする試みだったんだなって。そのあまりにも強い制作への情熱が空回りして、時に人と衝突したりしてしまったのかな、とね。

ミュシャ 画伯は描く事で昔の画家さんたちと、お友達になるのね。わたちも勉強になったわ。

中島 今回もお付き合い頂き有難うございましまた。 次回はフォーヴィスムの巨匠、アンリ・マティスのお話だよ。

ミュシャ たのちみね。

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中島健太の初著書『完売画家』、全国書店にて大絶賛発売中。画家として生計を立てるためには? 日本のアート市場はどのようなプロセスで動いているのか? アートは世の中になぜ必要なのか? これまでに描いた700点の作品すべてを完売した画家が、経験と冷静な分析で語り尽くします。
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【連載】旅するミュシャのバックナンバーはこちら

中島健太

1984年生まれ。画家として情報番組コメンテーターやドラマの美術監修など多方面に活躍。今まで描いた作品1000点以上が完売している事から「完売画家」と呼ばれる。 全国で個展を開催。YouTubeでライブペインティング「旅するミュシャ」を放送中。ミュシャにはちょろい同居人と思われている模様。著書『完売画家』(2021年、CCCメディアハウス刊)が全国書店で発売中。現在はTOKYO MX「バラいろダンディ」の火曜コメンテーター(隔週)としても活躍中。
YouTube: 画家 中島健太
Instagram: @painterkenta
Twitter: @oilpainternk

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