ベネズエラ出身の名シェフが魅せる「カカオ in 香港」
カカオと香港-なかなか結びつかないこの組み合わせですよね!
「世界のベストレストラン50」で1位に輝いたフランス「ミラズール」出身でベネズエラ人シェフ、リカルド・チェネトンさんと言えば香港の有名シェフ。
私はたまたま、彼が2016年頃に香港に来た直後、最初にインタビューしたジャーナリストだったという縁がありまして、繊細な彼の料理の大ファン。「真空調理器などでの料理を最初に学び、その後、火を使った伝統的な調理を学んで、自分にはこれだと直感した」という逸話をそのとき語ってくれて、新世代のシェフならではだと新鮮に感じたのをよく覚えています。
さてさて、彼が昨年オープンした「MONO」は、南米、ヨーロッパ、アジアを経験している彼ならではの味をフレンチスタイルで出す人気店なのです。
今年に入って、世界中の飲食店と同じく、香港のレストランもコロナ禍での難局を経験。そしてコロナでの生活や仕事の変化で、改めて自分のアイデンティティーや信条を見つめ直そうという気持ちに多くの人がなったはず。
リカルドさんにとっては、元気をなくしていた香港の飲食業界に斬新で前向きな話題を届けつつ、南米出身のシェフならではの役割も果たしたいという気持ちが強まったのだそう。
「カカオと言えば、南米を象徴するフルーツで、チョコレートは世界中で愛されているけれども、カカオ自体についてはほとんど知られていない。自分にしかできないこと、自分がするべきことを考えたとき、カカオの素晴らしさ、奥深さを伝えてみたいと考えたんだ」
先日、そんなリカルドさんのカカオ愛を披露するワークショップに参加してきました。
そういえば、こんなにしみじみ、しっかりとカカオの実を観察したことは今までありませんでした。
ここでリカルドさんが挑戦したのは、カカオの実本体を輸入して、すべての工程を自分たちの手で行って、カカオのあらゆる部分を生かして作ったさまざまな味をゲストに楽しんでもらうこと。
実は有名なチョコレートメーカーであっても、下処理済みのカカオを入手するのがほとんどなので、すべての工程を経験したことがなかったりするのだとか。
そんなわけで、この日はカカオのすべて!!!をたっぷり見せてもらいました。
まず驚いたのは、カカオの殻をむくと、中にカカオパルプと呼ばれる白い果肉があって、その中にカカオ豆が入っているということ。このパルプが、タイ名物のマンゴスチンのような味と食感なんです。
パルプをバナナの皮などでくるんで7~10日置くことで中の豆を発酵させ、豆を乾かして炒って砕いて、いわゆる「カカオニブ」の状態にしてから、カカオバターや砂糖と混ぜてチョコレートを作ります。
MONOではこの自家製チョコレートをカカオの状態から作りつつ、たとえば発酵中に滲み出したジュースを使って、かすかに酸味のあるシャーベットを作ったり。
殻をシナモンや八角、水と一緒に発酵させてかすかに発泡したカカオ・チーチャという南米風ドリンクを作ったり。
そんなカカオのあらゆる部分を使いこなした美味で珍しいデザートやドリンクが、さらりとメニューに含まれているのです。
こちらがカカオからすべて自家製で作ったチョコレート、前述のシャーベットを使ったデザートにカカオニブやトンカビーンズなどもあしらったデザートと、アルコール度3%前後に仕上がったチーチャ。
こちらは危険なほど美味な自家製サワードウと、自家製チョコレート+ナスにチリパウダーも潜ませた極上のペースト「MOLE」。
貴重な食材を徹底的に生かすべく、実験を繰り返して、手間ひまかけて作り上げた料理を、シェフの思いやストーリーを聞き、知らない風土や風景を脳裏に描きながら、一口ずつ味わい尽くす―コロナですっかり薄れていた、ファインダイニングならではの知的好奇心と味覚の両方が刺激される面白さや美味しさを、カカオ体験を通じて思い出させてもらいました。
チョコレートは、この専用機器を使って3日3晩練り上げます。
そしてお土産にいただいたカカオ! ちょうど髪に赤いメッシュを入れたので親近感を覚えました、笑。
家で何日かしてから、パルプに入った豆ごとヨーグルトにどっさりいれていただきました。カカオニブが少し苦いのですけど、パルプが優しい甘さで、ざくざくと食べてしまいました。
何だかその日は、目も頭もすっきりして、ものすごい抗酸化作用が体内で起きていたような。これは超絶に贅沢なスーパーフードだった気がします。
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