England's Dreaming

イギリスの動物保護団体から猫を引き取った話。

「不思議。あなたが?」。古い友人はそう言った。私が猫を飼うと伝えたら。

確かにペットと暮らすイメージがないのは自覚している。でも、いつか飼いたいとは実はずっと考えていた。

その時がきたら保護団体にいる動物を、里親として譲り受けようと密かに決めていた。何かの事情で「家なし」になった生き物を、世話を出来る人が引き受けるという考え方に好感を持っていたし、家のそばにある保護団体の敷地内で開かれるフリーマーケットに行くついでに動物たちを見学させてもらったりして、なんとなく心の準備を進めていた。

イギリス人は動物好きなので、彼らを守るための団体がものすごくたくさんある。大きなところは野性動物の保護や救出から、飼い主を失った生き物ーペットだけでなく、馬や豚、ニワトリなどの家畜までのーの譲渡先探しまで多角的に活動している。もちろん犬や猫などに特化した保護団体もある。

里親になりたいのならば、本来はそれらの施設に出向いて直接見学するのだろうけれども、ロックダウンで今は不可能。各団体は対象となる動物たちの写真や情報をサイトに載せているので、そこに明記されている条件と自分の希望や住環境を照らし合わせてマッチしていれば候補者として名乗りをあげるというシステムが現在は多い。

今の暮らしに合わせて引き取るのは猫にしようと決めた私は、ロンドンで最も有名な犬と猫の保護団体のバタシー・ドッグス&キャッツ・ホームRSPCA(英国王立動物虐待防止団体)キャット・プロテクション、そして前記の地元の保護団体のサイトを毎日チェックするようになった。

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結果、RSPCAから譲り受けることに。感染症を調べる血液検査や去勢手術は終えており、猫を受け取った日には各種パンフレットとともに施設に入ってからの予防注射歴の表も頂いた。譲渡の際に寄付として求められたのは100ポンド(約1万5000円)。保護施設内での医療費や食住費用、お世話する人々の人件費を考えると良心的な額だと思う。

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受け入れ可能と見なされる家の条件は各猫ごとに違う。猫の性格やこれまでの暮らしぶりを参考に「家庭内に小さな子供がいないこと」「高校生以上の子供ならばOK」(場合によっては8歳以下不可、16歳以上は可など、具体的に年齢も示してある)、「猫を飼った経験があること」、「別の飼い猫が家にいること」、逆に「他の猫がいないこと」、なかには「触れられるのが嫌いなので、それを容認できること」なんてものもあった。譲渡前に行われる、里親の住環境を再チェックする「家庭訪問」は、現在はヴァーチャルで対応している。

野性的で人との暮らしを好まないとされた猫には「ファーム・キャット」として、農家の納屋内に寝床をもらい食事の提供を受けながら「ねずみ駆除主任」として「働く」道を探してあげている。

100匹いれば100種ある猫たちの多様な性格の表現も微笑ましい。「シャイ(shy)」「堂々としている(confident)」「自立心がある(indipendent)」など人間への形容と変わらない。

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猫のために最初に購入したのは、漫画に登場しそうな「cat」の文字が書かれた餌入れ。ベイキングの際に材料を混ぜるための大きなボウルのメーカーとして知られる老舗メイソンキャッシュのもの。

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飼い主に猫の「外出許可」を問う場合も多い。日本では感染症の心配などから家飼いすることが推奨されていると聞くけれども、イギリスには「猫には本来、外で過ごす時間が必要」という考えがあるようで、健康であれば予防接種やノミ対策などをしっかりとして外に出して欲しいとする保護団体が大半と感じた。

そのために里親の家は「庭があること」、「キャットフラップがあること」、交通事故を避ける為に「大通りから離れている場所にあること」が条件となっている場合も。一方、感染症を患っている猫は家のなかだけで飼うようにとされていた。

というわけで、なかなか条件が厳しいこともあって我が家に迎えられる猫はすぐには見つからず。希望を出しても選ばれないこと数回。里親が猫を選ぶというよりも、猫(もしくは保護団体)が飼い手を厳選しているというのが実感だった。

そして3月中旬。ようやくやってきたのが、この方。

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もうすぐ2歳になる白黒のオス。春にやってきたから名前は「はる」。ロックダウンが続き在宅時間が増えたイギリス人の間では、いま空前のペットブーム。スーパーで売り切れが続いていたのは昨年はトイレットペーパーだったけれども、今は犬猫用のペットフードという事態が発生中。

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昨年末に元の飼い主が亡くなり保護施設に預けられたという。そんな過去から人の暮らしに順応しやすく、初心者の我が家でも大丈夫と思ってもらえたのかも。

イギリスでは日本のように飼い猫や犬にケージを用意するのはたぶん一般的ではない(友人宅や取材で訪れた家で猫や犬用のケージを備えた家を私はこれまで見たことがない)。そのため現在我が家ではタンスの影やベッドの下にひそんだ「はる」を探すことから1日が始まる。早く隠れなくてもいいように、慣れてくれてくれるといいんだけれども。

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夜には少しリラックスするらしくて、こんな姿も。でも朝にはまた物陰でひっそりとしている恥ずかしがり屋。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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