イギリスの庭、バラの苗を植える秋に向けて。
8月半ばともなるとイギリスは、秋の気配があちこちに漂う。暑いと感じるほどに気温が上がることがほとんどなかった今年は特に、それが早かったように思う。
そんないま、考え始めるのは秋蒔きのタネや球根、そしてこれから植えるバラの苗のこと。
11月から3月に売られるバラの苗は、枝が短く剪定されていて、地面から掘り起こした根がそのままのベアルーツという状態だったりする。寒い季節なので、これだと苗はいわば眠っているような状態なので輸送の際に扱いやすいのだそう。値段も、鉢に入れて売られているものよりもちょっとだけ安くなるので手が出しやすい。
多くの品種を揃えている園芸店のサイトを覗くと、11月発送分の苗の予約がスタートしていた。
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とはいえ私は、日本にもイギリスにもたくさんいる熱心なバラ愛好者の方々の足元にも及ばない、超がつく初心者。でも少しづつ学びながら、バラを庭に増やしていきたいと考えている。
イギリスのバラといえば、有名なバラ育種家デヴィッド・オースティンが作り出した「イングリッシュ・ローズ」を思い起こす人も多いだろう。
それらのバラは、微妙な色合いがとても美しく、咲く姿も優雅なうえに、一年中何度も返り咲く、育て甲斐のある品種が多い。私もガーデンセンターで見かけると、うっとりと眺めている。
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でもここ数年、私が選ぶのはオールドローズ。
オールドローズとは、その名の通り古くからあるバラのこと。厳密には初めてのハイブリッド種「ラ・フランス」が登場した1867年以前のバラがオールドローズとされているのだが、学術的な定義ではないので、それ以降の20世紀初頭のものまで含んでいることもある。私もそれを基準に考えている。
オールドローズに惹かれるのは、たぶん10代の頃の経験からなのだろうと思う。当時の私は、古い西洋画に描かれたバラの花がバラに見えず。たくさんの花びらがキャベツのように重なって丸く咲くその姿は、その頃の日本のお花屋さんに並ぶ一輪咲きで花びらの先端が尖った赤やピンク、黄色のものと、とても同じとは思えなかったからだ。
昔はこんなバラが存在していたのかな?それとも空想のバラなのかな?そんな疑問を頭の片隅にずっと抱えたままでいた私は、その後ヨーロッパを旅して、それらが本当に存在しているんだと知った時には大げさながらも少なからず感動し、いつか自分で育てられたらいいなと考えていた。
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いま、我が家の庭にあるオールドローズは4種。
「ジャック・カルティエ」。端正なロゼット咲きで、ラファエル前派の絵に登場しそうな佇まいが魅力。つぼみから満開、そして散るまでのどの瞬間も際立って美しく、咲いている間は毎日庭に出て観察をしている。返り咲きする種類なのだけれども、私の庭ではまだ初夏にしかつぼみをつけることがないのが残念。
「マダム・アルフレッド・キャリエール」。玄関脇の北側の外壁に這わせる、ツルバラとして選んだもの。日当たりが少なくても、とにかく元気に枝を伸ばすと聞いていた通り、ちょっと遅めの今年の春に植えたものの、ぐんぐんと成長。でもこの春に咲いた花は花びら少なめの小さな一輪だけ。今後に期待。
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「ウィリアム・ロブ」。茎や蕾が細かな毛に覆われていて苔むしているように見えるモス(苔)と呼ばれる品種。マゼンダピンクの花弁は、散る間際にはグレーがかった紫に変わっていく。その様子がとてもドラマティック。
もうひとつは「スブニール・ドゥ・ラ・マルメゾン」。今年の春の終わりに近くの園芸店で見つけて小さな苗で買ったため、残念ながら今年は咲かず。繊細な花びらでオールドローズのイメージそのままの優雅なカップ咲きというので、とても楽しみにしているのだけれども。名前はナポレオン妃ジョゼフィーヌのお屋敷の名「マルメゾン」から。このバラは「世界の図」という素敵な日本名も持っている。
この秋は、まずは玄関脇の「マダム・アルフレッド・キャリエール」の隣に、真紅の「スブニール・ドゥ・ドクタージャメイン」を植えたいと思っている。そして庭には、優しい黄色の「セリーヌ・フォレスティエ」か、白地に深いピンクの絞りが入った「オノリーヌ・ド・ブラバン」か。もしくは一重のバラでクリーム色からクリムゾンレッドのグラデーションが魅力の「ムタビリス」もいいなあ。
園芸店のサイトを眺めては悩み、いまだに決められずにいる。
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