
ロンドンコレで受け取った、高揚感の意味。
夢、未来、自由、異国への旅、命。次の時代への願いを込めたキーワードがあちこちに散りばめられて、きらきらと輝いている。9月17日から21日まで開催されたロンドンファッションウィークは、そんなコレクションが並んでいたと思う。
レジーナ・ピョウがショー会場に選んだのは、2012年のロンドン五輪の際に作られたオリンピックプール。細い通路を抜けたあと、なみなみと水を湛えて煌めく大きなプールが目の前に現れた時、ファッションウィーク特有のわくわくが胸いっぱいに広がった。実際にショーを見るのは1年半ぶりだ。
フューシャピンクのシルクシフォンやアシッドグリーンのレースのカラフルな服は、プールサイドということも手伝って、夏のバカンスを連想させる。NYやソウルでレジーナ自身がかつて撮影したという風景写真をプリントした服からは、都会の喧騒が聞こえてくるようだ。
フィナーレではモデルたちは飛び込み台の上に。イギリスの飛び込み選手たちがその技を披露した瞬間も。彼女たちが来ているスイムウェアももちろんレジーナのデザイン。リサイクルナイロンを使用しているという。
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モリー・ゴダードのショーはデジタルで鑑賞。このコレクションのデザインをスタートした時、モリーは妊娠8ヶ月。これから産まれてくる赤ちゃんはどんな服を着るのだろうと想像するのと同時に、自らが子供の時に来ていた服を思い起こすことから始めたという。その工程は子供時代の幸せな記憶と、これから産まれてくる子供と過ごす時間への嬉しい予感で満たされていたそうだ。
モリーのシグネチャーでもあるギャザーいっぱいのスモックと合わせたデニム、ローケージニットのカーディガンは、めちゃくちゃ琴線に触れた。
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「娘たち」、「夢遊病」、「母」、「苦しみ」、「乳歯」、「睡眠不足」。シモーン・ロシャのコレクションノートには、いつものようにちょっと不思議な言葉が並ぶ。それらの言葉からシモーンのいまの心情を想像するしか私には出来ないのだけれども、子どもの母としての肉体的精神的な限界と辛さと同時に、抜けた乳歯を通して感じる、小さな身体の成長を通して感じる喜びや神秘、不思議さを考えた。
目の前を実際に通り過ぎていく服は、切ないほどに美しく、はかなげで力強く、夢のようであり現実でもあり。
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今年になってからデザイナーにインタビューする機会があるごとに私は「世界がいま大きく変わるなかで、ファッションはそれにどう応えていくべきと思いますか?」という質問を繰り返し聞いてきた。仕事というだけではなく、私自身が知りたかったから。答えは一様に「ブランドが発信するメッセージをより明確に打ち出す」というものだった。それはダイバーシティを意識しエシカルであるべきという、今とても重要視されていることへの共感、回答でもあったと感じている。
でも今回、私が受け止めたものはもっともっとベーシックなことだった。それはファッションが与えてくれる高揚感。気持ちが高まることで、希望が持てる。希望は夢に直結していて、心の中に灯りをともしてくれる。その明るさは自分だけではなく周辺も照らし、そこに広がる美しさを再認識させてくれる。人も物も環境も、そのすべてが大切でかけがえがなく、慈しみ守られるべきものであることを教えてくれる。
ファッションは、いまこそ必要なことなのではと痛感した。
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