England's Dreaming

衆院選の投票で、ロンドンの日本大使館へ。

衆議院選挙の投票に行った。

選挙権は「よりよい社会づくりに参加できるように定められた、大切な国民の権利」(総務省ホームページより)。私のような海外に住む日本人にも、もちろん与えられている。でも国内での投票に比べ、ちょっと煩雑な手続きが必要だ。在外選挙人名簿に登録申請をして、海外での投票に必要な「在外選挙人証」を得なくてはならない。

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「在外選挙人証」の裏面。投票に行くと、こうしてスタンプが押される。私のは過去に選挙区の変更があったために作り直して、すでに2枚目。海外では日本の投票日の約1週間前に行われる。今回イギリスでは10月20日〜24日が投票期間だった。

そのためにはまず、日本で最後に住民登録をしていた市区町村の役所に(日本に一度も住んだことがない場合は本籍地の役所)に海外への転出届を提出し、暮らす国の大使館や領事館で在外選挙人名簿登録の申請をする。そうしてようやく、かつて日本での住所があった市区町村の選挙管理委員会から「在外選挙人証」を大使館経由もしくは郵送で得ることができる。英国大使館のサイトによると、申請から交付までかかる日数は約3カ月。だから選挙の具体的な日にちが発表されるかなり前から準備をしておく必要がある。

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私が暮らす町からロンドンまでは列車で約1時間。到着するヴィクトリア駅から大使館まではいつも、バッキンガム宮殿の前を通りグリーンパークを横切って歩いて向かう。

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宮殿の前は、パンデミックの現在も観光客でいっぱい。

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落葉が始まり、秋から冬の情景となっているグリーンパーク。

公園内の木々を眺めがら、あるいはベンチに座って、どの候補者や政党に入れるかをもう一度考えたり、スマホで検索したりする。

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この日はこのふたつがセット。いつも一緒にしまっておけばいいものの、つい別々に片付けてしまって、毎回青くなりながら在外選挙人証を探すはめになる。

大使館での投票手順も日本とは少し違う。まずは「在外選挙人証」以外に身分証明としてパスポートの提示が求められる。

投票も投票箱に入れるのではなく、二重封筒に入れて提出する。それを受け取った係員は、それぞれの地区の選挙管理委員会宛の封筒(住所は前もって自分で書くようになっている)に入れて、背後の小さな金庫にうやうやしく(?)しまう。

これで完了なんだけれども、この金庫のなかに集まったたくさんの在英日本人の投票用紙は、どのように日本に運ばれるのか聞いてみたら、大使館の職員が飛行機に乗って直接日本まで運ぶそう。いまイギリスから日本に帰省した場合、最低でも10日間の隔離が義務付けられている。職員も例外ではなく隔離は免れられないそうなのだが、投票用紙は別の方が引き継いで各選挙管理委員会に郵送されるという。

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外務省のホームページによると、日本国外に住む日本人の投票方法は3つある。

ひとつ目は日本に帰国しての投票、ふたつ目は私のように大使館や領事館での投票、もうひとつが郵送による投票だ。

海外に暮らしていて投票の時期に帰省していることはあまりないと思うので、ほとんどの人は大使館・領事館か、郵送を利用していると思う。

イギリスの場合、大使館があるのはロンドン、領事館はスコットランドの首都エディンバラだけ。これらの都市に住んでいても徒歩でそこまで行ける人はたぶんひと握りだろう。多くの場合、それぞれが交通機関利用で出向く。SNSをのぞいてみると、ほかの地域から長距離バスや列車を使って何時間もかけてロンドンまで投票に来る人もたくさんいた。アメリカやカナダなどでは飛行機使用という人も見かけた。交通費はもちろん、それぞれの負担だ。

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大通りピカデリーを挟んで、グリーンパークの向かいにある日本大使館は威厳ある建物。ちなみに海外から投票できるのは、衆・参議院選挙で、地方選挙にはできない。裁判官の国民審査もない。

今回は郵送での投票を不安視する声も聞く。公示から投票までの期間があまりにも短くて、投票用紙を取り寄せて、その後すぐに送り返しても投票日までに日本に到着しないかもしれないからだ。パンデミックで郵送にこれまで以上に時間がかかるというのも、この問題に拍車をかけている。高額だが、数日で届くクーリエ会社を使って送る人もいると聞く。それも個人が支払うことになる。

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そこまでして?と思うかもしれない。でも、私たち在外日本人は現在暮らしている場所での生活を通して、その国の良し悪しを痛いほど感じている。そんな経験と照らしあわせながら日本を外から見つめている分、色々と思うところがあるのだと思う。だから投票を通して、物言いたい。もちろん、すべてがぱっと変わることはないとは痛感している。それでも少しづつでもいいから「よりよい社会」になってほしいと心から願っている。

投票後はキングスロードにあるマーケットに、難民たちを支援するベーカリー、ブレッドウィナーズのパンを買いに行った。移民や難民、マイノリティの人たちに対する各党の政策は、今回私が投票先を選ぶ際に特に考慮した項目のひとつだった。それは私自身もイギリスでは移民だからにほかならない。

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ブレッドウィナーズの露店。サワードウ種を使い、丁寧に作られた美味しそうなパンが並ぶ。この日はホールミールと、ローズマリー&オリーブのパンを買った。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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