イギリスの早春。「パンケーキの日」とマーマレード。
イギリスには「パンケーキの日」がある。日本の月日の数字で語呂合わせした「〜の日」とはちょっと違って、キリスト教にまつわる伝統行事だ。
イエス・キリストが最後に十字架にかけられるまでの苦しみの日々を思い、彼が復活するイースター前日までの40日間(日曜日は除く)はレントと呼ばれる断食期間となっている。
レントに入る前日のシュローブ・チューズデーは、これまでの罪を悔い改め、断食の前にキッチンのパントリーにある卵や牛乳、砂糖などを使い切ってしまうためにパンケーキを焼く(断食を乗り切るべく滋養をつけるためという説も)。だからシュローブ・チューズデーは「パンケーキの日」とも呼ばれているのだ。
イースターとともに毎年その日付は変わり、今年は3月1日だった。
私はパンケーキを焼くのが好きで、いつもいっぺんに2、30枚は作ってしまう。「パンケーキの日」当日はおやつだけでなく夕食もパンケーキ。リコッタチーズとほうれん草、ハムを巻いてベシャメルソースをかけてオーブンで焼いた。
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イギリスのパンケーキは薄い。クレープよりも気持ち厚めで、フライパンいっぱいに広げて焼く。トッピングにはフルーツやクリーム、チョコレートスプレッドなどももちろん人気だけれども、昔からの定番はレモンを絞り砂糖を振ったもの。素朴で懐かしいような甘酸っぱさが美味しく、私はいつも「パンケーキの日」には迷わずこれを食べる。
お皿にふたつ折りで並べたけれども、イギリスではくるくると巻いてサーブすることも多い。
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パンケーキを食べた翌日からは断食……とはいかず(多くの人が私のようにパンケーキだけを食べて断食はしない。たぶん)。むしろそれとは程遠く、大量の砂糖と大量のセヴィルオレンジでマーマレードを作った。
果物そのまま煮て作るストロベリージャムとは違って、マーマレードは手間がかかる。大量のオレンジの皮を千切りしなくてはいけないから。
ただただ無心になって切りました。
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それが面倒でなかなか重い腰が上げられないのだけれども、なんとか自分を奮い立たせてこの季節に1年分を作るのは、材料となるセヴィルオレンジが出回るのがいまだけだから。苦味が効いたこのマーマレードが我が家はみな大好きなのだ。
空き瓶に詰めて完成!
手を動かして何か作る。心配なニュースが続いて不安に絡め取られてしまいそうな時には、私はそれがいちばん心が落ち着く。冬の間に終わらなかったアランニットのカーディガンも編まなくちゃだし、夏に向けて野菜の苗を植えるために庭掃除もしなくては。こんな時こそ、受動ではなく能動でありたいと思う。
翌日の朝食は、自分で焼いたサワードウブレッドのトーストに手作りのマーマレード。そして熱々のミルクティー。
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