England's Dreaming

パワーで満ちた、ロンドン花のエキシビション。

イギリスの5月と6月は花の季節。

長い冬ののちに少しづつ育っていた蕾がようやく開花し、あちこちの庭や公園は色とりどりの花で溢れる。この時期にはロンドンで各国のガーデナーたちが注目するチェルシーフラワーショーも開かれる。

テムズ南岸にあるガーデンミュージアムでも、毎年この時期にブリティッシュ・フラワーズ・ウィークが開催される。今年はその一環として「未来」をテーマに5組のフローリストたちがイギリスで栽培された季節の花々で作るインスタレーションを披露した。生花を使っているものが中心だったから、たった5日だけの展示ですでに終わってしまったのだけれども、とても素敵だった。

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Kate Wren Flowersは、主催者のKateが幼少時代を過ごしたジンバブエの自宅の庭をテーマに花の門を作成。元教会だったミュージアムの建物と相まって、童話のなかのワンシーンのようにロマンチックな仕上がりに。

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Wagner Kreuschは、5000年前の古代エジプト時代から人々は花瓶に花を飾っていたことに発想を得てインスタレーションを作り上げた。

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生花とドライフラワーの両方を巧みに使ったHarriet Parryの作品。

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アジアにルーツを持つFrida Kimは、そのエッセンスに取り入れて、竹で作った小屋の内外を愛らしい花で飾った。

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特に私の心に残ったのはマックイーンズ・フラワースクールによるもの。ここは日本を始め世界中からフラワーコーディネイトを学ぶ人たちが集まってくる有名な学校だ。

彼らが展示場所として選んだのは建物の中ではなく、ミュージアムのエントランス脇にある小さくてモダンな温室だった。


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実はガーデンミュージアムに行くたびに、私もこんな小さな温室が欲しいななんて夢見ていた。オレンジ色のフレームと中の花々の色のコーディネーションも綺麗。

このインスタレーションのインスピレーション源となっているのは、19世紀の医師ナサニエル・バグショー・ウォード博士だという。ウォード博士は医者であるとともに、若い頃から植物を愛するナチュラリストとして知られていた人だ。

彼は密閉されたガラス容器が昆虫や植物を保護し、育成を助けることに注目。その発見を元にして作られたガラスの箱はウォーディアン・ボックス(ウォードの箱)と名付けられ、産業革命真っ只中だった当時、汚染された空気の中で存続が危ぶまれた植物たちを守るために大いに活用したという。またイギリスの植民地から植物を船で運搬することにも大変役立ったことでも知られている。ウォード博士の発見が植物を守って未来につなげてくれた。それがなかったら、もうイギリスには存在しない品種もあったかもしれない。

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温室の中で守られて花咲く植物たち。

今回の展示でウォーディアン・ボックスに見立てた温室内には、フラワースクールの教師と生徒たちによる小さな鉢に植えた植物が並んでいた。見事なバラや香り高いユリじゃなくて野の花を思わせるものが中心だったことも印象的だった。これらの花はきっとずっと昔から、その可憐さで私たちを癒し続けてきたのだと思う。展示の最終日には、この鉢はエキシビションのビジターたちに配られたそう。

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植物とともにある時、私たちは未来を見つめている。たとえ意識していなくても。種を蒔いた時は発芽する未来を、植木に水をやりながら花が咲き実が成る未来を、ガーデニングに縁がない人だって、例えば春が近づいてくれば桜の花が開く未来に目を向けている。そして植物の美しさで溢れる穏やかで暖かな日を待ち望み、その時がくれば心ときめき花やグリーンにパワーをもらう。

イギリスの夏は短いからこそ、その瞬間がとても愛おしく、かけがえがなく、だから人々はガーデニングにいそしむのかもしれない。そんな生命力が感じられる日々が、少しでも長く続きますように。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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