England's Dreaming

夢みる場所を映し出す、二人の女性写真家の展覧会へ。

19世紀のイギリスで、48歳でフォトグラファーとしてのキャリアをスタートしたジュリア・マーガレット・キャメロン。13歳の時に撮影したセルフポートレイトで脚光を浴び、22歳での早逝まで1970〜80年代のアメリカとイタリアで写真を撮り続けたフランチェスカ・ウッドマン。

生きた年代もバックグラウンドも、暮らした場所もまったく違うふたりが手がけた写真を並べてみせる画期的なエキシビション『フレンチェスカ・ウッドマンとジュリア・マーガレット・キャメロン:肖像画からドリーム・インまで』を、ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーに観に行った。

副題にも使われている「ドリーム・イン」という言葉は、ウッドマンが残した「写真はそれを観る人達が、夢をみるための場所でもある」という文に由来しているという。

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右からジュリア・マーガレット・キャメロン「ザ・ドリーム(メアリー・ヒリアー)」(1869)、フランチェスカ・ウッドマン「無題」(1979)

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フレンチェスカ・ウッドマン「13歳のセルフポートレイト」(1972)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

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キャメロンは15年、ウッドマンはたった9年と、彼女たちが活動していた期間はとても短い。そのなかで創り出した作品はどれも、それぞれの世界観をぎゅっとつめこんでいて素敵だ。今回は特に、美しさとともに暗さや不安な気持ちも潜んでいるような奥深さを感じさせるウッドマンの作品に私は強く魅かれた。

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ジュアリア・マーガレット・キャメロン「悲しみ(エレン・テリー)」(1864)The J.Paul Getty Museum, Los Angeles

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フランチェスカ・ウッドマン「ポルカドット#5」(1976)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

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ナショナル・ポートレイト・ギャラリーというその名称からも分かる通り、この美術館は肖像画を専門としていて、今回のエキシビションも人物が映し出されているものばかりを展示している。そのなかでひときわ印象的だったのは、キャメロンとウッドマンそれぞれの「天使」を題材にした作品を集めた一角だった。

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キャメロンとウッドマンの「天使」たちが並ぶ。

ふたりが生きた時代の違いもあるのだろうけれども、キャメロンは幼い子供たちをモデルに使い、古い宗教画に描かれているような羽根を背負った天使を描く一方で、ウッドマンは成長した女性の裸像を天使に見立てて独自の解釈をしていた。ウッドマンの天使は夢と現実が交差したようなシュールさを合わせ持ちながらピュアではかなく、どこか痛々しい。

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ジュリア・マーガレット・キャメロン「私は待つ(レイチェル・ガーニー)」(1872)The J.Paul Getty Museum, Los Angeles

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フランチェスカ・ウッドマン「『天使』シリーズより、無題」(1977)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

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神話や文学などを基にした題材に取り組んで共にドリーミーな世界を創り出しながらも、キャメロンとウッドマンのそれぞれの個性が浮き彫りにされていたのが興味深かった。そのなかでウッドマンの表現がより私の心をとらえたのは、ポートレイトとして人の姿を映し出すだけではなく、アイデンティティともいえる彼女自身の内面を深く掘り下げて加味し、語りかけてくるようだったからだと思う。

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フランチェスカ・ウッドマン「あのドアの中にすむ人々」(1976−77)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

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フレンチェスカ・ウッドマン「カリアテッド・シリーズより、無題」(1980)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

ウッドマンの作品の多くは20x25センチととても小さい。それは「鑑賞するものと写真の間に親密な関係性を生み出すため」なのだそうだ。確かに小ぶりな額のなかにある小さな写真をそっと覗き込んでいると、私もその世界に取り込まれてしまうような不思議な錯覚に捕らわれた。

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フランチェスカ・ウッドマン「ハウス#3」(1976)Courtesy Woodman Family Foundation ©Woodman Family Foundation/DACS, London

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エキシビション鑑賞のあとに、同ギャラリーのフロア1(日本でいうところの2階)にあるルーム29の「リフレーミング・ウィメン・アンド・セルフポートレーチャー」と、ルーム31の「ニューヴィジョンズ・アンド・ヴォイシス:コンテンポラリーポートレイツ・バイ・ウィメン」にも立ち寄った。20〜21世紀の女性アーティストによる作品だけを並べる空間だ。

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ルーム29の「リフレーミング・ウィメン・アンド・セルフポートレーチャー」の展示風景より

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ルーム31の「ニューヴィジョンズ・アンド・ヴォイシス:コンテンポラリーポートレイツ・バイ・ウィメン」の展示風景より

キャメロンとウッドマン、そしてここにある女性アーティストたちによる作品は、作者が男性の場合とは少し違い、すべてが心のなかにすとんと落ちてくるように感じている。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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