England's Dreaming

イギリスのクリスマスの準備はケーキから。

近隣で開かれたアンティークマーケットに行ったら、あちこちでヴィンテージのクリスマスデコレーションが売られていた。それらを見て、ああ今年もすっかり出遅れた!と思いながらようやくクリスマスケーキを焼いた。え?もう?と思うかもしれない。でもイギリスのクリスマスケーキは数ヶ月前(中には一年前という人も)に作るのが一般的なのだ。

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アンティークマーケットで見かけた、古いクリスマスツリーのデコレーション。カラフルな色合いがなんとも可愛い。


フランスのブッシュ・ド・ノエルやドイツのシュトレンに比べると日本での知名度は圧倒的に低い、イギリスのクリスマスケーキはフルーツケーキ。きらびやかさのかけらもない無骨さとずっしりと重い感じがなんともこの国らしい。お菓子作りコンテストの人気TV 番組『ブリティッシュ・ベイクオフ』のサイトによると、このケーキが現在のスタイルになったのは16世紀という。そしていま、メアリー・ベリー、ジェイミー・オリバーら数々のセレブシェフのクリスマスケーキのレシピを見比べてみると若干の違いはあれども大差はない。それほどまでにこのケーキは長い月日を経ても変わらず定番化しているだろう。

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ケーキ作りはまず前日にレーズンなどのドライフルーツをブランデーに漬け込むことからスタートする。その量はおよそ1キロ!翌日にオレンジとレモンの皮を刻み、ナツメグやシナモンなどのスパイスの準備していると家中がクリスマスの香りに包まれる。小麦粉、砂糖、卵、バターと合わせて、しっかりブランデーを吸い込んだドライフルーツもミックスしてオーブンに入れ低温で4時間。時間はかかるけれども全て混ぜて焼くだけという超シンプルなのもまた、なんともこの国らしい。

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我が家で一番大きなボウル内の1キロのドライフルーツ。茶色の粒々ばかりでどう頑張ってもフォトジェニックには撮影不可能

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焼き上がって冷めた頃に上面のところどころに竹串で小さな穴を開け、4、5日ごとに2、3匙のブランデーを振りかける。イギリスではこれを「Feeding a Christmas cake」と呼ぶ。「クリスマスケーキにブランデーなどのお酒を飲ませる」という意味なんだけれども、なんだかお祝いシーズンらしくて私はこの表現がとても好きだ。

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4時間かけて焼き上がったケーキ。茶色の塊でどう頑張ってもフォトジェニックには撮影不可能


そしてこれを数日ごとに繰り返すことでクリスマスの頃にはうっとりとするような芳醇なケーキに仕上がる。12月25日直前には真っ白なアイシングで覆い、愛想のない茶色いケーキにちょっとだけおめかしさせる。

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アイシングで着飾ったケーキ。昨年のクリスマスより


材料のレーズンなどのドライフルーツやオレンジ、レモン、数々のスパイスは全て異国の産物で、このケーキのレシピができた16世紀の頃はどれもとても貴重な食材だったに違いない。それらをこれほどまでに贅沢に使ったケーキを焼くほど、この国ではクリスマスはとても大切な行事なのだと改めて思う。今では宗教的な意味は薄れて家族や友人が集う日とされているけれども。

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アンティーク・マーケットで陶器でできた小さくて古いクリスマスケーキ・デコレーションを買った。クラリネットみたいな楽器を微妙な面持ちで演奏するエルフ。今年は彼に真っ白なケーキに色を添えてもらうつもりだ。

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数年前から古いケーキ・デコレーションを探していたので手に入ってとてもうれしい

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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