
80sの英国サブカルチャーを体感するエキシビションへ。
1979年2月から1980年10月までのたった18ヶ月しか存続しなかったのにも関わらず、その後のイギリスのサブカルチャーに大きな影響を与えた伝説のクラブナイト、Blitz。
Blitzに集う若者たち。中央が主催者の一人、スティーブ・ストレンジ。
ラスティ・イーガンと、のちにバンド「ヴィサージ」を率いるスティーブ・ストレンジがマネージメントを手がけ、ロンドンのコヴェントガーデン、グレートクイーン通り4番地で火曜日の夜だけ開かれていたこのパーティは、当時最もクールでエッジィなクリエイティブピープルが集まる場として知られていた。スパンドゥー・バレエのメンバー、ボーイ・ジョージ、シャーデーなどのミュージシャンやスティーヴン・ジョーンズらデザイナー、ダギー・フィールドなどのアーティストも常連で、彼らはBlitz Kidsと称された。
現在ロンドンのデザイン・ミュージアムではBlitzが生まれた背景からファッションや音楽に与えた影響までを紹介するエキシビション「Blitz: 80年代を形づけたクラブ」が開かれている。
エキシビションのエントランスの写真からも当時の様子がダイレクトに伝わってくる。
70年代のイギリスは政治的にも経済的にも混沌とし、メインストリームに反発する若者たちによってパンクやソウルなどのさまざまなサブカルチャーが各地で誕生していた。彼らは自分達だけの表現手段としてのファッションや音楽を、独自の美意識を持って追求していく。
そして当時の英国民は大学授業料を免除されていたこともあり、イギリス各地のBlitz Kids予備軍たちは階級にかかわらずセント・マーチンズなどの美術大学に進学、可能性にあふれる街ロンドンに集結していった。彼らはしばしば無人で野放しになっていたスクワット(不法占拠住宅)に暮らし、既存のヒエラルキーに反発しながら新しい時代の文化を切り拓いていく。
当時の周辺地図。セント・マーチンズは2000年代までCharing Cross Road沿いにあって(現在は移転)、この前でよくファッションスナップをしていた思い出も。
このエキシビションでの見どころは、なんと言ってもそんなBlitz Kidsたちのスナップだろう。会場内で上映されていたビデオに登場していたBlitz Kidの女性は出かける準備に3時間かかると語り、そうして着飾った姿でBlitzを目指して駅構内を歩き、クラブ内でポーズを決める彼らからはみなぎるパワーが感じられる。さまざまな要素を巧みに組み合わせた創造性と大胆さ、たとえアナログで荒削りであっても個性を炸裂させたそのスタイルは圧巻で魅力に溢れている。
街行くBlitz Kidsたち。
80sファッションが可愛い! 真ん中の写真の右端は帽子デザイナーのスティーヴン・ジョーンズ。
Blitz Kidsたちのお手製パーティインビテーション。パンクのDIY精神が引き継がれているのが感じられる。
Blitzの前身、ボウイナイトのスナップ。パーティの名の由来となったデヴィッド・ボウイの姿も。
Blitzでのスナップ。隅々までじっくり見ちゃいました。
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後半ではBlitzからが生まれたカルチャーやBlitz Kidsたちの活躍を紹介する。当時創刊されたi-DやThe Faceの創刊号などのなかでも特に興味深いのはBlitzの常連だったデザイナーたちが作り上げた独創的な服の数々だ。ドーラ-ジェーン・ギルロイによるモノクロームのドレスはその筆頭だろう。ドーラ-ジェーンはこれを着用して、ストレンジと共にデヴィッド・ボウイの『アッシュス・トゥ・アッシュス』のMVに登場している。ボウイはBlitz Kidsたちの憧れだったが、そんな彼にまでインスピレーションを与えるほどの影響力を持った象徴的な姿と言える。
いまみてもクール! ドーラ-ジェーン・ギルロイがデザインしたドレス。
当時を象徴する雑誌i-Dの創刊号。
現在は大御所となった帽子デザイナー、スティーブン・ジョーンズの当時のファッション画や作品も展示されている。
ショーケースの中に並ぶスティーブン・ジョーンズが手がけた帽子。
スティーブン・ジョーンズのデザイン画。
一方で、このエキシビションを取り上げたガーディアン紙の記事ではキューレター、ダニエル・トム氏がプレビューで語ったこんな言葉を引用している。
「現在はまさに、80年代のクラブカルチャーを可能にした多くの要素が崩れつつある時代と言えるでしょう。店舗の家賃の高騰で多くのクラブはものすごい速さで閉店に追い込まれ、大学は再び経済的に豊かな人たちだけのものになってしまいました。古着探しも高度に専門化されたヴィンテージマーケットプレイスと化し、チャリティショップに入って掘り出し物を見つけることも過去のものとなりました」
「このエキシビションがクラブカルチャーの重要性へのラブコールであると同時に、警告になることを願っています」
サッチャー政権や当時高まっていた人種差別へのアンチテーゼとして生まれたBritz。再びそこはかとなく危うさが見え隠れするいまの時代に、またこんなカルチャーが誕生しないかな、してほしいなと切に願っている。
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