
女王崩御とロンドン・ファッション・ウィーク。
2023年春夏コレクションが発表される、9月のロンドン・ファッション・ウィーク。開催まで一週間と迫った8日に、何とエリザベス女王がお亡くなりになってしまった。
直後にショーをキャンセルしたブランドもあり、ファッションウィークそのものももしや中止?と心配されたけれども、最終的にはパーティなどのお祝いイベントのみ取りやめで、コレクションの発表は国葬があった19日に予定されたものは日にちを変えるなどしながら、できる限り予定通りで開催された。
それは華やかでお祭りみたいな面もあるけれど、そもそもロンドン・ファッション・ウィークは各媒体やバイヤーたちへの新作のお披露目する場であり、イギリスの大切なビジネスの一つでもあるという理由から。
ちょっと読みにくけれども、届いたショーのインビテーションの消印にも女王へのお悔やみの言葉が。
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もちろん遺族となった王族や特別に思い入れがある人たちへの配慮は必要だけれども、崩御の日から国葬までは国が喪に服する期間とはされていても、私を含む多くの人たちにとっては毎日の暮らしがある。日本からは「国中が悲しみに包まれていると思いますが」という内容のメールを受け取ることもあったけれども、崩御二日後に観戦を予定していた女子フットボールの試合延期を除いては、私はいつもと同じように仕事をしたり、買い物に行ったり、食事を作ったり、お茶を入れてお菓子を食べたり、掃除をしたりして普通の生活を続けていた。
一方でブランドのプレスの方たちからはファッションウィークへの参加に変更がないかと連日のように問い合わせがあった。女王の死で予定変更する人も少なくなかったのだろう。彼らはいつもに増して多忙なコレクション準備となっていたのだと思う。
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ファッションウィークがスタートしてからの最初の数日は、女王の棺が安置されていたウェストミンスターホールに前代未聞の行列ができているというニュースを横目に会場に向かった。幸い追悼の人々で混雑しているエリアから離れていて、道が混んでいたりすることもなく従来通り。会場内のスタッフの装いが黒ずくめだったけれども。
Rejina Pyoの会場にて。ゲストたちを待つプレスの人たちは皆、黒い装い。
18日の夜8時は国全体で黙祷を捧げることが提唱されていたので、コレクション会場でもその予定が組まれていたけれども場内の設備不備で時間前に入場できず。外の歩道で8時を迎えるというアクシデントもあった。
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ロンドン・ファッション・ウィークでは新作だけではなく、会場となっている普段は縁のない場所に入れるのも楽しみの一つ。
Simone Rochaのショーがあったのは18世紀築の建物The Old Bailey内のグランドホール。特にドーム状の天井は息を飲む美しさだった。
ホールへの階段にも歴史が感じられる。
ずっと見上げていたい流麗さ。
Simoneは毎回最高点を更新してくる素晴らしさだけれども、今回もまた新しい魅力を見せてくれて、最後はスタンディングオベーションも起きていた。
ボンバージャケットやパラシュートのハーネスを感じさせるディテールなど、スポーティな要素を取り入れながらもSimoneならではのロマンチックでドリーミーな世界を展開。
photography: Ben Broomfield
メンズも初登場。かっこいい!
photography: Ben Broomfield
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正面から見ただけではわからない、凝ったディテールもあちこちに。
photography:Daniel Sims
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そして時代を遡って、ある女性たちのクイアな人生を垣間見ることも。
S.S Daleyのコレクションは、20世紀初頭の詩人・作家とヴィタ・サックヴィル=ウェストと恋人のヴァイオレット・ケッペル=トレフューシスの間で交わされた手紙がインスピレーション源。二人は10代の頃同じ学校に通う恋人同士だったものの、その後は別れてそれぞれが結婚。しかしのちに再会し、フランスへ駆け落ちをする。当時は同性愛は違法だった時代。ふたりはつかの間一緒に暮らすものの、いずれは別れが来ることは分かっていて、その手紙は悲しみに満ちている。そんなエモーショナルな気持ちが、今回のコレクションに散りばめてあるという。
貴族階級出身で、男装を好んだというヴィタのイメージを彷彿とさせる服が並ぶ。うさぎは二人の手紙に度々登場するモチーフだったとか。
photography: Maja Smiejkoeska
ショーのクライマックスでは、モデルたちが二人の間に交わされた手紙を朗読。
photography: Maja Smiejkoeska
ファッションジャーナリストのチャーリー・ポーターのインスタには、モデルが読み上げた手紙のメモが。
女王の死という前代未聞な出来事のなかで開催された今回のロンドン・ファッション・ウィーク。不思議な体験だったけれども、一方でデザイナーたちの変わらぬパワーを感じられた日々でもあった。
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