息子が巣立った後、犬との暮らしが見えてきた話。
こんにちは、鈴木桃子です。アメリカ人の友人がニューヨークからパリに戻ってきて、一緒にディナーを楽しんでいた昨日。テラス席でごはんを食べていると、突然斜め向かいの道路から爆音が聞こえ、大きな火花が飛び散りました。はじめは、なんだろう?イタズラの花火かな?くらいの気持ちだったのですが、あまりに立て続けに爆発が起こり、且つ爆発地点がこっちに近づいてくるような……。あれ?何かおかしい?と思い始めたものの、事態が飲み込めず、なんとなく硬直してしまう身体。友人が「とりあえず中に入ろう」「会計してもう帰ろう」と素早く判断してくれ、私たちはすぐに店から退避しました。結局何が起こっていたかはわからなかったけれど、最近フランスで起こっている17歳の少年が警察官に射殺されたことによる抗議活動の一環だったのかもしれません。
ストライキの火災や暴徒化した抗議活動など、日本でパリの事態がニュースになる度に「大丈夫?」と友人たちから連絡をもらってきたものの、なぜか、いつも我が家の近隣は通常運転。「どこで起こっているんだろうね?」なんて、のほほんと返答していましたが、ここは異国!と改めて気が引き締まったような夜でした。「こうゆうことはニューヨークでもよくあるから」と話す、友人の咄嗟の判断力と防衛力がひたすら頼もしく感じました。
タイトルを見て、犬の話ではないの?と思われた人もいるかもしれません。安心してください、犬の話です。この友人が旅行に出ていた昨月、3週間ほど、私は彼女の飼っているジャパニーズスピッツ(イナ・3歳)を預かっていたのです。これまでの人生で飼ったものといえば、ウサギとカメという私。コミュニケーションが取れる動物を飼おうと思ったこともなかったし、まさか犬を飼うなんて想像したこともありませんでした。動物好きの息子が何度犬を飼いたいと言っても、「余裕ができたらね〜」と返答し、そんな日は来ないよと心の中で呟いていたものです。
でもパリの家はペット可能物件が多く、日本ほど厳しくないし、電車の中やカフェ、デパートでも犬を連れて歩いている人を見かけます。周りでも犬や猫を飼っている人が多くて、いかにパリがペットを飼いやすい環境なのかを実感します。息子の犬を飼いたいという本気度も見えるだろうし、よし、ものは試しだ!と思い、友人に犬を預かることを申し出たのでした。
そうして実際に預かってみてわかったのは、犬との暮らしは幸福度が100倍だということ。イナにどハマりしたのは息子ではなく、私でした。朝から「散歩はまだ?」と訴えかけてくるので、生活リズムが整って、心のゆとりが出る。散歩をするための理由ができる。ひとりで歩いている時には話すことがないようなフランス人たちとなんとなく会話をして、パリは散歩が楽しい街だと改めて気づくことができる。家に帰宅すると、ものすごい勢いで歓喜の舞をしてくれる。キッチンに行っても洗面所に行っても、ひたすら後をついてくる。トイレがしたい時には、必死な形相で訴えかけてくる。間に合わなくてベランダでおしっこをしてしまって、申し訳なさそうな顔で後をついてくる。公園に連れて行くと、開放感で嬉しそうに走り回る。世話をしたり相手をすることで喜んでくれて、それを自分の喜びとして受け取るという、忘れかけていた「育てる」ことの醍醐味を思い出した気がしました。
いつも、塩対応どころか、「ちょっと踊りたいんだけど、1時間くらい家を出て行ってくれない? ほら、このキャンディーあげるから」と言ってくるようなティーンエイジャーの相手をしている日々なので、イナの可愛らしさに癒やされたように感じました。そんな世知辛い日々でも、20歳から子どもがいない暮らしをしたことがない私には、ひとり暮らしへの漠然とした恐怖があります。とはいえ、息子にはしっかり巣立ってほしいし、子離れできる親でありたい。そこで振って湧いて出てきた、犬を飼うという選択肢。先日、インターネットを検索していて、若くして子どもを産んでひとりで育てた後、もう育てるのは疲れたと言いながら犬を飼い始めたという人の話がふと目に入ってきたのですが、私もこの人の道に続くのかもしれないなとふんわり思ったのでした。
フィガロジャポン7月号「幸せな、犬との暮らし。」でページを作っていた時よりも、犬との幸せな暮らしがもっと身近なものになったのでした。世界の犬のスナップページで、イナも出ています。
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