我想台湾

ララガンのデザイナーによる新ブログスタート!「豆花」

台北の中でもひときわクラシックな市場がある。東門市場だ。
南門市場は改装されたのに、東門は旧態依然で道は狭く天井は低いけれど、地元民にはこよなく愛されている。

でこぼこの道を少し歩くと、至ってシンプルな店構えの老牌甘蔗汁という名のお店があり、潔くさとうきびジュースだけを売っている。味はとにかく絶品。2リットルのペットボトルでのみ販売しているけれど、あっという間に飲み干してしまう。訪問の度に数回買いに行く代物。

さまざまな誘惑を交わしながら、市場の奥のほうに進んでいくと、母と私の大好物の東門豆花がある。十数名座れるほどのスペースがあり、近所の人が入れ替わり立ち代わり訪れてはさっと食べ、去っていく。

私たち家族は年に一度か二度しか食べられないので、ゆっくりと味わっていただく。

訪れる度に、台湾の人に「ここの豆花は台湾一だから!」と声をかけられるのが微笑ましい。

注文して席につくなり、お店の人がさっとお玉で茶碗に豆花を盛って、光速でテーブルに運んでくれる。いい店は手際がいい。

いよいよ、と高鳴る私の胸。

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ステンレスのレンゲで豆花を運ぶと、ツルッと口の中に滑ってきて、あっという間にほどけていく。

柔らかく煮ているけど少し歯ごたえもある、アルデンテさながらのピーナッツの食感と香り、黒糖の甘さ控えめのシロップが優しい気持ちにしてくれる。最後にピリリと生姜が喉を通って鼻に抜けていく。甘さは少しの辛さでより引き立つことを、身をもって知る。

はあーっと一息。
まだ生姜は私の鼻腔にいる。

一杯ではとても帰れないので、母と私は二杯目をいただく。
この時ばかりは二人とも欲深い。

昨今では現代的に変化を遂げた賑やかしい豆花が数々ある中で、私と母の豆花はここ一択なのだ。


コロナ禍、台湾には帰れず、この豆花を日本で食べられたら、と切望して都内を食べ歩き、今のところ二軒好みのお店を見つけた。

「東京豆花工房」
濃度高めの黒糖シロップに台湾らしいトッピングができる豆花。台湾の豆花は地瓜粉(さつまいも粉)と硫酸カルシウムで固めているのが一般的だそうだけれど、こちらの豆花はニガリを使っているそうな。更に舌触りがなめらかで、お椀ごとつるると飲み干せてしまいそうな柔らかさ。冷たい豆花には氷も乗せられる。青磁のような器も清々しい。

中国語のラジオが流れ、台湾にトリップしたかのような気分になれる。

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もう一軒は、「浅草豆花大王」
台湾好きのスタイリストさんが教えてくださった名店だ。なんと彼女はこちらで週に一度働いているそうで、彼女の台湾愛には完敗した気分。

店内には「打倒!杏仁豆腐」と書いてあるポスター。気合十分だ。
ここの豆花は石膏で固めているそうで、少し食感が硬めで食べ応えがある。トッピングはピーナッツのみで!と勢いよく注文し、いざ!生姜は控えめでシロップの味は東門に近い優しいお味。

大を頼んだが、一瞬で私の胃の中へ。

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聞けば店主は昔台湾に住んでいたそうで、幼少期に食べた豆花を再現したいと思い、お店を始めたそう。

幼少期の記憶は脳裏に焼き付いているもので、私も同じくそうだ。中、高校の記憶はすっぽりと抜け落ちているのに、幼少期〜小学生の台湾滞在時の思い出は何度も反芻する。

豆花を食べている時、母の顔が一瞬若かった頃に戻った、レンゲを持った私の手が小さくなったように、錯覚する時がある。

そうか、私は思い出を食べているのだな、と豆花を食べながら、ふと思う。

母が大好きな豆花を私も好きになり、大人になってからも母と一緒に同じ豆花を食べられることに幸せを感じてしまう。

「小話」
台湾の東門豆花の写真は台湾在住の姉が撮影してきてくれました。Instagramや、ブログ「台湾で食べまくり」を書いているのでお暇な時に覗いてみてください。

紹介したお店:
老牌甘蔗汁…住所)100 台湾 Taipei City, Zhongzheng District, 金山南路一段142巷1號
東門豆花…住所)100 台湾 Taipei City, Zhongzheng District, 金山南路一段142巷5號
東京豆花工房…住所)東京都千代田区神田須田町1-19
浅草豆花大王…住所)東京都台東区浅草4-43-4

 

高橋れいみ

群馬県で台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、自然とともに育ち、幼少期に台湾で多くを過ごした際に民族的感覚を培い、思春期にロサンゼルスに移住した事でモダニズムやヴィンテージに強く影響を受け、2016年~R.ALAGAN(ララガン)を設立。日本のジュエリー職人と妥協しないジュエリーを制作している。

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